2022年5月23日の投稿[1件]

散田島子「#わすれてしまうわたしたち」を読んだ。

《2019年前期・第75回ちばてつや賞一般部門》大賞受賞作。
推し変と炎上、代替可能な推しについての話。
女の子と女の子の組み合わせで、百合っぽい雰囲気になっていて非常に良い。

人は自らの欲望を満たすために推しを推す。
推しが一人いなくなれば、以前の推しによく似た新しい推しを探して推すだけ。
ひとつひとつには、すごくのめりこんでいるはずなのに、以前の推しに対する愛情や記憶はどんどん薄れていく。
でも、本当に推しに救われた人だけは、忘れずに覚えているはずだ。

「だから 大丈夫だって みんな明日には忘れてるから」
初めて会った日、人ごみで気分が悪くなって吐いてしまったLPEに対して、主人公はそう言って励ます。
その後のLPEは、どんどんファンから飽きられ、忘れられ、推し変されていく。
ファンの薄情さに呆れ、彼女はキャラを捨て、配信で本音をぶちまける。
「ほんとさ~何でだろうね あの頃一生LPEちゃん推します! とか言ってた人たちほぼもう推し変してるんだよね~あれだけ濃いキャラ付けしてやってたのにみんな忘れちゃうんだ~っていうね 悲しいしむかつく~」
LPEが死を決意した日、彼女から溢れでたのは、「忘れられたくない」という強すぎる思いだった。

彼女がどれだけ忘れられたくないと思っても、みんなLPEを忘れて、次の推しへと向かっていく。
それでも、彼女を忘れなかった主人公と再び出会ったあとのラストシーンでは、かつての主人公の励ましをなぞるように、LPE自身の口から、忘れられることの希望が語られる。

「大事な人に忘れられてしまうことの悲しみ」と「どんなにつらいことがあっても、どうでもいい人たちはみんなそのうち忘れてくれるという希望」が両方とも丁寧に語られていて、すごく好きだった。
推しにまつわる悲しい思い出を持つ人もたくさんいる現代社会で、「人生を先に進めるために、つらいことを忘れてもいい」「忘れられる方が幸せなこともあるんだ」と語りかけてくれる、優しい作品だと思う。

#読書

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