すべてが始まったとき、わたしは十八歳だった。
しまめぐりに失敗したあと、スーパーでバイトをしはじめた。そろそろ、ポケモンバトルに夢を見るのをやめて、現実を見なければいけない気がしていたからだ。
このころのウラウラ島には不穏な空気が満ちていた。グズマがここらに住み着きはじめたのも、同じ時期だったのだろうか。わたしは、このころの彼とは会ったことがないため、よくは知らない。
その日は異様なほどの晴れだった。
まるで、カプが与えた最後の慈悲のような快晴。

「きみ!そんなところにいてはいけない、離れて」

仕事を終え、外に出た瞬間、怒鳴り声が耳をつんざいた。
スーパーを取り囲んでいたのは、警官のような服を着た集団だった。ウラウラ島の交番の制服ではない。
首を傾げながら離れようとしたとき、急に体が宙に浮いた。
視界が青い空で満たされた。ほかのものはなにも見えない。
どんな建物よりも高く高く打ち上げられている。
なぜだ?
思考が止まる。その数秒後には地面に叩きつけられていた。
全身が痛すぎて、それ以外の感覚がまったくわからない。
このときようやく、自分が爆風でふっとばされたのだということに気がついた。

「出現。間違いありません。奴です」
「逃げ遅れている女性が数名います。スーパーのなかには子どもも」
「怪我人一名。奴の攻撃の衝撃でふっとばされました。重傷。至急応援、救護を」
「Fallの少女は喰い殺された。助かる見込みはない。このままじゃ一般人ももっと死ぬぞ!」

せわしなく通信機と会話する警官たちのなかから、ひとりだけ、こちらに向かってくる人がいた。妙に据わった、真っ赤な目をした警官だった。

「おい、大丈夫か。手当するから動くんじゃねえぞ」
「……だ、れ……?」

体全体が焼けつくように痛む。
あまりの痛さに、意識を手放しそうになるなか、わたしは切れ切れに問いかけた。

「おじさんはクチナシってんだ。そのまま、なんでもいいから喋ってろ」

淡々と話しつつ、どうやら止血をしてくれているようだ。視界が不安定でよく見えないが、手際はかなりいい。

「クチナシさん……あれは……」
「ウルトラビースト。端的に言えば……バケモンだな」
「どうして、こんなところに」
「わからん」
「わたし、死ぬん、ですか」
「……これから救護班が来る。必ず助けるからそのまま喋るんだ」

クチナシと名乗った彼がこのとき、すこし口ごもったのをわたしは見逃さなかった。だんだんと声が出づらくなってきて、彼が「なんでもいいから喋ってろ」と言った意味がおぼろげにわかる。このまま、なにも話さずにいたら……きっと死ぬのだ。
勝手に涙があふれて、視界が赤くにじんでいく。

「わたし、世界中を、旅するのが夢でした。しまめぐりは、途中で諦めちゃって、そのあとは、バイト、ばっかり。こんなところで、バイト、してなきゃ……いまごろ、は……」
「おい、目を閉じるな。起きろ!」
「……カプ・ブルル。守り神さま。たす……け、て……」

わたしの記憶はここで途切れている。次に目覚めたときには、廃墟となったスーパー・メガやすに佇んでいた。店のなかを歩き回りながら、そこが自分のバイトしていた店かもしれないと気付くまでに、一年ほど要しただろうか。メガやすにはたくさんのゴーストタイプのポケモンが生息していたが、彼らはわたしに攻撃を仕掛けてくることはなかった。
彼らが攻撃してこないのは、わたしを仲間と認識しているからだと気づくまでに、やはり数ヶ月はかかった。
その一年と数ヶ月の間、お腹が空くことも、トイレに行きたくなることも、ここから出たいと思うこともなかった。

三年目に入って、ようやく気づいた。
わたしは、十八歳のあの日……死んでいたのだと。

20191111