空と地面のあいだには



 空と地面の間には、本来、なにもないのだろう。空気があるとか、細菌が漂っているとか、そういう次元の話ではない。人間がいる、動物がいる、といった話ともすこしニュアンスが異なるように思う。うまく言えないのだが、手に触れられる、目に見えるなど、子どもにもわかりやすく存在を主張するなにかが、空気のなかにあるかどうか、という話だ。

 わたしは幼少の頃からすこし特殊な体質だったようで、なにもないはずの空間に、時折「それ」の存在を感じることがあった。
 「それ」は、透明に近く、うす青い。あまりにも体が透けているから、全体像はよくわからない。どことなく魚のような、アメーバのような……海洋生物を思わせる胴体をしているように思う。

 「それ」は、通学路や庭など、晴れ渡った空間のなかに、いつのまにかいる。水のなかや、くもりの日にはいないようだ。抜けるように晴れ渡ったとてもよい天気の日に限って、この世界の空と地面の間に、漂うようにして、存在を主張する。

 どうやら私以外には見えないらしいのだが、触れてみるととても冷たく、柔らかい。ぷにぷにとした、独特の触り心地だ。意思を持っているのかいないのか、よくわからない。触るとすこし凹んでしまう気もするが、透けているので詳しく観察することはできない。

 私には「それ」が見えるのだが、見えるからといって特に生活に影響はない。時折、それを触って、柔らかさを確かめるくらいだ。正体を突き止めようと思ったことはない。また、存在を疑ったことも、やはりない。私だけが知っているものだから、名前をつける必要もない。「それ」はいつだって、「それ」という代名詞で呼ばれつづける。

 「それ」と私の間に劇的な物語は存在しない。ただ、私は思う。「それ」というものに名前をつけたり、他人に教えたりしたら、きっと「それ」は「それ」ではなくなってしまうのではないか。私だけが知っているからこそ、「それ」は透明で柔らかな、とても繊細な形状を保っていられるのだと、根拠もなく思うのだ。


20140811