本物のぼくはひとりだけ



 ぼくはニートだ。それも、何も持たないニートだ。
 家族に愛されているわけではなく、恋人がいるわけでもない。
 財産があるわけでもないし、友人もいない。
 一日中、家のなかでゴロゴロして、すこし前にちょっとだけバイトして稼いだ金で、インターネットをするだけの生活。バイトに戻る気にはなかなかなれない。

 そんなぼくに、たったひとつだけ生きがいがある。
 それは、スマートフォンの画面に、こう打ち込むことだ。

「今日は誕生日だけど、ひとりで、寂しい」

 今日も、投稿画面からその言葉を送信して、スマートフォンを机に置く。
 カップヌードルを食べるための湯を沸かしていると、カップヌードルができあがる頃には、こんなリプライがいくつか届いている。

「わー、誕生日なんですね。おめでとうございます!」
「誕生日なのにぼっちとかw 仕方ないから祝ってやんよw」
「(´∀`)つ(コンビニケーキ)」

 こういった親しげな反応を返す彼らは、ぼくの友人でもなんでもない。
 それどころか、誕生日以外には会話すら交わさない。
 まったく知らない人々である。

 しかし、彼らは他人の誕生日を祝ってくれる。
 140字しか使うことのできない独自のコミュニケーションツールは、見知らぬ他人への祝福をも、普通より気軽なものにしてしまったらしい。
 そんな誰ともしれない他人からのメッセージを見ながら、カップヌードルをすすって、寝る。
 この行為こそ、コミュニケーション力に著しく欠けるぼくが生み出した、ささやかな生きがいである。

 そんなぼくは、明日の朝になったら、アカウントを切り替えて、もう一度こうつぶやくのだ。

「今日は誕生日なのに、部屋で寂しくコンビニケーキだぜ~」

 そうして、ぼくは毎日、虚しくもささやかに、他者とつながることができる。
 365個のアカウントと、そのアカウントのなかに住む、364人の架空のぼくを通じて。



20141015