アイスマン・ホッティとのパス練習はできればしたくない。理由はもれなくデストロイボールが飛んでくるからで、これがなかなか殺傷力の高いシロモノなのだ。最初会ったときは冷たくて常にカッコつけてるスカした野郎だと思っていたが、蓋を開けてみればアイスマンという氷のような名前とは裏腹、妙な方向に熱いデストロイ野郎だった。
 しかし普段はおとぼけキャラなんだか無口キャラなんだか天然なんだかわからないし、時々すごく冷たい面を見せることもあるような気がする。ダンにとってのアイスマンはまだまだ謎の男、ってかんじである。

 そしてその謎の男がここ最近、さらに謎の行動を取っていて、なぜかよくパス練習をしたがるのだ。どうやらこの間、ダンにパスを初めて受けとってもらえたのがよほどうれしかったらしい。最初のうちは断っていたがなかなか断りづらくなってきて、ダンは何回か練習に付き合わされている。デストロイスイッチ(という名前をつけたのはスパンキーだ)が入ると必ずデストロイボールが飛んで来るので、キャッチするよりも回避することを優先することもしばしば。「なんで取ってくれないんですかダンくん」と言いたげな恨みがましい目でこちらを見てくるアイスマンには、まず取れることを前提としたパスを回すことを覚えてほしい。だがこれまでその点に気づかずにデストロイしまくってきたアイスマンには、そのことはなかなか理解できなさそうだ。とりあえず、目標に向かってまっすぐにボールを飛ばしてくれるだけでも感謝しなくては、とダンは思っている。あのボールがもし、てんで別の方向へ飛んでいくようなノーコンだったら、被害はもっと拡大していたことだろう。

 ダンは今日も練習に付き合わされた。何度か命の危険を感じたが、無事に練習は終了したところだ。
「なあ、アイスマン」
ボールを弄びつつ、ダンは座り込んで休憩しているアイスマンに話しかける。
「おまえって本当、つかみどころがないよな」
「なんですか、いきなり」
アイスマンはきょとんとしている。
「いや、なんていうか、何考えてるのかわかんないっつーか。いろんなアイスマンがいて、どれが本当のおまえだかわかんないっつーか」
自分でも何を言っているのかよくわからなくなってきた。こんなことをアイスマンに言っても仕方ないじゃないか。せめてセラにでも相談してからにすればよかったかも、と少し後悔する。
「わたしは、いろんなダンくんがいても気にしませんけど」
アイスマンの返事はいつも飄々としていてよくわからない。アイスマンはそのまま、真顔でこう告げる。
「だって、全部本当のダンくんですから」
「おまえってまじ、よくわかんねえ……」
けど、まあいっか……とダンはふと思った。なんだか、自分の考えていることはすごく馬鹿馬鹿しいような気がしてくるのだ、アイスマンが平然と、当たり前のように何かを言うたびに。ダンの中ではぐるぐる渦巻いている真剣な悩みでも、アイスマンが馬鹿みたいに直球で、間もおかずに返答を返してくるから。ちょうどデストロイボールみたいに、まっすぐでぶれがない。アイスマンの中ではきっと、整然とした理屈があるんだろう。ダンには届かない場所に、彼はいるような気がする。彼の中には彼だけの世界があって、それがとても羨ましいことに思える。そんなアイスマンと仲間として一緒にいられることはとても幸せで、貴いことで。
 つまりは、それが答えなのだろう。
 全部、本当のアイスマンだから。
 アイスマンは黙ってしまったダンに、穏やかに言う。
「ダンくんが見ているわたしが、本当のアイスマン・ホッティですよ、きっと」
眼鏡の奥の目と、ダンの目が合った。最初は冷たい目だと思った。他人を拒絶している目だとも感じた。でも今はそうじゃない。まだ完全に気を許しているわけではないし、彼がダンに隠していることもあるかもしれない。でも、それで何がいけないというのだろう。どんな隠しごとがあったって、仲間は仲間だし、これまでのアイスマンが全部嘘になるわけじゃない。本当のアイスマン・ホッティは、確かにここにいる。
「うん」
ダンが頷くと、アイスマンは嬉しそうに歯を見せて笑った。もしかしたら、ダンに初めてパスを取ってもらえたときも、こんな風に笑っていたのかもしれない。もっと早く、受けとってやればよかったのだ。そうすれば、こんなに幸せそうに笑うアイスマンも存在するのだ、と知ることができたのだから。
 今度からは、デストロイボールもできるだけ避けずに受け取ってやろう、とダンはその笑顔を見ながら誓ったのだった。



090730


とりあえずアイスマンかわいいよアイスマンな気持ちをぶつけてみた
ダンくん!ダンくん!って言いまくるのがかわいい

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