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久部緑郎「らーめん再遊記」の10巻を読む。

かつて、芹沢と同じ夢を抱いた知られざる天才・原田が登場し、濃口らあめんを機に袂を分かったふたりの関係性が描かれる。
「再遊記」になってからはこういう感じの話が少なくて、「発見伝」「才遊記」と比べると情念のうねりが足りないかなと思っていたが、10巻でようやく、じっとりとした情念の話になってきて、「これだよ! 読みたかったのはこれ!!」という気持ちになった。
濃口らあめんという存在について掘り下げる話にもなっていて、目が離せない。
理想に殉じることを選んだ男と、現実と向き合うことを選んだ男が出会ったとき、なにが起きるのか。

藤本と芹沢の関係性が好きだった身としては、愛憎入り交じる原田との関係性がどこへ決着するのかはかなり気になる。
共感、嫉妬、失望が複雑に入り混じった、天才と天才のあいだでしか発生しない感情の応酬が見られて嬉しいな。
たぶん11巻はすごく荒れる展開になると思うので、ドキドキしつつ待ちたい。

#読書

増田こうすけ「あの頃の増田こうすけ劇場 ギャグマンガ家めざし日和」を読んだ。
ここ最近読んだエッセイ漫画のなかではダントツでおもしろい。
増田こうすけ先生にしか書けない、独特なテイストの作品。

漫画家生活を描くエッセイ漫画って、締切に追われたり、アイデアが出なかったり、不摂生な生活をしていたり、クズだったり、編集とバトルしたり……というようなものが多いように思うが、「ギャグマンガ家めざし日和」にはそんな片鱗はいっさいない。
呼吸をするようにギャグマンガを描いていて、受賞までの苦労なども特になさそうなのが凄まじい。
嫌なことがあっても、必要以上に深く考えずに次へ行けるような前向きなところも垣間見えて、よかったなあ。
思考回路はすごく共感できる感じで、しっとりしたトーンが好きだった。

実生活のことすらも、まるでギャグマンガ日和の一幕であるかのように、冷静に俯瞰で描ききっているところがおもしろかった。
トントン拍子にデビューが決まるくだりで、いわゆる天才的な漫画家なのだろうと思わせるが、本人がいたって淡々としていて、嫌味なところがまったくないし、自分がすごいことをしているとも特に感じていなさそうなのが、すごく増田こうすけらしいなと思った。

#読書

雨穴「変な家2 〜11の間取り図〜」を読んだ。
相変わらずスイスイ読める、気持ち悪さ強めのライトホラー&ミステリ。

問題編のおどろおどろしさは非常にいいのだが、解決編がかなり強引なため、ミステリとしてはイマイチだと思う。これは「変な家」「変な絵」の時点でそうだけど。
クイズやパズルのような話運びで、登場人物の姿がまったく見えてこなくて、それによって怖さも薄まっている気がする。
「カトリック教徒は人を殺すことはない。よって犯人ではない」などの牽強付会な推理の数々にはずっこけるしかない。
糸電話で話しながらセックスもかなり難易度高い。どんなシチュエーションなんだ。

ただし、雨穴作品は(Youtubeも含め)あくまでも軽いクイズやパズルのように楽しむのが正しいと思うので、こういう箇所に細かいツッコミを入れるのは野暮かな。
居心地の悪い雰囲気を楽しむための、ライトホラーノベル的な立ち位置で読むといい気がした。
ライトノベルとして読むには、題材が気持ち悪すぎるのがネックなのだが(児童虐待、性暴力、カルト宗教など)。畳む


#読書

「一日あたり一冊(一ヶ月あたり三十冊)」という読書目標を掲げていたが、4月はまだ、一冊も読めていない。ピンチだ。
一応、読みかけの本はいくつかあるのだが……。三十冊には程遠い気がする。
漫画かなにかで稼ごうか、どうしようか、悩んでいる。
毎年、4月と5月はなんとなく憂鬱で、すべてにやる気が出ない。どうしてなんだろうか。

#読書

5月2日発売のジャンプコミックスのラインナップがすごい。
ワールドトリガー!
暗号学園のいろは!
ドラゴンクエスト ダイの大冒険 勇者アバンと獄炎の魔王!
今買っているジャンプコミックスはかなり少ないのに、一気に3冊出るという。いきなりどうした。
充実のゴールデンウイークになりそうだが、このあとで買うものがなくなりそうでもあるなあ。

#読書

連城三紀彦の文庫本を何冊か新しく買った。
本当に今さらなマイブームなのだが、新本格推理以降の本格作品をメインフィールドにしてきたせいか、連城三紀彦は意外とノーマークだったんだよな。
今までに取りこぼしてきた作品のなかに、まだまだ自分のツボにハマるものがあるのだと思うと希望を感じる。
しかし、この登場人物たち、すぐに不倫するなあ。どうしてそんなに不倫するんだ。

#読書

連城三紀彦「夜よ鼠たちのために」を読んだ。
1986年に刊行された作品の復刊だが、令和に読んでも存分におもしろい。どんでん返しまみれの傑作短編集。
やや強引なトリックや、現在の視点から見ると古典的なトリックもある。しかし、連城三紀彦の凄まじいところは、しっとりとしたアダルトでハードボイルドな世界観、叙情的な文体で、トリックの強引さを強引と感じさせない手腕だと思う。
トリックそのものがすごいというよりも、トリックの魅せ方がとにかくうまいのだよな。
あと、濡れ場を濡れ場と感じさせない、異様におしゃれなセックスシーンも見どころ。脇を思い切り噛むとか、危険なことをしているような感じもあるのだが、それを異常だと感じさせない謎の説得力があって、世界観に呑まれる。

個人的ベストは「代役」と「ベイ・シティに死す」。特に「代役」のSFっぽさはかなりよかったなー。
80年代を感じさせるような描写は意外と少ないのだが、最後に収録されている「ひらかれた闇」はコテコテのヤンキー(?)が登場していて、急に「そういえば、80年代だったな……」と思い出させてくれる。
今年度を締めくくるのには最高の作品だった。また忘れたころに読みたい。

#読書

大槻ケンヂ「FOK46 突如40代でギター弾き語りを始めたらばの記」を読んだ。
筋肉少女帯のボーカルとして長年ライブシーンに立ちながらも、まったく楽器ができない、楽譜も読めないオーケンが、ギターに目覚めるという私小説的エッセイ。
どのタイミングだったかは忘れたけれど、オーケンのエッセイには多少の誇張やフィクションが混ざっていて、完全なノンフィクションではないよ、というような話を本人がしていた気がする。
「FOK46」はそのフィクション性に自ら着目して、あえて逆手に取り、私小説として仕上げたエッセイ……というふうに読めると思う。

タイトルからはほのぼのした印象を受けるが、内容はかなりシリアスで、40代のオーケンが体験した身近な『死』について、淡々と述べられている。
その『死』に背中を押されるような形で、ギターへとのめりこんでいく疾走感と、焦燥感。
作中でも述べられているが、40代での他人の『死』には特別な重みがあるのではないかと思う。
50代を超えれば、誰でも病気になるリスクがあり、周囲で亡くなる人も増えるだろうが、40代はまだそういう年齢ではない。しかし、30代よりは確実に死に近い。
そんな過渡期ともいえる年代のなかで、立て続けに体験した友人や家族の死。
オーケンなりのユーモアを交えつつ、死を受容し、前向きに生きていく姿に勇気づけられるし、若い頃のオーケンのエッセイを読み込んでいればいるほど、彼がこの文体を崩さずに、次のステージへと駒を進めていることに驚くはずだ。
この本は2014年発売で、すでに10年前の話なのだが、久しぶりにオーケンのエッセイを読んだ者としては、昔と変わらないオーケンのまま、着実にいい年のとり方をしていることがすごく嬉しい。

#読書

藤崎翔「逆転美人」を読む。
「世界でいちばん透きとおった物語」と同じようなワンアイデア系なのだが、「世界でいちばん透きとおった物語」のほうが構造的にはよくできていると思う。
「世界でいちばん透きとおった物語」は、謎を提示し、その謎の答えとしてトリックの内容が明かされる構造になっているが、「逆転美人」はそういうふうにはなっていないと感じられるからだ。
以下、やや批判的な感想。

ミステリーには魅力的な謎が必要であり、それに付随する問題提起や誘導も重要な要素だ。
トリックをうまく見せるには、そこにトリックがあるということを明確に読者に示す必要がある。「逆転美人」のトリックはたしかに凄まじい労力がかかっていることが示唆されてはいるが、読者への謎の提示はほとんど行われていない。
途中、些細な違和感がいくつか提示されるのみで、明確な論理を帯びた推理パートはないに等しい。
読者は読み終わってから、そこにトリックがあったということを知らされる。
そこには、トリックを解くために必要な問題提起のパートが欠落している。
もちろん、このトリックそのものは非常にクオリティが高いのだが、もうちょっとうまい見せ方があるのでは?という気持ちがかなり強い。

トリック以外の描写に不愉快なものが多く、人物にもまったく惹かれないというのもあり、やっぱりワンアイデア系はアイデアの部分以外が手抜きなものが多いかな……という体感がある。
最後に読者自身が読み解く最後のメッセージが、手記の世界を揺るがすような内容だったら、もうすこし評価が変わっていたかもしれない。この内容があまりにも普通だったので、「わざわざ読み解くほどのものではないな」と思ってしまった。
それでも、大どんでん返しのアイデアが気になって、ついつい読んでしまうのだった。畳む


#読書

かなり長い間積んでいた、連城三紀彦「人間動物園」を読む。
「このミステリーがすごい!」2003年版の7位ランクイン作品。

吹雪で交通網が麻痺した埼玉県笠井市で、汚職疑惑のある政治家の孫娘が誘拐された。
被害者の自宅には盗聴器が大量に仕掛けられており、警察は家の中に立ち入ることすらできない。
異常な状況のなかで、追い詰められていく母親と警察官たち。
彼らははたして、誘拐された少女を取り戻すことはできるのか。

いやー、変な話だった。
視点がいろんなところに飛びまくり、話もとっちらかり、なにが主眼なのかわからない迷宮へと徐々に入り込んでいく。
でも、この視点飛ばしは文章が下手だから起こっているのではなく、『人間動物園』という主軸を表現するためにわざとやっているのだと思う。

こんな面倒なことを意図的にやっているというのが、連城三紀彦らしすぎる。
全編通してあまりに読みづらいので、何度か挫折していたのだが、ようやく最後まで読めた。
ラストシーンは連城作品らしい美しさ。
ミステリ的にはトンデモ寄りの展開なのに、どこか叙情的なのがいいな。
人間ドラマとしてはかなり濃厚。
連城三紀彦にしか書けない、唯一無二の世界観を堪能した。

#読書

はやみねかおる「ぼくと先輩のマジカル・ライフ」(角川つばさ文庫)全2巻を読む。
初出が2003年ということで、「令和の倫理観に照らすとちょっとダメでは?」と思う箇所もあるが、いつものはやみねかおるのテンションで、安心して読める。

本人は自分を普通だと思っているが、実際のところはかなりの変人である語り手・井上快人。
幼なじみの川村春奈は本物の霊能力者で、霊能力を恐れない快人に好意を抱いているようだ。
快人は、大学に入学するにあたり、親からの仕送りを拒んだ結果、家賃月1万円の今川寮に住むことになってしまう。
変人だらけの今川寮のなかでも、もっとも得体のしれないオカルトマニアの変人・長曽我部慎太郎に目をつけられてしまったふたりは、「あやかし研究会」という部活に入会させられてしまう。
不可思議現象を研究しつつ、日常の謎を解いていく「あやかし研究会」。
長宗我部先輩と快人は、事件の謎を解くことができるのか。

本物の霊能力者というチートキャラを介しつつ、オカルトを理論で紐解いていく……という魅力的な導入で、なかなか好きなお話だった。
はやみねかおる作品の登場人物で大学生たちがメインというのはなかなか珍しい気がして、そこも新鮮で好きだなあ。

非常にもったいないのは、「長宗我部先輩は何者なのか?」という最大の謎が解かれないまま終わってしまうというところ。
大学に8年間通っている仙人のような先輩で、どうやらオカルトの力で人格が変わってしまうらしい、というフリだけを残し、謎めいたままフェードアウトしていくのがずるい。
夢水清志郎ポジションなんだと思うと、謎めいているほうが雰囲気としてはいい気もするが。
たぶん、シリーズ化していたらさらにおもしろくなっていたのだろうなーと思うし、そうなっていないからこそ、謎が多くて魅力的な人物に見えるというのもありそう。
今からでも続きを書いてくれないかなー、と思わずにはいられない。
「涼宮ハルヒの憂鬱」的な感じの、オカルトとミステリをミックスした部活ものとして、リブートしてほしいなー。もっとこの三人が見たい。

#読書

伊澤 理江「黒い海 船は突然、深海へ消えた」を読んだ。

2008年、太平洋上で停泊していた漁船・第58寿和丸が突如、数分のうちに沈没。17人が死亡・行方不明となる大事故となった。
第58寿和丸はもっとも安全なパラアンカーによる停泊法を用いており、突然沈むということは考えられない。特別に海が荒れていたわけではなく、周辺の僚船はまったく被害に遭っていなかった。
生き残った3名の乗組員の証言では、海には大量の黒い油があふれていたという。彼らは油のなかを必死に泳いで脱出している。
油は、おそらく第58寿和丸から流出したものと思われるが、船から油が大量にあふれているということは、船には『傷』が入っていたのではないか? なにかとぶつかり、船底に大きな亀裂が入り、沈没したのでは……と生存者たちは一様に考えているようだった。

しかし、国側が提出した報告書はずさんなものだった。生存者たちや漁船関係者の証言とはまったく噛み合わない、沈没の原因は「大きな波」によるものだという結論を提出され、当事者たちは大きく戸惑うこととなる。
5000メートル以上の深海に沈んだ船の調査も拒否され、事件は迷宮入りとなった。

波が原因で船が沈んだとは考えられない。船はおそらく、見えないなにかと衝突したのだ。
では……その『なにか』とはいったいなんなのか?
突き止めることはできないのか?
国は、なにかを隠しているのか?
忘れ去られた事件を執念で追いかける、ジャーナリストの戦いが始まる。

非常に論理的で読み応えのあるルポ。
当事者たちは事故の記憶に苦しめられているのに、報告書を作った側の人間たちは、取材に対して「記憶にない」「船の名前を聞いてもやっぱり思い出せない」と答えるシーンがたくさんあって、胸が締め付けられる。
都合の悪い真実を隠しているから「記憶にない」と言い張っているのか、それとも本当に忘れているのか。どちらにしても、当事者でないと、人はここまで残酷になれるのか……としみじみと感じずにはいられない。
国側の担当者はころころ変わっていて、ひとつひとつの事故に対してまったく誠実に対処していないということも浮き彫りとなる。黒塗りだらけの書類が提出されるくだりでは、この国が今もはらんでいる隠蔽体質について考えさせられる。

死者・行方不明者合わせて17名という大きな規模の事故であるにも関わらず、個人的にはまったくニュースで見た記憶がないなと思っていたのだけれど、当時、2008年6月8日には秋葉原通り魔殺人が起こっており、6月の報道はこの事件一色になっていたから、みんなの記憶には残っていない……という部分も、なんとも言えない悲しさがあった。

2008年の事故の3年後、2011年には東日本大震災による津波が港へと打ち寄せ、漁港の男たちは再び窮地に立たされる。しかし、この先の人生を生きていかなければならない。
過酷な試練のなかで、それでも前を向く当事者たちの姿に、胸を打たれた。

#読書

武田惇志、伊藤亜衣「ある行旅死亡人の物語」を読んだ。
行旅死亡人とは、病気、行き倒れ、自殺など、さまざまな理由で亡くなり、身元が不明のまま、どこにも引き取り手のいない死者を指す法律用語。基本的に事件性はないのだが、官報にて公表される行旅死亡人のデータには、時折、不可解なミステリーを匂わせるものがある。
「ある行旅死亡人の物語」は、ふたりの記者が、3400万円という大金を持ちながら死んだ名もなき女性の人生を追い、彼女の名前を見つけるまでを克明に描いた、執念のルポだ。

所持金3400万円、そして右手の指が一本もない。持ち物のなかには星型のペンダントがあり、ペンダントのなかには暗号のような数列が記載されていた。部屋には大きなぬいぐるみが大切に残されていた。
そんな女性の遺産の相続人を探している弁護士と接触するところから、物語ははじまる。
さまざまにもつれあう人間関係を丁寧に紐解きながら、女性の名前が発覚するくだりは、どんなフィクションよりもぐっとくる。
もちろん、ノンフィクションなので、判明しない点も多いのだが、それも含めて、ひとりの人間の生の厚みを感じられて、読み応えがあった。

どんなに隠れて生きようとしても、その人が働いたり、近所の人と話したり、家賃を払ったり、買い物をしたり……どこかで他人とのつながりが生まれる。
もしかしたら、自分もいつかは行旅死亡人のひとりになるかもしれないけれど、だれかが足跡をたどってくれたなら、きっとそこかしこに生きた証があるはずだ。
ありふれたものかもしれないけれど、自分にもそんな痕跡が残されている。
自分が死ぬ日のことを想像して、世界のスケール感に圧倒される。そんな本だった。

これを読んだあと、行旅死亡人データベースを閲覧してみたのだが、病気、孤独死、自殺などのありふれた死因とは別に、「ホルマリン漬けにされた胎児」、「江戸時代に死んだと推定される人骨」、「ゴミ捨て場に捨てられた火葬後の遺骨」など、さまざまな行旅死亡人のデータがあって、データベースを読んでいるだけでも、「こんな人生もあるんだな」と世界が変わっていくような感覚があった。

やっぱり、ノンフィクション本は視界が急激に広がるような感覚があって、小説とはべつの手応えがあるよなー、としみじみと思った。
また、おもしろいノンフィクションが読みたくなる。

#読書

北沢 陶「をんごく」を読んだ。
第43回横溝正史ミステリ&ホラー大賞受賞作。
大正末期の大阪を舞台とした、静かで美しいホラー小説。
関東大震災で妻を亡くした壮一郎のもとに、妻そっくりの『なにか』が帰ってくる。
果たして、それは本当に妻なのか。
妻だとしたら、彼女をこの世につなぎとめるものはなんなのか。
死を自覚していない霊を喰らうエリマキという人外とともに、壮一郎は謎を追いはじめる。

怖さを期待して読み始めたが、実際のところは美しさが勝つ感じで、グロかったり怖かったりする要素は薄め。
静かにひたひたと満ちていく、狂気的な雰囲気がいい。
大阪をこういうふうにしっとりとした雰囲気で描く作品って、どちらかというと少ないほうだと思うので、ステレオタイプの打破という観点でも嬉しい一作だった。
エリマキというキャラクターが強烈に魅力的で、このままエリマキを主人公としてホラー連作にしてほしいという願望を持たずにはいられないが、ラストがきれいにまとまっているため、エリマキはこれ以上出さないほうがすっきりするかも、という気持ちもある。
デビュー作でここまで凄まじいクオリティのものを出してしまうと、このあとの期待値の上昇はえげつないのでは、と思う。次回作にも期待したい。

#読書

アンデシュ・ハンセン「スマホ脳」を読む。
狩猟生活をしていたころと、人間の肉体の仕組みは変わらないのに、生活の内容が激変したことで、ギャップによる不調が生まれるのだということを丁寧に説明してくれる良書。
人間の体の仕組みと、スマートフォンがそこに与える負荷の内容を解説してくれているため、単なる感情としてのスマートフォン憎し、デジタル憎しというだけではなく、科学的に実証されている害がわかる本となっている。
スウェーデンでは、ベストセラーとなったこの本に基づいた教育が行われており、子どもへデジタルがもたらす害が日本よりもちゃんと意識されているらしい。

スマートフォンやSNSを売り出している側の人たちは、自分の子どもにはデバイスを触らせないようにしている……というあたりの話は、やはりスマートフォンもSNSも、ドーパミン依存を生み出す麻薬のようなものなのかな、と思わせる。
また、幾多の研究を元に、「うつの人がスマートフォンをよく触る」のか、「スマートフォンをよく触るからうつになる」のか、卵と鶏、どちらか先なのかに慎重に言及してくれるところも、誠実で好きだった。

意外だったのは、スマートフォンを『触る』ことで、脳の機能が低下したり学習効果が落ちたり、メンタルの状態が悪くなるだけではなく、寝る部屋や学習スペースにスマートフォンが『置いてある』だけで、睡眠の質や学習効果が大幅に低下するというくだり。
人と雑談しているときに、机の上にスマートフォンを置いておくと、雑談の内容がつまらなく感じる、というのも驚きだ。
スマートフォンのアラームを、無料で使える目覚ましとして活用している人はかなり多いと思う。
が、ドーパミンの素が枕元に置いてあるだけで、脳がドーパミンを意識して気が散ってしまい、睡眠の質は低下する。
目覚まし時計を購入し、スマートフォンを寝室から追い出すだけで、睡眠の質は大幅に向上するということになる。
ちょっとやってみたいが、スマートフォンの目覚まし機能が生活に根付きすぎていて、いまから時計に切り替えるのは勇気がいるなあ。

#読書

谷川俊太郎・ブレイディみかこ「その世とこの世」を読んだ。

詩人とライター。価値観も世代も異なるふたりの往復書簡。
谷川さんは詩によって、ブレイディさんは文章によって、互いの思考を手繰り寄せ、連想ゲームのように先に進めていく。
往復書簡とは銘打たれているものの、ふたりの会話は噛み合っているようで噛み合っておらず、相手の話題のなかから興味のあるワードを抜き出して、自らの思考にうまく絡めていくというやりとりになっているのが、リアルで読み応えがあった。

ブレイディみかこさんの書く、現代社会の問題を冷静に見つめているテキストが大好きなのだが、そこに観念的な谷川さんの詩を組み合わせたことで、他に類を見ない特殊な読書体験となったような気がする。
ふたりがさまざまな引き出しをランダムに開け、記憶を紐解いていくのを横目に、読者も一緒に自分の体験や知識の引き出しを開けていくことになる。
これはまた、しばらくしたら読み返したい本だなあ。

#読書

杉井光「世界でいちばん透きとおった物語」を読む。

いわゆるワンアイデア系。
アイデアそのものはインパクトがあり、一読の価値はあると思う。前フリの段階で多少の予想はついてしまうのだけれど、ここまで徹底しているとは思わず、かなり驚かされた。
しかし、ワンアイデア系全体に言えることだけど、キャラがアイデアのために右往左往しているような雰囲気があり、感情移入したり、人間関係を楽しんだりという感じの小説ではない。
「このあと、なにか仕掛けがあるんだろうな」ということは帯やあらすじの情報からよくわかっているので、それを待ち構えてしまっていると、余計に人間関係が薄く感じてしまうんだよな。
こういう宣伝を読まないまま、まっさらな状態で読んでみたいなと毎回考えてしまう。

あと、帯や宣伝文句で過剰に煽られすぎていて、読み終わったときに「こんなもんか」と思ってしまうという問題もある。
これは小説の内容が悪いというよりも、こういう煽りで売ろうとすることそのものの問題だと思われる。
宣伝が激化しすぎて、すべてのハードルが上がりすぎている。

1日でサクッと読める軽い文体なので、ワンアイデア系が好きな人にはおすすめ。

#読書

西堀亮「芸人という病」を読んだ。
思わぬところから、とんでもない良書が飛び出してきた。
『笑いながら読み進めると、突然“真の豊かさ”を問われる哲学の書。』という若林さんの推薦文がついているのだが、本当にそんな本だった。

世に出ている芸人本は、バカ売れした人のものがほとんどだと思う。
しかし、世の中に存在しているほとんどの芸人は、売れていない。
売れているのはほんの一握りの人だけで、あとは地を這いずるようにして生きているはずだ。
ランジャタイやマヂカルラブリーやモグライダーが売れたことによって、ホームとなる劇場を持たない『地下芸人』という存在にスポットが当たった今こそ、売れていない芸人を主役にした本が出てもいいのではないか。
そんなふうに思っていたときに、この本が発売された。

「芸人という病」は、マシンガンズの西堀さんが、売れないまま何十年も経ってしまったおじさん芸人たちにひたすらインタビューをしていくという構成になっている。
「R-1の芸歴制限に達したことで、R-1に挑まなくてよくなって安心した」というような、意識低い系芸人トークが繰り広げられ、みんな、芸人としてはどう頑張っても食っていけなさそうなのに、どうしても芸人をやめられない。
やめられない理由はそれぞれ違っているが、芸人であることが、すでに『職業』ではなく『生き方』になってしまっていて、どれだけ赤字になってもやめられないという話はおもしろかった。
彼らは惰性で芸を続けているだけで、「絶対にM-1で優勝する!」というような大きな夢はすでに持っていないし、モチベーションもない。
M-1で優勝した錦鯉を見て羨ましがったり、自分もワンチャンあると思ったりはするが、いたってマイペースな暮らしをつづけている。
でも、芸人であるだけで幸せそうで、満ち足りて見える。

われわれは、老後に備えて2000万円の貯金があること、定職があること、結婚して子どもがいることなどを勝手に幸せに必要かもしれない条件だと思っているが、お金もろくに持っていないし、定職もないままおじさんになってしまった彼らが、サラリーマンよりも幸せそうに見えるのはなぜだろう。
だれにも注目されなくても、『芸人である』というただそれだけのことで満ち足りてしまうのだとしたら、そこにはどんな魔法があるのだろう。
西堀さんの淡々とした語りが彼らから引き出す価値観は、どう見ても異様だが、妙に安心感のあるものだった。
幸せとはなんなのか。芸人とはなんなのか。若林さんの言うように、これは哲学だ。
風呂のない部屋に住んでいても、借金がたくさんあっても、その日暮らしでも、彼らは芸人であるだけでこれまでと同じ日々を生きていける。
世界情勢が悪化し、世の中が暗くなっていくなか、それでも幸せに生きていくにはなにが必要なのか。
自分らしさを見失わないためには、どう生きればいいのか。
そんなことを考えさせてくれる本だった。

#読書

芝田 優作「ドラゴンクエスト ダイの大冒険 勇者アバンと獄炎の魔王」9巻を読む。

勇者アバンにはいろんなキャラが出てきて嬉しいけど、推しは時系列的に100%出られないんだよね……と嘆きながら毎回読んでいたが、9巻では推しのコンパチが出てくるというサプライズがあった。嬉しい!でも不穏!
彼の存在そのものがハドラーの変化を表しているような気がして、かなり不穏である。

そろそろ終わりそうだな?とずっと思っているけど、なかなか終わらない。
終わってしまうと楽しみが一つ減るので、できるだけ長くやっていてほしい。

ハドラーの性格が変わってしまった(のか?)きっかけのようなものが、次の巻では語られるのかなー。
「あれ、この人って原作だとどんなんだったんだっけ?」と原作を読み直したくなる、良スピンオフだと思う。

#読書

宮口 幸治「どうしても頑張れない人たち ケーキの切れない非行少年たち2」を読む。

前作ほどのインパクトはないが、少年たちの発達や事情に寄り添っていた前作とはスタンスを変えて、そんな少年たちを支援する側にはどのような心構えが必要なのか、という視点で書かれている。

保育や教育現場での支援の必要性が主に書かれているが、大人の職場でも似たような現象は起きている。
「本当に支援を必要としているのは、この人は支援したくないなと思うような嫌なことをする人」だというくだりは、日常で起きたあれこれを思い出して、「そうだよな~」と思わされた。
なにをどう教えても、絶対に失敗してしまうようなタイプの境界知能や発達障害の人って、どの学校にも職場にも一定の確率で現れるのではないかと思うけれど、そういう人は非常に無愛想だったり、挨拶ができなかったり、空気が読めなくて場を凍りつかせることを言ってしまったり、攻撃的だったりと、仕事以外の行動にも問題があることが多い。
それによって、「この人とは一緒に働きたくないな」という空気が徐々にできあがり、致命的なミスが積み重なり、やがて退職したりさせられたりしていく。

でも、本来、そういう「この人と働きたくないな」と思わせる人には、周囲の理解と協力が必要だ。
そうでなければ、違う職場で無限に同じことを繰り返すだけになってしまう。
愛想がよくて気配りができて、「この人と働きたい!」とみんなが思うような人には、たぶん支援はいらない。

しかし、この『支援』を実現するのは非常に難しいと思う。
支援者を支援する人の存在が必要不可欠だし、その人たちにもケアが必要となるかもしれない。
社会全体がこういう境界知能の人を忌避し、学校や職場から追い出しているからこそ、少年院や刑務所に入ってしまうことになり、そこからの復帰も遠のいていく。そうなる前に、どこかで誰かが支援する必要がある。
個人個人の問題としてではなく、社会全体で考えていかなければいけない問題だと思った。
社会を構成する一員として、考えさせられる一冊。

#読書

T長「殺し屋はスマートウォッチに逆らえない」全2巻を読む。

Xは、どんな獲物も絶対に逃さない最強の殺し屋だ。
しかし、彼にはある欠点があった。
彼は、スマートウォッチのリングを閉じることを生きがいにしており、時計から出される指示を最優先にして行動してしまう、とんでもない『スマートウォッチおじさん』だったのだ……!

年末年始、いろいろな本を用意していたのに、なんだかんだであまり読めず、スーパー銭湯でだらだらとギャグ漫画を読むのが読書はじめになってしまった。
でも、バカバカしくて、それでいてスマートウォッチ関係の描写はすごく細やかで、おもしろかったなー。
スマートウォッチを買ったことがある人なら必ず一度は陥るであろう、生活よりもスマートウォッチを優先してしまう瞬間を切り取りまくっていて、その滑稽さやナンセンスさにすごく共感する。
「宇宙戦艦ティラミス」や「聖☆おにいさん」的な、細かいバカバカしさが好きな人にはハマりそう。スマートウォッチおじさん、かわいい。
すでにFitbitを持っているのだが、アップルウォッチを買いたくなってしまった。
西部劇っぽい世界観なのに、実は埼玉が舞台で、山田うどんとベルクがあるのも笑ってしまう。埼玉の治安は悪い。

#読書

年末年始に読むための本を着々と準備している。
が、毎年、たいして読めないのが年末年始というもの……意外と、本を読んでいる心の余裕ってないんだよな。日数も少ないし。
でも、用意するのはすごく楽しいし、夢が広がるので、とりあえず揃えられるだけ揃えている。

#読書

ひそやかな楽しみとして、kindle本集めという趣味がある。
昔好きだった漫画や、無料キャンペーンの1巻やインディーズものなどをひたすらに集め、長い休みのときや長距離移動のとき、お金がないときなどにたまったものをダラダラ読むという。

有料のものから無料のものまで、むかしからコツコツと集めつづけて、現在、4149冊ある。
そのうち、既読マークがついているものは840冊。
5冊に1冊しか読まれていないのだが、読むことよりも、集めることに意義があるという感じで、黙々と収集しつづけている。
場所を取らないので、狭い家の本棚に4000冊が蓄積していくよりはいい趣味なのではないかと思う。

#読書

好きなジャンプ漫画を挙げると好みがわかるらしいので、ちょっとだけ挙げてみたい。
一応、最新刊か最終巻まで全部読んでいるのが条件ということで。

◆桂正和「電影少女」
たぶん、人生で最初に好きになったジャンプ漫画。
世代ではないんだけど、親戚の家に置いてあって、読みはじめたら沼だった。
ラブコメとしてもSFとしても良質で、作画のレベルも非常に高く、これ以降、ラブコメ漫画を読むときのハードルがとんでもなく上がったことだけは間違いない。あと、すごくエロい。

◆葦原大介「ワールドトリガー」
言わずと知れた、良心の塊みたいな漫画。
とにかくすべてにおいて読者に優しいのが本当に好きなんだけど、それを抜きにしても戦略やキャラクター描写に深みがあり、何度読み返しても楽しめる理想の漫画。バトルも人間関係も、ぜんぶおもしろい。

◆沼駿「左門くんはサモナー」
これもまた、優しさの塊のような漫画。
すごく絆の深いバディで、「男女コンビだけど恋愛では全然ないよ!!」という関係が好きな人にはたまらない。絵柄もかわいいし、いろんな配慮にあふれていて大好き。

◆松井優征「魔人探偵脳噛ネウロ」
最初は「なんか、変な漫画はじまったな……」くらいの感じだったのに、まさかこんなにおもしろくなるとは。大化け漫画。
ギャグの温度もちょうどいいし、バディものとしてもおもしろく読めて、推理好きとしても嬉しい。段階を踏んでどんどんおもしろくなるのも熱い。

◆藤崎竜「WaqWaq―ワークワーク―」
これは完全に性癖で選んでいる。
個人的にヘキすぎる女主人公だったので、もうそれだけで最高。
世界観のヘンテコっぷりも好き。
「封神演義」を途中で離脱したのにワークワークは大好きという変な人、たぶん世界で自分くらいのものではないかと思う。

◆暁月あきら・西尾維新「めだかボックス」
当初は雲行きが怪しかったが、球磨川さんが出てきたあたりから大化けしたと思う。
西尾維新らしさの残るバトル要素と異能力要素が楽しかった。
キャラの掛け合いの温度もちょうどよくて好きだったなー。
「暗号学園のいろは」も今後が楽しみ。

◆天野明「家庭教師ヒットマンREBORN!」
当時、このためにジャンプを買っていた。
当初はキャラ萌え漫画だと思いこんでいたんだけど、テコ入れされて以降、激アツの少年漫画に変わっていったのがすごかった。読み応えある。

◆久保帯人「BLEACH」
BLEACH・銀魂・デスノあたりの直撃世代なのだが、そのなかで一番刺さっていたのは、やっぱりBLEACH。
今でも純粋に、漫画として上手すぎると感じる。
リアルタイムで連載を追うのはきつい時期もあったかもしれないが、完結後に読むのなら文句なしの名作。
後乗せっぽい設定がどんどん魅力的に見えてくるあたりとか、特に終盤にかけてのあれこれが、凄まじくセンスあるよなー。

◆番外編:さんげりあ「処刑の密室」
「電影少女」と同じく、性癖開花のきっかけっぽい漫画。
「ジャンプコミックス」という括りに入れていいものか悩むので、番外編とした。
こんなの、小学生に読ませたらダメだろ!!!と読み直すたびに思う。
今読んでも十二分にテンションが上がる。エロのポテンシャルがすごすぎる。畳む


#読書

白井智之「エレファントヘッド」を読んだ。「ミステリが読みたい!2024」第7位。
以前から気になっていた白井智之、初読み。
これは本ミス上位に食い込むのでは……!?と心の底から思う、素晴らしい出来の多重解決エログロ鬼畜ミステリ。
ただし、エログロ描写がけっこうキツイのと、主人公の倫理観に非常に問題があるのとで、手放しでおすすめはできない。

なにを書いてもネタバレになりそうで、言及できるポイントが少ないのが惜しいのだが、多重解決もので、すべての解決にそれっぽい論理が付与されており、真相が二転三転していくのは本当にハラハラドキドキでおもしろいよなー。お得感ある。
また、主人公が飛び抜けた鬼畜すぎて、もはやなにをしでかしても「まあ、こいつはそうだろうな」とだんだんどうでもよくなってくるのが最高。
倫理観のない主人公だと「主人公に共感できなすぎて嫌だ」と思うような人もいそうなんだけど、「エレファントヘッド」の場合、突き抜けすぎて、もはや共感がどうこうとかそういう次元にはないと思う。逆に「もっとやれ~!」と応援したくなったりもする。
それでいて心理描写は意外とちゃんとしているというか、臨場感があるんだよなあ。「アメリカン・サイコ」を見ているようだ。
これまでにない唯一無二の読書体験で、エログロに耐性あるミステリ好きなら絶対おすすめな1冊。
「名探偵のいけにえ」も読みたいな。

#読書

「美内すずえ傑作選 1 妖鬼妃伝」を読んだ。
「妖鬼妃伝」「白い影法師」「みどりの炎」というホラー作品3本を収録。

3本ともかなり丁寧に恐怖を表現していて、特に表題作「妖鬼妃伝」は非常に怖い。
閉まったあとのデパート! 地下鉄の奥にある魔界! 人形! 平安時代から残りつづける怨念!!
もはや怖い要素しかない。
今は大人だから冷静に読めるけど、10代のころに読んだら3本ともトラウマものだと思う。
デパートと地下鉄を両方入れるのは欲ばりすぎでは?と思うが、どっちも怖いから仕方がない。

「少女時代に読んでトラウマになったホラー漫画スレ」というようなネット話題で、よく「妖鬼妃伝」と「白い影法師」が挙げられていた記憶があるんだけど、どっちも美内先生の作品だとは知らなかった。
むかしの少女漫画はガチでホラーなものが多かった気がする。
どのあたりの年代からホラーがなくなってしまったんだろうなー。

#読書

とよ田みのる「これ描いて死ね」を3巻まで読んだ。マンガ大賞2023大賞受賞作。
とよ田みのる先生の作品は、かつて大好きだったのだが、最近はまったく読んでいなかった。久しぶりに読んだら、やっぱり大好きなやつだった。絵もお話も大好き。

伊豆王島に住む女子高生・安海相は、生涯をかけて愛している漫画の作者・☆野0の新作が十年ぶりに出ると聞き、海を越え、コミティアへ向かう。
そこで、☆野0の正体が、相の学校の教師である手島零だということを知る。
日頃から『漫画は無駄なもの』だと力説する手島が憧れの漫画家であったという事実に驚愕しつつ、相は、手島や仲間とともに『まんがを作る』ことを志しはじめる。

無限の可能性を秘めた『漫画』という存在とともに歩む、少女たちの『まんが道』。
売れることではなく、人の心を動かすことに重きを置いており、自分の人生を変える、たったひとつの運命的な漫画との出会いがドラマティックだ。
どんなに絵が下手くそでも、コミティアで1冊も売れなくても、たったひとりの心を動かすことができればいい。
相の下手くそだけどパワフルな漫画が、みんなの心を動かし、人の行動すらも変えてゆくのがすごく気持ちいいし、勇気をもらえる。
漫画に限らず、創作をするすべての人の心を揺さぶる、最高の作品だと思う。
4巻まで買ったけど、もったいないので、4巻はちびちびと読んでいる。

#読書

澤村 御影「准教授・高槻彰良の推察7 語りの底に眠るもの」を読む。
異世界行きエレベーター、生贄を求めるヌマの主、人魚の肉レストラン。
今回は3本とも凝っていておもしろくて、よかった。
結局は怪異よりもヒトが怖い系の話が多くて、個人的には好みだった。
それでいて、藍色の瞳のもうひとりの高槻や、本物の人魚の肉を食べた人など、怪異成分もしっかりあるのが熱い。
ちょうど、ちいかわで人魚の肉編をやっているところなので、人魚の肉で八百比丘尼になる話はタイムリーだった。

#読書

早池峰キゼン「テンバイヤー金木くん」を読んだ。全5巻。

前々から評判がよくて気になっていた、社会派お仕事コメディ。
なんと、お仕事の内容は転売。
小学生でありながら、転売による荒稼ぎを繰り返す金木くんと、金木くんの転売の使いっ走りとして雇われた大友。
ふたりが転売を通し、さまざまな仲間と出会い、商売のノウハウを学びながら己の価値観をすこしずつ塗り替えていくという、コメディなのにいろんなテーマを内包している、攻めすぎた漫画。

おもしろいのは、「転売ヤーはなぜ存在しているのか?」「転売はなぜやってはいけないのか? やってもいい転売とはなにか?」「転売をやめるために必要なものはなにか?」という三点について、全編を通して定義づけし、深掘りしているところ。
オタクは、転売は転売であるだけで悪であると考えがちで、その先を深く突き詰めて考えることって、あまりないと思う。ある意味、思考停止状態にあることが多い。
でも、転売しているのは人間であり、彼らにはそれぞれ転売に至る事情がある。
その事情を知らないままでは、転売をなくすことはできないのではないのか?
そんな深層へと踏み込んでいく構成、そして転売へと立ち向かう勇気が生まれていく展開、とても読み応えがある。
転売屋の事情やノウハウを丁寧に暴き尽くしたうえで、最後にこの漫画が選んだ結論には、読者も立ち止まって考えさせられる。
金木くんの仲間として、古着転売系インフルエンサー、骨董品屋さんが登場するのも、読者の倫理観を揺さぶる要素が丁寧で楽しい。
そういえば、骨董品を売るのも、ある意味転売なんだよなー。
古着はOK、骨董品はOK、生活必需品はNG、新品ゲームもNG。
どれも買った金額より高値で売るということには変わりないのに、どうして新品ゲームはNGなんだ? 自分の倫理観の基準はどこにあるんだ……と、読者の感覚に働きかけて思考させるのがおもしろい。

この作品において、『貧困』はかなり重要な要素である。
転売の引き金となるものはたいてい貧困だったりするが、その貧困の背後にある格差社会や裏社会、貧困を食いものにしている人間の存在まできっちり見きっているのがいい。
「転売しているのは、貧困層かモラル皆無層、ほぼそのふたつしかない」というくだりは興味深い。
モラル皆無層はどうしようもないが、貧困層が転売をするのは社会問題。
貧困そのものをなくしていかないと、結局、転売はなくならないし、社会全体のモラルもなくなっていく。
スキルなし、経験なし、人脈なしの状態である程度のお金を稼ぐために、もっとも効率がいいのは転売行為であるという事実は揺るぎない。
それをなくすためには、社会の構造を変えるしかないのだ。

序盤で金木くんが「子どもが新品のゲーム本体を買ってもらえるような家は、すでに裕福で幸せな家なのだから、一回ゲームが買えなかったくらいたいしたことない。それよりもお金が必要な人のところにお金を回すべきだ」というようなことを言うくだりがある。
これは転売屋の詭弁でありながら、貧困者の本音でもあると思う。
その日を生きるのに必死な人が、他人の家庭の子どもの幸せにまで気を回せないだろう、という。
お金がないだけではなく、心が貧しいから、生きるのに必死だから、転売に手を染めてしまう。
金銭的に充実するだけではなく、心を豊かにしなければ、転売はなくならない……じゃあ、心を豊かにするには、どうすればいいのか?
転売に嫌悪感を持つ人にこそ読んでほしい、全力で描かれたお仕事漫画だった。畳む


#読書

汀こるもの「五位鷺の姫君、うるはしき男どもに憂ひたまふ 平安ロマンチカ」をようやく読み終わった。
買ったのはだいぶ前のはずなのだが、序盤からなかなか入り込めず、すこしだけ読んでは脱落を繰り返し、たぶん3回目くらいのチャレンジで完読。
以下、ややマイナス要素もふくむ感想。

「探偵は御簾の中」シリーズは平安時代の倫理観と現代の倫理観のキワを攻めていくお話で、すごく楽しかった。
五位鷺にもその片鱗が見え隠れしており、陰陽師は実際には平安京でなにをしているのか、などのくだりはとてもおもしろい。読み応えあり。

しかし、時代物としては地の文がうるさすぎて、集中しづらかった……。
こるもの先生のマシンガントークのテンションには慣れているつもりだったが、セリフのなかにまで現代用語が入り込みまくりなのはさすがに読みづらい。
強姦未遂された相手を好きになるというような筋書きも感情移入しづらくて、手が止まってしまった。
強姦描写はもうちょっとソフトにしてほしいが、これが平安時代のリアルでもあるだろうから、バランスが難しい。
このへんの話を「これが平安時代なんですよ!!!! 現代とは違いますよね!!!!」と丁寧に解説してくれている「探偵は御簾の中」、改めてすごいな。確実に進化している。

メインキャラに魅力があまりないのも手伝って、ライト文芸としてはなかなかに攻略難易度が高い本だと個人的には思う。特に明空は、最後まであまり好きになれなかった。
ただ、最後まで読むと、人物の印象が一気に逆転して、読者が見ていた風景が切りかわる仕掛けが仕込まれているため、序盤だけで心折れてやめるのはもったいないのも確か。
ちゃんと最後まで読めてよかった。畳む


#読書

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