eat me,eat you.
ぼくは久保君に、ラッピングした箱を渡す。
「これが、今のぼくの精一杯だよ。バレンタインデーのお返し!」
久保君の顔が、やかんみたいにカーッと赤に染まった。久保君、風邪ひいてるのかな。
「あ、あ、ありがとう。ありがたくいただくよ」
少し声が裏返っているようだし、やっぱり久保君は風邪気味なのではないだろうか。そんな気がする。ちょっと心配だ。
「開けてみてもいいかい?」
久保君がぼくにそう尋ねたので、頷いた。「うん、いいよ。ちょっと恥ずかしいけど」
箱を開けた久保君が、目を見開いて絶句するのが見えた。
「あの、吉井君……これは一体なんだい?」
箱の中には、綺麗な袋に詰められた白い砂のようなものが入っている。
「ぼくの生活の中で最も重要な位置を占める甘味、およびカロリー源だよ」
「それはつまり?」
「砂糖です」
信じられない、と言いたげに久保君が首を振り、そして久保君は最終的に涙目になってぼくを見た。
確かにぼくの貧乏っぷりはちょっと人とは違うかもしれない。しかし、そのぼくの貧乏のために涙目になってくれる、そんな久保君はやっぱり優しいなあ、と思う。
「吉井君……君は……」
その反応を見て、やっぱり、ホワイトデーに砂糖をあげるのは非常識だったかなあ、とぼくは反省する。
でも、これが一番おいしいと思うし、何よりぼくのおこづかいじゃキャンディーやマシュマロは買えない。
久保君は涙声でこう言った。
「大事に食べるよ。君だと思って大事に」
いや、砂糖をぼくだと思われても困るんだけど。ぼく、そんなに甘くないし。
「ごめんね、久保君。本当はもっとちゃんとしたお返しがしたかったんだけど」
久保君は「とんでもない!」と言ってから、大げさな身振りでこう言った。
「吉井君の気持ちは痛いくらい伝わったよ。というか、お返しがもらえただけで、ぼくは死んでもいいくらいなんだ」
「えっと、よくわからないけどありがとう」
そもそも、久保君にお返しをするのが正しいのかどうかよくわからなかったんだけれど、まあ、喜んでいるみたいだからいいよね。ぼくはそう結論付けた。
あのバレンタインの日にもらったチョコレートのおいしさには遠く及ばないかもしれない。
けど、吉井家の砂糖もけっこうおいしいんだぜ。なんてね。
まあ、それはぼくがいつも極限までおなかを空かせているからで、久保君にしてみればただの砂糖にすぎないのかもしれないけど――
「本当に、ありがとう」
そう言って久保君がにっこり笑った。
その笑顔がとても幸せそうだったので、ぼくは釣られて微笑んでしまった。
100313