「帰ったぜ」

玄関のドアが開く音がしたので、急いでそこまで走っていった。

「おかえり、グズマ。きょうはどうだった?」
「また負けちまったよ。あのチャンピオン、相変わらず強かったぜ」

彼は、上着を脱ぎながら居間へと向かっていく。
その後ろを、音を立てずにゆっくりと追う。
ここしばらく、『防衛戦』へと足しげく通っている彼は、きょうも負けてきたようだった。アローラ初代リーグチャンピオンは年端も行かぬ子どもだという話だが、なぜかめっぽう強い。新しい道を歩みはじめた彼には、よい目標なのだろう。負けても満足そうだ。

「グズマ、ほんと明るくなったね。ウツロイドのおかげ?」
「だれのおかげでもねえよ」

ぶっきらぼうなところは、わたしと初めて出会ったころとあまり変わらない。
あれから何年くらい経つのか……数えるのを忘れていたせいでわからない。

「……おまえは、変わらねえな。なまえ
「変わるわけないでしょ。アローラの風は、わたしのところには吹いてこないんだから」

彼の言葉を笑い飛ばしてから、わたしは冷蔵庫から作りおきの晩ごはんを一人分だけ出して、温めてからテーブルに並べていく。彼はその前に座って黙り込んでいた。
並べ終わった料理を見て、いただきますも言わずに、彼はそのまま食べはじめる。わたしはといえば、毎日繰り返される風景に、思わず笑みがこぼれてしまう。わたしがつくったごはんを、彼がこうして食べてくれるというだけで嬉しい。
しかし、彼の顔はわたしと違って晴れなかった。

なまえ。ほんとうにこのままでいいのか?」
「このままで、って?」
「おれさまの家で、毎日晩飯つくるだけの生活のことだよ」
「……それ以外にやることないし、すごく楽しいよ。あ、でも安心して。グズマに彼女ができたらちゃんと出ていくから」
「そういうことじゃねえ。今、そんな話してねえだろうが」

彼は困惑したように、あるいは不快な感情を示すように、眉根を寄せた。
……スカル団をやめて、彼は優しくなった。明確に変わった。前向きな目標を持つようになった。
ずっと見守っていたからこそ、彼がいずれこういうことを言い出すのはわかっていたような気がする。

「なぁ、おれさまは間違ってたか?」
「どういう意味?」
「おまえをここに連れてきたのは、間違いだったのか?」

そんなの、答えられない。答えられるわけがない。
この状況を幸せだと感じているわたしは……彼とは明確に違うのだから。

変わりゆくもの、変わらないもの

20191111