『 ダイヤモンドダスト 』

「愛してよ」

そう言った彼女の声は冷たい色をしていた。ひんやりとした氷のような、透明な愛だった。僕にはその色がはっきり見えるのだが、彼女には当然、そんなものは見えない。言葉の話せない僕は、ただ首を横に振るだけだ。彼女に僕の声を伝える手段は、もう永遠に奪い去られた。彼女の声は聞こえても、彼女に僕の声は届かない。無音の声でどれだけ叫んだって、彼女に気持ちは伝わらない。僕の愛は彼女には届かない。そんな愛は愛とは呼ばない。だから僕には彼女を愛せない。
「なんでよ! なんで……なんでなの……」
彼女の拳が僕の胸を叩く。息がつまりそうになる。ああ、神様。もしもひとつだけ願いが叶うのなら、もう一度、僕に声を。愛を。命を。
あるいは、死をください。
もうすでに、死んでいるようなものだけれど。
こんな生はあまりにも残酷だ。
僕が彼女をどれだけ好きでも、その気持ちは届かず。
彼女が僕をどれだけ好きでも、その気持ちに意味がない。
僕はしずしずと涙をこぼしながら、語れない愛に身を浸す。
その間にも彼女は、僕の心を無意識に踏み砕こうとする。
世界は終わる。
届かないことの分かっている愛は愛ではなく。
届きすぎる愛はすでに暴力だ。
僕らはもう、互いを踏み砕いて再起不能にすることしかできない。
おそらく二人とも、いずれ完全な硝子の粉末になって、空にばらまかれて終わるのだろう。


2011年03月29日(火)