影の終わり



 ぼくは、実家の「倉庫」と呼ばれる場所で、あるものを探していた。倉庫と言っても母屋と分離しているわけではない。部屋ひとつを物置にしている状態を、ぼくの家族は「倉庫」と呼んでいる。
 母はなんでも家にためこむ性格で、そのせいか我が家にはとても物が多かった。もちろん、あの高校にまつわる思い出の品もたくさん保管されていた。途中で辞めた学校の思い出なんて、ためこんでおかれても困る。忘れてはいけない思い出は確かにあるが、忘れてしまったほうがいいこともこの世には多くあるのだから。負の思い出なんて、思い出したって何の益にもならない。
 おそらく、宮藤にだって、思い出しても仕方のない思い出はあるはずだった。
 しかし賢い彼は、ぼくと違って、そうした思い出を簡単に忘れてしまうことができない。
 それが災いして、今のような状況に陥っているのだと思う。
 ぼくは、そんな彼の心に穴を開けたいと思っている。
 きれいな風を注ぎ込み、よどんだ空気を外へと捨てる。そんな穴を。
 他人の心に穴を開けるのは、間違っているかもしれない。
 ぼくがこれからするのは、悪いことかもしれない。
 でも、やらずにはいられない。
 たとえ、無意味な自己満足であったとしても。

+++

 人混みの中を逆流すると、動かずに立ち止まっている人影を見つけた。
 ゆっくりと照準を合わせると、宮藤彰二だった。
 生気のない顔だったが、ぼくと目を合わせて挨拶をするだけの余裕はあるらしい。

 ぼくはつばを飲み込んでから、彼にこう告げた。
「今から、一緒にある場所に行ってほしい。半日ばかりかかる場所だ」
「…………」
宮藤は不可解そうに首を傾げる。ぼくはかまわずに言葉を継いだ。
「あと、家から、高校の卒業アルバム、持ってきてくれ」
「は?」
「いや、アルバムじゃなくてもいい。制服でもいいし、集合写真でもいい。高校で過ごした日々を思わせる、自分が一番大事にしてるものを持って、一時間後にここに集合だ」
彼は心から不思議でならないという表情をしていたが、ぼくの目をじっと見つめてから、黙って頷いた。

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 もしかしたら来ないのではないかと心配したのだけれど、彼は来た。
 彼が持ってきたのは卒業アルバムだった。それが彼の本当に一番大事なものなのかはわからない。ただ、持ち運びがしやすかっただけかもしれない。
「これから、キャンプ場に行こうと思う」
ぼくはそう切り出して、彼の表情を伺った。断られたらどうしようかと思ったが、彼は拒否しなかった。
「どうして?」
一言だけ質問はしたものの、「いや、答えなくていい。俺は行くよ」と言い直した。なにやら、彼にも思うところがあるらしい。

 バスに乗り、キャンプ場へ向かう。必要な手続きはすべて済んでいるから、宮藤は何もしなくていい。ただ、ついてきてくれればいい。そんなことをぼくが丁寧に説明すると、宮藤はぼんやりした表情で頷いた。
「俺の心はもう、一度折れてしまった」
と彼はぼそりと言う。おそらく、東坂あゆみにしてやられたときのことを言っているのだろう。山道で激しく揺れるバスのなかで、彼の心はぜんぜん揺れていないようだった。
「だから、今日はなんだか唐突だけど、ちょっとほっとした。おまえは、思っていたより普通だったから」
それから彼は、ぼくへの恨みのようなものをぼそぼそと、少しずつ語っていった。中途半端に理解を語ったくせに、急にいなくなったあの頃のぼく。そしてあの、些細だけれど決定的な"焚書"事件。それから彼の心は不完全燃焼のような状態になっていたらしい。あゆみに聞いていたとおりの、荒れようだった。

 ぼくらは、高校でのあの事件のあと、放火未遂の少し前までは、お互いの存在や楽しい思い出をほぼ忘れていた。覚えていたのは、よくない記憶ばかりだった。きっと、思い出したくもないエピソードに紐付けされていたから、すべてが毒に塗りつぶされたのだろう。宮藤は自分が不完全燃焼の状態にあると自覚してはいたが、あの焚書(という単語の使用法には問題があるかもしれないが、比喩表現として許してほしい)のことは忘れていたという。彼のプライドが、あのようなエピソードを忘れさせた。

「なんだか、さっきおまえの顔を見たら、急にすっきりしたんだ。不思議な話だけど、ずっとイライラしてたものが、ほどけていきそうな気がした」
たしかに、そういうことはあるだろう。ぼくにもそういう経験はあるから、よくわかった。一人の人に対して、延々とイライラを蓄えているとき、その人に会って、全部ぶっちゃけて話してしまうと、実はたいしたことではなくて、急にすっきりしてしまう、というようなことはあるのだ。もちろん、会うことによってさらにこじれることも、多々あるのだが。
 この時点で、ぼくらのあいだに生じていた様々な問題は、すでに六割くらいは片付いていたと言っていい。物語としては実にあっけない。何のカタルシスもない、とても平和な解決法だった。否、すでに解決法という体裁ですらない。人間の抱える問題というものは、そうそう劇的な解決を迎えるわけではない。自然に、ゆるやかに、惰性で終わっていくことのほうがずっと多いのだ。そんな『惰性による終わり』のきっかけを作り出すことこそが、大切なのだろう。

 キャンプ場に到着した。時間が特殊なせいか、もともと過疎地なのかはわからないが、人っ子一人いなかった。
 さっそく、ぼくは火を燃やす準備をし始めた。そのセッティングを見て、宮藤はぎょっとしたように怯えた顔になる。当然の反応だろう。彼にとって炎とは、すべての象徴であり、己の罪のしるべでもあるのだから。

「大丈夫、ぼくはきみを責めるためにここに連れてきたんじゃないんだ」

ぼくはできるかぎり優しく微笑みつつ、彼に話しかけた。

「宮藤は、自分の心が不完全燃焼なのが、たまらなく嫌だったんだろう? じゃあ、これから燃やしてしまえばいい。多少強引にでも、全部燃やせばいいんだ」

 ぼくは、この方法が正しいとは思っていない。松浦あたりが見たらカンカンになって怒るかもしれない。彼は正統なヒーローだから、きっと怒るのだろう。

 でも、これは一度折れたぼくが、宮藤のことを本当に真剣に考えた結果として導き出した、ただひとつの方法だった。
 心の折れたひねくれ者同士。ぼくらは仲間だ。形や環境は違っても、ふたりのコンプレックスは通じあっているはずだ。
 だから、賭けてみたいと思う。
 そうすることで、ぼくの青春の亡霊も、救済できるような気がした。

 ぼくは正義のヒーローではない。
 だからこそ、ヒーローとして生まれなかった人間を、助けてやりたい。

「ぼくらの嫌な思い出、ここで全部燃やしてしまおう」

+++

 パチパチと燃える火の前で、ぼくらは思い出話を始めていた。ひとつひとつ、火の中に投げ込むように。無念を、消火していくように。宮藤は自分の持ち物を火にくべることを恐れているようだったが、ぼくは小学校の頃の、ピンぼけしたようないらない写真を、一枚一枚、火の中に率先して投げ込んでいた。そうして、くだらない写真を燃やしながら、気がつけば多くの時間が流れていた。

「母は、ぼくのとった賞状なんかもすべて保存しているんだ。ほとんど、皆勤賞だの、参加賞だの、努力賞だの、そんなのばっかりなのに。でも、彼女にとってはとても大事なんだろう。こんな不肖の息子でも」
そう言って、ぼくは小学校の皆勤賞の賞状を一枚、火にくべた。この行為は非常に不謹慎かもしれないが、すこし気分が楽になった。もしかすると、ぼくは母の愛を重いと思っていたかもしれない。
 バカらしいだろ、とぼくは軽く笑ったが、宮藤はまったく笑わずにこう言った。俺はきみが羨ましい。
 彼の一人称は、「ぼく」だったり「俺」だったり、そのときどきによってブレがある。今日は、一貫して「俺」と言っていた。

「本当は、俺には語るような思い出はないと思っていたよ。親たちは俺が当然のように結果を出すものとして期待しているけれど、俺がそれに答えたところで、褒められるわけでも、なにか得するわけでもない。失敗したときにはペナルティがあるから、常に成功しないといけないってだけ」
宮藤は自嘲するように笑った。
「持っている本を全部捨てられたときも、親は俺のためを思って捨てたというより、飼っている家畜が病気になってしまったというような顔をしていたよ。おまえは、ヘラヘラ笑って買い直していて、そのときもすごく羨ましいと思った」
「ヘラヘラ笑っていた記憶はないけどな」
ぼくは冗談めかして言って、また写真を投げ込む。
「きみは、勝手だ」
宮藤はぽつりと言う。
「勝手に理解者になり、勝手に去り、今度は勝手に現れる。でも、ぼくはそんなきみの勝手さに、憧れていたかもしれない。ぼくはそんなふうに過ごしてもいいと言われたことはないから」
彼の一人称と、ぼくへの二人称が、いつのまにか変質していた。
それは、ようやく炎の向こうから現れた本物の宮藤の言葉だったかもしれない。
それからまた、思い出話に花が咲いた。ぼくも宮藤も、こんな風に過去を他人と話すことなんてないと思っていた。でも、話しだすと案外、楽しい思い出も、悲しい思い出も、すぐに見つかった。

 宮藤の話は徐々に、「現在」へと近づいていっていた。直近の思い出には、東坂あゆみとの対峙が、そして放火未遂事件があるはずだ。しかし、ぼくはその話が出る前に、彼を制止した。もう十分だと思ったのだ。もともと、彼にそのことを話させるつもりはなかった。あゆみはこの前、宮藤の心にこれ以上負荷をかけてはいけない、と言った。宮藤の心は、ぼくのと同じくらいに脆いものだからと。あの日の彼女の具体的なアドバイスはそれだけだった。

 ぼくは自分の狭い知識を総動員して、考える。
 この世界に異常者なんてものは存在しない。異常者をつくりだすのはぼくたちだ。
 存在するのは、理解できない他人を異常者として排除したがる、正常な人間だけなのだ。
 極論で、詭弁かもしれないが、そう思う。
 だから、ぼくは宮藤を責めないだろう。
 彼の有罪の証明になるものなど何もなく、
 そして自分の無罪を証明するものも何もない。
 誰もが、いつどこで、誰を殺すか、どこに放火するか、わからない。
 ぼくも、宮藤も、犯罪者になるかもしれないという部分は同じ。結局のところ何も変わらない。
 勝ち組だとか負け組だとか、そんなレッテルをすべて剥がして考えるのならば。
 彼は自分と同じだった。
 合わせ鏡でも見ているように、同一の存在だった。
 趣味にも勉学にも生きがいを見出すことができず、
 つまらないプライドを満足させることしかできない。
 反社会的衝動に身を任せるしかない。
 こんなところで母が大事にしている思い出の品を燃やそうと思った自分に、彼を断罪する権利はなかった。

 ぼくは、息を吸って、新たな話題を振ることにした。思い出話ではない。まさに「現在」の話だ。

「ぼく、今、好きな子がいるんだ。その子は『平城啓太郎』の心の弱さをわかってる」

宮藤は、なぜそんなことを言うのか、と解せなさそうな顔をしたが、ぼくの真剣な目を見て黙る。
「だから、これから向き合ってみようと思う」
ぼくはそう宣言して、最後の写真を燃やした。もはや、ぼくの手に、持参した思い出のかけらは残っていなかった。何もない両手を彼に見せて、もう過去の話はおしまいだと、暗に示した。
はは、と乾いた笑いを浮かべて、宮藤は言った。
「ま、ぼくにとってはどーでもいいけど、恋の応援くらいはしてやるよ」
思い出話は終わったが、結局、宮藤は持ってきたアルバムを燃やさなかった。彼は、ぼくほど不謹慎な人間ではなかった。
憑き物が落ちたような顔で、彼はにっこり笑った。
炎がパチンと音を立てたのが、まるでショーの終わりを告げる合図の音のようだった。

+++

 数多の思い出話をしたものの、結局、東坂あゆみの話は、一度も出なかった。宮藤は彼女が怖かったのかもしれない。とてもとても怖くて、話題に出すことすらできなかった。そんな気がする。
 ただ、あの子は悪い子じゃないから、とぼくが少しぼかして言うと、そんな気はしていた、と答えた。悪いのは自分だ、とも。
 その言葉の響きで、なんとなく、彼はもう罪を重ねないような気がした。
「ぼくの罪は、どうする?通報するか?」
きわめて冷めた口調で、彼は言った。
「罪?何のこと?」とぼくはとぼけてみせる。
「ぼくはそんな話は知らない。ただ、久々に会ったおまえと、焚き火の前で、写真を焼いて、話をしただけ。まあ、こういうよくわからないものを燃やしていたのは、キャンプ場の人に見つかったら厳重注意かもしれないけどね」
声が震えないように、注意をしながらぼくはそう言った。本当は怖かった。彼はまた同じことをするかもしれない。
 ここでぼくが何もしなかったら、次に学校が燃やされた時は……ぼくのせいだ。
 本当に、本当に宮藤彰二は――無害だといえるだろうか。
「……平城」
宮藤は平坦な口調で言う。
「メールアドレスと、電話番号、教えてくれないか」
「……は?」
予想外の申し出に、ぼくは固まった。その言葉は、予想外であるだけでなく、あまりにも彼らしさから遠い。宮藤は、そんな俗っぽい、普通のことを言うやつではないと思っていた。彼には悪いが、何か裏があるのでは、と身構えずにはいられなかった。
「この流れで、メアド? どうして?」
宮藤はまだまっすぐにぼくを見つめていた。
「……もしもまた、同じことをしそうになったら。道を踏み外しそうな予感に気づいたら。真っ先におまえに教える。必要なら、あの娘に伝えてもいい。110番通報してもかまわない。だから、教えてほしい。俺は、やっぱりおまえのこと――」
相変わらず冷たい宮藤の声が、そのとき、目の前の火のなかに飛び込んでいって、熱を帯びたように思った。
彼は嘘を言っていない。そう直感する。

「友だちだと、思うから」

 それを聞いて、ぼくは、くにゃりと笑う。
 友だち。
 その一言で、急に力が抜けてしまった。
 高校のときのぼくは、突然黙って学校を去るのではなく、こうして語り合っておけばよかったんだ。
 ぼくらは、プライドばかり大きくなりすぎて、最も簡単なことを忘れていたのかもしれない。
 ぼくと宮藤は似たもの同士で、友だち同士だということ。
 簡単で、どうしようもなく原始的な思い。
 理屈をこねる必要はない。難しいことを考える必要もない。
 ただ、ぼくを理解している彼、彼を理解しているぼく――それだけが、ふたりにとって救いになる。非常にもろい救いではあるのだが、それだけで、ぼくらは異常者にならずにいられるのだ。
 ぼくは、携帯電話を取り出し、普段ほとんど使用しない赤外線通信の機能を探しつつ、にっこりと笑った。笑うことが、できた。

「おまえの石鹸箱は、まだ毒にやられていない」
ぼくが言ったのだったか、彼が言ったのだったか。
 高校の頃にふたりが憧れた、あの殺人鬼を明るく模した陳腐なセリフが飛び出したのが、その日の忘れられない思い出となった。
 ぼくらにふさわしい、寒気がするようなセンス。
 どうやら、ぼくらの厨二病はまだ終わってはいないらしい。
 でも彼はおそらく、もう大丈夫だ。

+++

 キャンプ場から帰ってくると、まるで示し合わせたかのように部室に岡崎がいた。
「もう、学校は燃えませんよ。たぶん、ですけどね」
ぼくはそれだけを大好きな人に告げた。相変わらず目を合わせてはくれなかったが、彼女は何も言わず微笑む。
 岡崎は、直接的には何もコメントせず、「松浦先輩が帰ってくるまであとすこしですね」と話題を転換した。
 ぼくの無様な告白なんてなかったかのように、きれいな響きのセリフだった。
 その優しい言葉は、とても彼女らしいと思う。
 そのとき、ようやく、ぼくは本当の夏が来ていることに気がついた。
 セミの声が聞こえ、日が照りつける、炎のような暑い夏だった。

+++

 米国の統計において、放火の再犯率は50%を超えているという。放火犯の破壊衝動は、かなり高い確率で再び噴き上がるものなのだ。重い刑が課されるのも当然のことである。そんな放火魔になりかけた男を、ぼくは見逃したことになる。その罪はいかほどのものだろうか。
 しかし、宮藤彰二は放火犯ではない。彼が放火をしようとしていたという事実を知るのは東坂あゆみという少女だけであり、根拠は彼女の超能力という信用しがたいものだけである。あのとき、学内に大量の凶器が用意されていたとしても、それは彼の放火の意思を決定的に裏付ける絶対の証拠ではない。そして、それらの証拠はもうすでに現場にはなく、第三者が存在を確認することはかなわない。
 宮藤彰二が放火犯となりえた可能性を知る人間はおらず、発生しなかった犯罪は犯罪としては成立しない。
 もちろん、これは詭弁である。ぼくは、彼の『犯さなかった罪』の、共犯者のようなものなのだ。清々しいのにとてもうしろめたい、爆弾を抱えたような気持ちでいる。
 が、それでも、ぼくは宮藤を信じる。彼の行き場のないコンプレックスを、異常者の理解不能な欲望として片付けたくない。だって、彼と同じような破壊衝動を、ぼくも心のうちに秘めているから。

 最後に、その後の平和の話を少しだけしておこう。宮藤は大学を無事に卒業し、雑誌の編集者になったそうだ。孤高の殺人鬼、スピリチュアルカウンセリング、ノストラダムスの予言の真意、アイドルのスキャンダルに秘められた謎、他人の心を読む超能力を有する少女の話……あやしい記事が盛りだくさんのその雑誌を、ぼくは毎月購読している。もちろん、エリートである彼の父母はさんざんに嘆いたようだが、宮藤はもう彼らに屈しなかった。そして、現在の彼の楽しそうな働きぶりを見て、両親たちも黙ってしまったそうである。
 彼は、いつかまた、放火をするかもしれない。人を殺すかもしれない。でも、少なくとも今はきっとまだ、大丈夫だ。つかの間の平和が、ぼくらふたりのあいだを、透明に満たしていた。
 なお、彼の編集した雑誌は部室にもさりげなく置かれ、音楽研究サークルのメンバーが暇なときに読む格好の読み物となっている。ぼくの私物が部室に置かれるのは初めてだ。こういうのも案外悪くないものだと思いながら、ぼくはあやしげなオカルトや、オカルトが大好きな友人に思いを馳せてみるのである。


20140704

以下、いくつかあとがき・つぶやきめいたものを。 いくつかエピソードを削ったり、変更したりとさんざん苦労して生み出した話だったのですが、「平城啓太郎」をヒーローにしない、「宮藤彰二」を問答無用で物語の外へ追い出さない、というのが最低限守ろうと思ったコンセプトでした。

啓太郎は、いわゆる『まっとうな人間、常識的な人間』ではありません。「こじらせ」、「非リア」、「負け組」、「ヘタレ」、「厨二病」といった表現があてはまるような、典型的なダメ人間、社会生活不適合者です。
しかし、この世の中には、そんな彼でも行動をしなければならない局面があります。そういうとき、彼は彼なりに答えを出さなければなりませんし、その答えはおそらく常人のものとは違っているでしょう。常人はその答えを見て嘲笑し、嫌悪するかもしれないですが、しかし、それは確かに彼にとって、努力して導き出した「結論」なのです。どんなに理解が得られなかったとしても、そこに結論はあります。彼自身がそれを最良の結論だと信じる限り、おそらくその答えはずっとそこにあり続けるでしょう。

そんな感じで、オンサ54話「影の終わり」でした。
次回は、ようやく本格的な夏が到来した音楽研究サークルの日常へと回帰できたらいいなと思っています。