彼がうそをつくたびに、わたしの庭にひとつずつ花が咲くようになった。咲く花の種類は完全にランダムで、ハイビスカスやラフレシアが咲いたことすらある。ある意味、ギャンブルだ。この現象の理由はわからないが、彼らしいと思う。
 初めは呑気にきれいだなと思っていたが、庭の管理は熾烈をきわめた。わたしは花の専門家でもなんでもなく、趣味でガーデニングをやっているだけ。国内に存在しない花の管理法なんてわかるはずもない。図書館で調べるにも限度がある。同じ庭にハイビスカスとパンジーとラフレシアが同時に咲いているときの育て方なんてどこにも載っていない。彼に聞いてみようかとも思ったが、彼にこんな光景を見せたら嫌味になってしまいそうで、言えない。そもそも、これらが彼のせいで咲いた花だなんて、どうやって証明すればいいのか。
 さて、ある雨の日に彼が家に来た。好きだとか愛しているとか、久方ぶりの愛の言葉を並び立て、キスをしてから帰った。雨だから水やりはしなくてよいと思い、外には出なかった。その判断は正解だったと思う。雨が止んだ翌日の昼すぎ、庭には色とりどりの花が狂ったように咲き誇っていた。いつ咲いたかはわからなかったが、そんな花たちすらも彼そのもののようでいとおしいと思ってしまったのは、毒されすぎているだろうか。花に水をやることと彼を愛していることは、もはやわたしのなかでは同義だった。



うそが咲く、

20211128
文庫本1ページにおさまるサイズで、という縛りで書きました。