なまえさん。あなたを、癒奈さんのプロトタイプとさせていただきたい」
 拒否権はありません、と彼は悪びれもせず言った。
 それがすべての始まりだった。


 少女は、幼少期から不可思議な能力を持っていた。
 何の役にも立たない能力である。
 街ですれ違う他人に対して、ほんの少しだけ違和感を覚える。
 「これは本物ではない」――そう感じるだけの能力だった。
 世の中には「本物」と「偽物」がいる。彼女はずっとそう思っている。
 こんなことを他人に話しても、受け容れられないことは容易にわかる。
 聡い彼女は、それを自分だけの秘密にして生きてきた。
 自称マッド・サイエンティストの青年に会うまでは――
 
 鏡潤一郎という、見るからに怪しい白衣の青年は、なぜか少女の能力がいたく気に入ったらしい。
 戸惑いながらも、風変わりな彼との交流を楽しみ始めてしまう少女に、彼は囁きかける。

「あなたを、姉に造りかえさせてもらいたい」と――

 彼と過ごす何気ない日常に、少女は埋没していく。
 この日常のなかで、どうやら彼は待っているらしい。
 少女が自分の姉と同じものになる、その瞬間を。



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