「 ニセモノな私。ニセモノを欲するあなた。ニセモノの日常。 」
泣かないで
お昼ごはんは、いつも駅のトイレで食べた。
理由? 理由かあ。なんだろう。急に聞かれるとわかんなくなっちゃうけど、えっと――わたしは一人でしかご飯を食べれないの。人の視線を感じると、胃がきゅーっとなって、何も食べれなくなる。だから、駅のトイレくらいしか、居場所がなかった。他の場所は、絶対に誰かがいるから。教室も、屋上も、駅のベンチも。学校のトイレには、かばんやお弁当を持って入ることはできないから、必然的に駅で食べることになった。
トイレでものを食べるのはいけないことだってお母さんは言ってた。けど、そんなこと言われても、他に行き場所がないんだから仕方ないじゃない。最初はおにぎりとかパンとかだったけど、今ではうどんでもスパゲッティでも、なんでもトイレで食べられる。ビニールの音を立てないように、そーっと食べるの。ゴミは、トイレに捨てれそうだったら捨てるし、無理そうだったら駅のゴミ箱に捨てる。
おかしい? あはは、あなたに言われたくないな。殺人鬼さん。
トイレでカルボナーラをすすりながら、よく思うの。この世界にはわたししかいないんだって。四角い箱の中で、わたしが何をしてるかなんて誰も知らないんだって。シュレディンガーの猫。わたしは観測されるまで何をしているかわからないし、存在してるかすらわからない、そういう存在なの。わたしがトイレの中で必死にスパゲッティを食べてることは誰も知らない。わたししか知らない。あなたも、腹を裂いてみるまで、お腹の中に赤ん坊がいるかどうか、わからなかったんでしょう? それと、同じこと。
トイレの個室は人間のお腹。わたしが胎児。
あなたは、いつかきっとわたしのお腹を裂いてしまうのでしょうね。
でも、それは正しいこと。
お腹を裂かないと、胎児が存在しているかどうか、わからないもの。
あなたが彼らのお腹を裂いたのは、腸を引きずり出したのは、けして責められることじゃない。大丈夫よ。他の誰が否定しても、わたしはあなたを否定しない。あなたの気持ち、わかる。あなたは彼女に会いたかった、ただそれだけ。
ああ、泣かないで。
あなたが泣くと、わたしも悲しくなる。
――だって、わたしはあなたの妹だから。つながってるから。
泣かないで、ほら、ねえ。
彼は泣きながらわたしを抱きしめる。
妙子、と。わたしの、ニセモノの名前を呼んで。
強く強く、背骨が折れそうなくらい力を込める。
わたしは彼の前に手を差し出す。彼は迷うことなくその指を口に含んでしゃぶりはじめる。まるで赤ん坊みたいに、無心に舐めつくす。しばらくずっとそうしていると、彼はにっこり笑った。瞳が完全に開いていて、笑顔に見えないけれど、笑顔だとわたしにはわかる。泣くことは忘れてしまったようだ。彼の脳はタガが外れてしまっているから、複雑な思考が同時に存在することができない。泣くことと笑うこと、片方しか選択できない。でもそれは純粋の証だとわたしは思う。思考や感情が混じりあうということは、感情が豊かであると同時に不純物がまじっていると言うことだ。人間らしさは、すなわち不純である。
彼は人殺しで、狂人で、もう正常の側には戻らないだろう。
わたしはそんな純粋な彼が――間違いなく好きなのだった。
100417
ヤンデレではなく狂いデレ・キチガイカワイイであるところの金田くんはどんなもんかなーって考えてたらこんな感じに。
やや変態。そして変態に付き合ってあげる主人公も変態。