ある山小屋に、一人の拳法家と一人の少女が暮らしていた。
少女は15才。彼女は幼少のみぎり、都を騒がす人斬りに親を殺され、孤児となり、ある拳法家に拾われた。
名前のわからぬ少女に、老いた拳法家は「なまえ」という名をつけた。
少女がいつどこへ旅立ってもいいように、自分の名字を与えることはしなかった。
少女は拳法家のことを「お師匠さま」と呼び、実の父のように慕った。
師は酒や賭博が大好きであったが、拳法家としてはとても強く、少女の憧れであった。
少女はずっと師と暮らしてきたため、世間知らずで、獣のような自己流の武術を操っていた。
ある日、少女の保護者である師が山の奥へと消えた。
師は用心棒として雇われ、ある人斬りを追いかけていったのだが、少女には何も言っていなかった。
まったく帰ってくる様子のない師を心配に思っていたところ、異国人の青年が訪ねてきた。
「ここに、怪しい者が逃げてこなかったでしょうか。とても危険な人物なのですが」
彼は少女に尋ねた。
李成龍、あるいは李烈火。それが彼の名であった。
李が追っているのは、都を恐怖に陥れた人斬りであった。
李の向かおうとする方角が師の消えた方角と同じであり、李の言う人斬りの特徴が師に似ていたため、少女は、李の狙いは自分の師匠であろうと思い至る。
この人を倒さなければ、師が危ない。彼女は生まれて初めて、人間を相手に戦う決意をする。
李は、なぜ少女が自分の前に立ちはだかるのか戸惑いながらも、少女と戦うことになる。
「ごめんなさい、異国の方。わたしはあなたと戦わなければならないようです」
「どうして戦わなければならないのか、お聞きしたいところですが……何を言っても聞いてはくださらないようですね。よいでしょう。全力でお相手します」
親代わりの師を守りたいという強い思いの甲斐あってか、相打ちに近い状態で勝利を得た少女は、李が追っている人斬りは自分の師とは別人であるということを知り、勘違いで彼を殺めそうになったことを深く後悔するのだった。
戻らぬ師を探すため、そして、己の正義に恥じぬ生き方をするため、少女は李の旅に同行することにした。
はたして、なまえは自らの師匠に再びまみえることができるのだろうか。