「だから、俺は第一セルリアン王国からやってきた王子なんだよ。きみはホープダイヤの導きによってこの世界に生まれた、セルリアン王国のもうひとりの王子なんだ。セルリアン王国には、代々、武人の王と文人の王、ふたりの王が必要だ。しかし、跡継ぎは次々に殺され、もはや俺しか残されていない。それで、きみに助けてほしいというわけだ。こんな、異世界からやってきた男が何を言っても信じられないかもしれないが、どうか俺を信じてついてきてほしい」
青と名乗った青年は、ボクに向かってそんなふうに早口でまくしたてる。しかし、ボクは元来、のんびりとものを考える性格だ。しかも、人見知り。なかなか理解が追いつかなくて、返事をすることができない。そもそも、ボクはまだ中学一年生。もう少しわかりやすい言葉で言ってもらえないだろうか。と思うのだけれど、青年はまだまだつづける。
「セルリアン王国はね、存在するものすべてが青に満ちていて、とてもうつくしい国なんだ。きみの国では、青い自然物はあまりないと聞いて、驚いたよ。俺の国ではすべてが青いんだからね。そのなかでも特にうつくしいのが、ホープダイヤ。運命を映す石だ。この石はすべての人に運命を指し示すといわれ、呪われた石とも呼ばれている。でも、もちろん、いい運命も示してくれる。きみがセルリアン王国の王子だということとかね」
うーん、とボクは思う。この人は、何を言っているんだろう。
ボクに対して悪いことは言っていない気がするのだが、どうも設定が難解。よくわからないのだ。
「ほら。もうそろそろ時間なんだ。俺は15分しかこの異世界にとどまれない。ホープダイヤのちからで移動するための時間を考えると、そろそろ理解してもらわないと困る。それとも、きみはしゃべることができないのかな?」
しゃべることができない、というのはあながちまちがいではない。しゃべろうにも、話の内容がさっぱりわからないのだから。
そんなことを考えていると、セルリアン王国の王子の後ろから、ひとりの女の子がひょっこりと顔を出した。王子のマントがあまりに巨大だったので、後ろにそんな子がいるなんて、気付かなかった。
「こんにちは。うちのお兄ちゃんの話、わかりづらいでしょう?」
女の子は人懐っこい調子でそう言った。ボクは黙って頷く。
「一言に要約すると、うちのお兄ちゃんは、入学したばかりのあなたを部活に誘いたいのよ」
「何部なんですか?」
ボクはようやく言葉を発することができた。少女の隣で唖然としている自称王子を尻目に、少女は得意気にこう答えた。
「文芸部よ。自分で考えた物語の設定に、どっぷり浸かることができる楽しい部活。お兄ちゃんはそれをこじらせてこんなふうになってしまっているんだけど、とてもいい部活。どう?入らない?」
ボクは苦笑して、少女の頭をなでた。
「楽しそうだね。入部届はどこ?」
20141121