in summer.
夏は片思いが終わる季節である。
……なんて格好つけてみたものの、実際のところは好きだったテレビアニメが最終回を迎えたというだけの話だったりする。半年の間夢中になって視聴していたロボットアニメは、わたしの好きなキャラクターが死んで、あっけなく終わった。一年前の話だ。
相手が二次元であったとしても、そんなことに関係なく「本気の恋」というのはあるもので、それからしばらくの間、わたしは抜け殻状態だった。もうあの世界は終わりを迎えていて、その先の未来なんて微塵も存在しないのだと考えると、今でも少し泣けてくるような気がする。現実世界はどれだけ終わらせたくても終わらずにだらだらと続いていく。なのに、あの理想的に完成した世界はもう続くことがない。わたしの好きだったあの人ももうどこにもいない。ディスクをパソコンにセットすれば過去の姿はいくらでも見ることができるけれど、もう新しい表情を見ることはないのだ。永遠に。
とはいえ、いつまでもその場にとどまっていることはない。世間の多くの人間が失恋してもすぐに新しい恋に生きるように、わたしも新しい恋を見つけて生きている。大学に入り、新しい目標も見つけた。いまだに恋の相手は二次元だが、ちゃんと三次元の友達というものもできた。むろん、二次元の世界が何よりも美しくて最高だ、パーフェクトだ、という価値観は変化していない。けれど昔ほどリアルの世界を疎んではいない。リアルにはリアルの良さがある。少なくとも悪いことばかりではなくなった。
「なあ、カイセ」
わたしに声をかけつつ、松浦はつるりと音を立てて素麺をすする。その隣には、流れてくる麺をつかめずに格闘している青木がいる。なんでも器用にこなす人間かと思っていたが、意外にも彼は流れてくる素麺を箸でつかむことができないのだ……誰にでも弱点というものはあるのだな、とわたしは思う。たぶん、横でおもしろそうに青木の動きを観察している松浦も同じことを考えているのだろう。
わたしが素麺をちょいちょいつまみながら上流から流し、松浦と青木が箸でキャッチ、二人がキャッチし損ねた素麺は最後まで流れ切ってバケツのような容器に落ちる。これは捨てるわけではなく、あとでまた流しなおすのだ。ちなみに、青木は今のところ一口も素麺を食べていない。わたしは素麺を流しながら返答する。
「何? 今、素麺食べてるから後にしてほしいな」
「おまえのは素麺っていうよりただのキムチじゃねーか」
呆れたように突っ込みを入れる松浦の言うとおり、わたしの小鉢の中に入っているのは素麺つゆと大量のキムチなのだった。わたしは、素麺とキムチという組み合わせが大好きなのだ。
「素麺にキムチを入れて悪いか!!」
カッ!と威厳を込めて松浦を睨んでみた。
「悪くはないけど多すぎる」
と真面目な答えが返ってくる。実は自分でも入れすぎだと思っていた。食べきれない。
そんなかんじで、今は夏恒例・音楽研究サークル総勢での流し素麺大会の最中である。恒例といっても開催するのはまだ初めてで、そして総勢といっても最初から三人しかいない。竹でできた古めかしい流し素麺セットは大学の教師から借り受けたものだ。ところどころ傷がついて水が漏れているが、衛生上は問題なさそうだ。
「で、何?」
松浦は素麺を目で追いつつ、
「……なんで三人しかいないのに流し素麺なんだ」
と質問した。わたしが流した素麺は松浦の前を通過したが、彼はあえて箸を動かさなかった。青木に譲ったのだろう。しかし青木の箸は麺をつかめず、素麺はさらさらと流れてバケツに落ちた。
「夏の行事といえば花火と流し素麺、そしてコミケって相場が決まってるでしょう」
わたしは胸を張ってそう答えたが、「そういうもんなのか……?」と問い返す松浦は怪訝そうだ。青木は流れる素麺に精神を集中しすぎているらしく何も言わない。わたしはだめ押しに、
「そういうもんです。ちなみに花火に行くと女の子が超張り切って浴衣を着てきて、いつもとは違う服装に驚いた男子がドキドキするイベントが発生するのが少女漫画の常です」
「ギャルゲでも高確率でそういうイベントが発生するな。どうしてあいつらは普通の服を着てこないんだよ、と不思議でならない」
同意しつつ、ふむふむと頷く松浦の目は割とマジだった。論点をずらされていることに気づいていないらしい。いわゆる素直な男だった。もしくは単なる馬鹿。
「ねえ、これどうやったら取れるのかな。ぼく、もうおなかぺこぺこなんだけど」
話を遮って、青木が目線を動かさずに聞いた。わたしはもう一度素麺を多めに流してやるが、彼の箸は緩慢に水の中をゆらゆら動くだけで麺をつかめない。
「青木、箸使うの苦手なの? 実は帰国子女とか」
「そんなことないんだけど……なんで取れないのかなあ」
青木は珍しくしょんぼりしていた。感情を表に出さないのが特徴だと思っていたが、別にロボットではなかったらしい。当たり前だが。
「もう流さずに直接食べたらどうだ? ただでさえ素麺って腹にたまらないのに、一口も食べれないなんて残酷すぎるぜ」
「そうだよね。じゃあ、今から青木のところにこの素麺持っていくわ」
流そうと思っていた分の素麺を持って立ち上がろうとするわたしに、青木が「ちょっと待った」と言った。
「だめだよ。ぼくだけズルはできない」
力強く言い切られた言葉に、松浦が呆れて絶句した。わたしも同じく何も言えない。
「いや、もともと貝瀬は流さずに食ってたし、別にそのまま食っても誰も怒らないぞ」
「そうそう。遠慮なく食べていいよ」
しかし、青木の態度は揺るがなかった。
「ダメだよ! 流して食べるのがルールだって聞いたんだ」
「なんでそんなに自信満々なんだよ……」
そういえば、青木は変なところで意固地なのだった。たとえば、ゲームをクリアするのに攻略本や攻略サイトの類は絶対に見ないとか、大学のテストを受けるときに絶対に他人のノートは借りないとか、赤と白のタイルの道では白いところしか踏まないとか、そんな厳格な自分ルールを作っては忠実に守っている。今回のもそんな自分ルールの一種なのかもしれない。
「ちなみに、誰から聞いたの、それ」
青木はこう返答した。
「ひいおばあちゃんからだよ。ルールを破ったら竹やりで刺されて死ぬって言ってた」
ギャグかと思ったが、青木の目は本気だった。自分ルールではなく、たちの悪い迷信の類らしい。なんで竹やりなんだろう、と一瞬不思議に思ったが、たぶん流し素麺の台が竹製だからだろう。先の方は少しとがっているし、竹やりに見えなくもない。
松浦の方を見ると、口を押さえて震えている。笑いをこらえているらしい。
そんなのありえないから食べなよ、と言いたかったが、青木の曽祖母に悪いような気がして思いとどまる。だが、このまま何も食べずに片づけを始めたら、青木がかわいそうだ。
かといってこのあと他の店をはしごするというのも面倒。
何か他に食べるものがあれば……
…………他のもの?
「あ、そうだ。いいこと思いついた!」
わたしは頭に浮かんだ名案をそのまま口にした。
「わたしのキムチを食べればいいんじゃない? キムチは流さなくてもいいでしょう?」
「それ、貝瀬さんのじゃないの?」
青木は不思議そうに首をかしげてそう尋ねた。
「いや、調子に乗ってのっけすぎて余ってるの。食べかけだけど、それでもよければどうぞ」
「ああ、じゃあもらうよ。ありがとう、貝瀬さん」
ぱたぱたと走って来て、わたしの小鉢を持って元の場所に戻る青木。キムチをもぐもぐしている彼は幸せそうだったが、主食がキムチというのはちょっとかわいそうかもしれない。本人が幸せならいいのだろうか。
「ねえ、松浦はどう思う?」
松浦はなんだか遠くを見ているような目だった。他のことを考えているらしい。
「松浦、何ぼーっとしてんの?」
人差し指でつついてやると、はっとしたようにこちらを見て、なぜだか真っ赤になってしまった。暑いのだろうか。
「な、なんだよ。別に羨ましいとか思って、ない、ぜ」
唐突に、たどたどしくそう言いはじめた。意味がわからない。
「松浦もキムチが好きなの? 食べたいなら青木にもらえばいいじゃない」
「……好きじゃない」
「じゃあ何が羨ましいのよ」
松浦はそっぽを向いて、「別に何も」と言った。松浦が何故いじけているのかはわからなかったが、とりあえずキムチをほおばる青木はひまわりの種を食べるハムスターみたいに幸福に充ちあふれた顔をしているので、まあいいか、と思った。
ふと空を見るともう日が暮れ始めていて、入道雲がもくもくと空を覆いつつあった。おそらく、明日は雨が降るのだろう。紫色の空を眺めながら、去年、あのアニメが終わったのはそういえば今頃の季節なのだ、と思った。蒸し暑い夜、テレビにかじりついていた自分が、今は仲間と流し素麺をしている。あの頃はこんな未来が来るなんて思っちゃいなかった。たぶん、どれだけ時が経過しようと、自分は部屋に閉じこもって、アニメや特撮に夢中なんだと信じていた。どこまでもそんな変わらない自分自身が続いて、そのまま大人になって、いずれテレビの画面を見たまま死んでしまう、そんなビジョンを想像したこともある。
でも、そうはならなかった。わたしは新しい世界を手に入れた。普通の人間にとっては当たり前のことなのだろうが、わたしにとっては、これはとてもスペシャルだ。できれば、このままこの特別な日々が続いていけばいいと思う。素麺は最終的にはバケツに落ちてしまうけれど、できたらわたしの幸福は、落ちることなくいつまでも流れていけばいい。
冷たい水の中を、心地よく、さらさらと。
090619
……なんて格好つけてみたものの、実際のところは好きだったテレビアニメが最終回を迎えたというだけの話だったりする。半年の間夢中になって視聴していたロボットアニメは、わたしの好きなキャラクターが死んで、あっけなく終わった。一年前の話だ。
相手が二次元であったとしても、そんなことに関係なく「本気の恋」というのはあるもので、それからしばらくの間、わたしは抜け殻状態だった。もうあの世界は終わりを迎えていて、その先の未来なんて微塵も存在しないのだと考えると、今でも少し泣けてくるような気がする。現実世界はどれだけ終わらせたくても終わらずにだらだらと続いていく。なのに、あの理想的に完成した世界はもう続くことがない。わたしの好きだったあの人ももうどこにもいない。ディスクをパソコンにセットすれば過去の姿はいくらでも見ることができるけれど、もう新しい表情を見ることはないのだ。永遠に。
とはいえ、いつまでもその場にとどまっていることはない。世間の多くの人間が失恋してもすぐに新しい恋に生きるように、わたしも新しい恋を見つけて生きている。大学に入り、新しい目標も見つけた。いまだに恋の相手は二次元だが、ちゃんと三次元の友達というものもできた。むろん、二次元の世界が何よりも美しくて最高だ、パーフェクトだ、という価値観は変化していない。けれど昔ほどリアルの世界を疎んではいない。リアルにはリアルの良さがある。少なくとも悪いことばかりではなくなった。
「なあ、カイセ」
わたしに声をかけつつ、松浦はつるりと音を立てて素麺をすする。その隣には、流れてくる麺をつかめずに格闘している青木がいる。なんでも器用にこなす人間かと思っていたが、意外にも彼は流れてくる素麺を箸でつかむことができないのだ……誰にでも弱点というものはあるのだな、とわたしは思う。たぶん、横でおもしろそうに青木の動きを観察している松浦も同じことを考えているのだろう。
わたしが素麺をちょいちょいつまみながら上流から流し、松浦と青木が箸でキャッチ、二人がキャッチし損ねた素麺は最後まで流れ切ってバケツのような容器に落ちる。これは捨てるわけではなく、あとでまた流しなおすのだ。ちなみに、青木は今のところ一口も素麺を食べていない。わたしは素麺を流しながら返答する。
「何? 今、素麺食べてるから後にしてほしいな」
「おまえのは素麺っていうよりただのキムチじゃねーか」
呆れたように突っ込みを入れる松浦の言うとおり、わたしの小鉢の中に入っているのは素麺つゆと大量のキムチなのだった。わたしは、素麺とキムチという組み合わせが大好きなのだ。
「素麺にキムチを入れて悪いか!!」
カッ!と威厳を込めて松浦を睨んでみた。
「悪くはないけど多すぎる」
と真面目な答えが返ってくる。実は自分でも入れすぎだと思っていた。食べきれない。
そんなかんじで、今は夏恒例・音楽研究サークル総勢での流し素麺大会の最中である。恒例といっても開催するのはまだ初めてで、そして総勢といっても最初から三人しかいない。竹でできた古めかしい流し素麺セットは大学の教師から借り受けたものだ。ところどころ傷がついて水が漏れているが、衛生上は問題なさそうだ。
「で、何?」
松浦は素麺を目で追いつつ、
「……なんで三人しかいないのに流し素麺なんだ」
と質問した。わたしが流した素麺は松浦の前を通過したが、彼はあえて箸を動かさなかった。青木に譲ったのだろう。しかし青木の箸は麺をつかめず、素麺はさらさらと流れてバケツに落ちた。
「夏の行事といえば花火と流し素麺、そしてコミケって相場が決まってるでしょう」
わたしは胸を張ってそう答えたが、「そういうもんなのか……?」と問い返す松浦は怪訝そうだ。青木は流れる素麺に精神を集中しすぎているらしく何も言わない。わたしはだめ押しに、
「そういうもんです。ちなみに花火に行くと女の子が超張り切って浴衣を着てきて、いつもとは違う服装に驚いた男子がドキドキするイベントが発生するのが少女漫画の常です」
「ギャルゲでも高確率でそういうイベントが発生するな。どうしてあいつらは普通の服を着てこないんだよ、と不思議でならない」
同意しつつ、ふむふむと頷く松浦の目は割とマジだった。論点をずらされていることに気づいていないらしい。いわゆる素直な男だった。もしくは単なる馬鹿。
「ねえ、これどうやったら取れるのかな。ぼく、もうおなかぺこぺこなんだけど」
話を遮って、青木が目線を動かさずに聞いた。わたしはもう一度素麺を多めに流してやるが、彼の箸は緩慢に水の中をゆらゆら動くだけで麺をつかめない。
「青木、箸使うの苦手なの? 実は帰国子女とか」
「そんなことないんだけど……なんで取れないのかなあ」
青木は珍しくしょんぼりしていた。感情を表に出さないのが特徴だと思っていたが、別にロボットではなかったらしい。当たり前だが。
「もう流さずに直接食べたらどうだ? ただでさえ素麺って腹にたまらないのに、一口も食べれないなんて残酷すぎるぜ」
「そうだよね。じゃあ、今から青木のところにこの素麺持っていくわ」
流そうと思っていた分の素麺を持って立ち上がろうとするわたしに、青木が「ちょっと待った」と言った。
「だめだよ。ぼくだけズルはできない」
力強く言い切られた言葉に、松浦が呆れて絶句した。わたしも同じく何も言えない。
「いや、もともと貝瀬は流さずに食ってたし、別にそのまま食っても誰も怒らないぞ」
「そうそう。遠慮なく食べていいよ」
しかし、青木の態度は揺るがなかった。
「ダメだよ! 流して食べるのがルールだって聞いたんだ」
「なんでそんなに自信満々なんだよ……」
そういえば、青木は変なところで意固地なのだった。たとえば、ゲームをクリアするのに攻略本や攻略サイトの類は絶対に見ないとか、大学のテストを受けるときに絶対に他人のノートは借りないとか、赤と白のタイルの道では白いところしか踏まないとか、そんな厳格な自分ルールを作っては忠実に守っている。今回のもそんな自分ルールの一種なのかもしれない。
「ちなみに、誰から聞いたの、それ」
青木はこう返答した。
「ひいおばあちゃんからだよ。ルールを破ったら竹やりで刺されて死ぬって言ってた」
ギャグかと思ったが、青木の目は本気だった。自分ルールではなく、たちの悪い迷信の類らしい。なんで竹やりなんだろう、と一瞬不思議に思ったが、たぶん流し素麺の台が竹製だからだろう。先の方は少しとがっているし、竹やりに見えなくもない。
松浦の方を見ると、口を押さえて震えている。笑いをこらえているらしい。
そんなのありえないから食べなよ、と言いたかったが、青木の曽祖母に悪いような気がして思いとどまる。だが、このまま何も食べずに片づけを始めたら、青木がかわいそうだ。
かといってこのあと他の店をはしごするというのも面倒。
何か他に食べるものがあれば……
…………他のもの?
「あ、そうだ。いいこと思いついた!」
わたしは頭に浮かんだ名案をそのまま口にした。
「わたしのキムチを食べればいいんじゃない? キムチは流さなくてもいいでしょう?」
「それ、貝瀬さんのじゃないの?」
青木は不思議そうに首をかしげてそう尋ねた。
「いや、調子に乗ってのっけすぎて余ってるの。食べかけだけど、それでもよければどうぞ」
「ああ、じゃあもらうよ。ありがとう、貝瀬さん」
ぱたぱたと走って来て、わたしの小鉢を持って元の場所に戻る青木。キムチをもぐもぐしている彼は幸せそうだったが、主食がキムチというのはちょっとかわいそうかもしれない。本人が幸せならいいのだろうか。
「ねえ、松浦はどう思う?」
松浦はなんだか遠くを見ているような目だった。他のことを考えているらしい。
「松浦、何ぼーっとしてんの?」
人差し指でつついてやると、はっとしたようにこちらを見て、なぜだか真っ赤になってしまった。暑いのだろうか。
「な、なんだよ。別に羨ましいとか思って、ない、ぜ」
唐突に、たどたどしくそう言いはじめた。意味がわからない。
「松浦もキムチが好きなの? 食べたいなら青木にもらえばいいじゃない」
「……好きじゃない」
「じゃあ何が羨ましいのよ」
松浦はそっぽを向いて、「別に何も」と言った。松浦が何故いじけているのかはわからなかったが、とりあえずキムチをほおばる青木はひまわりの種を食べるハムスターみたいに幸福に充ちあふれた顔をしているので、まあいいか、と思った。
ふと空を見るともう日が暮れ始めていて、入道雲がもくもくと空を覆いつつあった。おそらく、明日は雨が降るのだろう。紫色の空を眺めながら、去年、あのアニメが終わったのはそういえば今頃の季節なのだ、と思った。蒸し暑い夜、テレビにかじりついていた自分が、今は仲間と流し素麺をしている。あの頃はこんな未来が来るなんて思っちゃいなかった。たぶん、どれだけ時が経過しようと、自分は部屋に閉じこもって、アニメや特撮に夢中なんだと信じていた。どこまでもそんな変わらない自分自身が続いて、そのまま大人になって、いずれテレビの画面を見たまま死んでしまう、そんなビジョンを想像したこともある。
でも、そうはならなかった。わたしは新しい世界を手に入れた。普通の人間にとっては当たり前のことなのだろうが、わたしにとっては、これはとてもスペシャルだ。できれば、このままこの特別な日々が続いていけばいいと思う。素麺は最終的にはバケツに落ちてしまうけれど、できたらわたしの幸福は、落ちることなくいつまでも流れていけばいい。
冷たい水の中を、心地よく、さらさらと。
090619