『 しにがみさん 』

その日は雨となった。お誂えむきというべきなのかはわからなかったが、とにかくわたしは朝早くから葬儀の支度を始めていた。縁側から見え、聞こえる雨の音は、わたしの記憶の奥底にある兄の面影をひきずりだして、わたしに見せ付ける。ざあ、ざあ、という、意地の悪い、悪魔的な魅力を持った、音――支度を終えたときにはすっかり陰鬱な気分となっていた。しかしそれも別れの儀式には必要な気分であろう。そう思い直して家を出た。

葬儀場はわたしの知らない兄の関係者で溢れていた。彼らは、わたしの姿を見るなりぎょっとしたらしかった。
――見ろよ、あの子。
――葬式に黒い服を着てくるなんてさ。
――死神を呼ぶ色というじゃないか。黒は。
――何を考えているのだ。
――非常識な。
喧騒。わたしに向けられる差別と非難の色。当然だ。この国で、葬式の際に黒い服を着ることは絶対のタブー。死神を呼び、悪魔を呼び、災いを呼ぶ色だから。だから――あえてわたしは兄を送る服に、この黒いワンピースを選んだ。どんなに軽蔑されても構わない。わたしは、兄の敵を討つために生きることに決めた。兄を殺した憎い死神をおびき寄せるためのこの黒装束は、わたしの復讐の決意の表明。黒いワンピースはきっと災いを呼び、わたしの兄を殺した者を呼ぶに違いない。



2011年07月06日(水)
死神などと他人を表現する、
その心こそが真っ黒な死神なのだ。
さながら、私とあなたのような。