燃えさかる炎の向こうにはあなたがいる。 わたしはあなたに会いに行く。 わたしはあなたに会いに行く。 部屋にいたくないからあなたに会いに行く。 部屋から出たくないからあなたに会いに行く。 ベッドで眠るとあなたに会える。 心地よい眠りなんて期待していない。ただ、あなたとつながるためにわたしは眠る。 眠りの中の眠りという矛盾を考えながら眠る。 眠る眠る眠る。 わたしはあなたに会いに行く。 鳥の形をした人間から逃げ延びて会いに行く。 鳥の形をした人間は包丁で刺すと簡単に死んでしまう。返り血はとても赤い。 鳥の形をした人間でも血は赤いのだなと思いながらあなたに会いに行く。 赤い血は燃えさかる炎に似ていることは考えたくないからあなたに会いに行く。 小さな階段を上ることも今は考えたくないからあなたに会いに行く。 燃えさかる炎と白い階段は少し似ていることも考えたくないからわたしは自転車に乗って走る。 自転車に乗って走ると少しだけ時間を忘れられるけれどあなたのことも忘れてしまいそうになる。だから自転車から降りてわたしはただ走る。 走って走って走って、図書館の暗い闇の中で見つけた退路の先にあなたがいる。 鳥の形をした人間が追いかけてくるのが見える。 もっと走らないと、ダメだ。 燃えさかる炎の向こうにあなたが立っていた。 その記憶は今はもうない。 一緒に宇宙へ行こうと約束した。 その約束ももう、果たされることはない。 白と黒の空間に、あなたが立っていた。窓から見えるのは宇宙。なんだか懐かしい黒い空間に、わたしとあなたを乗せた船は浮かんでいる。 あなたの両目が同時にわたしを見ることはなく、それはとても純粋に面白い事象だと感じる。 あなたの言葉がわたしに通じることはなく、まるでかつて言語を分かたれた地上の人間たちのように、あなたはただ言葉にならない言葉を紡いでつなぐ。 わたしの言葉があなたに通じることはなく、しかしそれでもわたしは必死に言葉を作っては口に出してあなたに伝達する。 わたしが何か言った言葉に対してあなたが何かを言う。何度それを繰り返しても、二人の考えることが通じ合うことはない。それはとても悲しいことだと感じる。 あなたの奏でる音色はどこまでも遠く澄んでいて懐かしいものに思えるけれど、わたしはあなたを思い出さない。思い出さなくても音色はどこまでも遠く遠く響いては消えていく。少し泣きたくなる。 泣きたくなるけれども本当に泣きたいとは思えず、暇なので包丁を取り出してみたりする。後ずさって怖がっておびえるあなたを見ていると安心する。鳥の形をした人間たちは包丁を見ても怖がっておびえて壁にぶつかったりしない。包丁を怖がるあなたはきっとわたしに近い存在なのだと思うと何だか安心する。死の淵に追いやられる怖さを知っているあなたはわたしに似ている。 燃えさかる炎の先にあるモノは何なのか、あなたはもう知っている。 白い階段から落ちた先に何があるか、わたしはもうとっくに知っている。 でもそれを考えると夢は終わってしまうから、考えないであなたと寄りそうようにして宇宙空間を眺めて過ごす。宇宙船が落ちてしまうかも、と考えると本当に落ちてしまうような気がして眠れなくなる。眠ったらきっと船はどこか遠い星に落ちてしまう。絶対に眠りたくないとわたしは思い、怖くて震えているといつのまにか隣にいるあなたも震えている。なんだかおかしくなってわたしはくすくす笑う。 いつまでも宇宙を漂っていたいとわたしは思う。 しかしいつまでも眠らずにいることは不可能で、いつのまにかわたしは白いベッドで眠っている。布団を掛けてくれたのはあなただったらいいのに。 わたしが眠っている間に、宇宙船は火星に落ちる。火の星。火星には燃えさかる炎があるような気がする。行きたくないけれど、他に行く場所ももうない。私は怯えながら星に降り立ち、そしてもう二度とあなたには会えなくなった。 燃えさかる炎の中に立っているあなたはひどく悲しげな顔をしていた。 そんなあなたを思い出したとき。白い階段を上る自分のビジョンを見てしまった。白い階段の先には何もない。そこで夢は終わった。 090416 ハマったジャンルは熱いうちに何か書いておかないと!! と思いつつ書いた先生と窓付き。 「火事を消さないと会えない」という部分を拡大解釈してます 窓つきが部屋から出られないのは現実世界の先生に当たる人が火事で死んだから…みたいな、そんなかんじの捏造設定で。 ハッピーエンドな窓付き&先生も書いてみたいなー |