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2022年9月25日
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2022年9月25日(日)
高瀬 隼子「おいしいごはんが食べられますように」を読了。
第167回芥川賞受賞作。
芥川賞にしては普遍的で読みやすいテーマを扱っているし、タイトルもキャッチーですごくいいと思う。
が、タイトルと表紙のファンシーさに惹かれて読み始めると、予告なく奈落へと突き落とされる。
見た目はかわいいが、心と体が弱く、片頭痛などを理由に仕事を何度も早退してしまう芦川。
自分も頭痛持ちなのに、芦川の仕事の穴埋めをするためにずっと我慢している女性社員の押尾。
芦川の仕事のしわ寄せにモヤモヤしつつ、彼女の可憐さに惹かれてもいる男性社員の二谷。
物語はこの三名を中心に進んでいく。
守ってやりたくなるような、可憐で弱い芦川に対して、職場の人たちはすごく甘い。
二谷は芦川のかわいさに惹かれて彼女と付き合いはじめるが、食に対する価値観がまったく噛み合わず、心のなかでは充実した食事への価値観を持つ彼女への憎悪を募らせる。
押尾はそんな二谷と逢瀬を重ねながらも、肉体関係は持たない。
押尾もまた、食に対する同調圧力や、彼女を特別扱いする職場に耐えられず、芦川を憎悪していた。
『かわいくて弱い』というだけで、他人よりも得をする人間というのは確実にいて、そういう人が職場をクラッシュしてしまったとき、犠牲になるのはその人本人ではなく、その人を疎外しようとした側である……という状況が非常にリアルだ。
最適な結婚相手として選んだ芦川のことを憎悪しつつ、肉体関係を持たないことを選んだ押尾を食事の価値観が合う相手として付き合いつづけるという二谷の行動はやや極端なのだが、でも、打算的な人の人生ってこういう形なのかもしれない……という気もする。
食事そのものを憎悪しているような二谷の思考の内容はやや現実離れしていて、「こういう人いる!」というレベルではなくなってくるのだが、芦川に関してはこういう職場全体へと負担を強いるタイプの人はどこにでもいるので、わりと「あるある」キャラだなと思う。
芦川本人はまったく悪い人ではない。むしろ漫画のヒロインのような人間だと思う。
だが、みんなに守られ、庇護され、仕事では優遇され……そういう人が職場の全員に生菓子の差し入れをしてくる(高カロリーかつ、今日中に食べなければ悪人扱いされる)……という人物造形は醜悪そのものであり、こういう人がかわいがられる背後で、確実に苦しんでいる人がいるよね……ということがありありとわかる。
そのヒリヒリするようなリアルさが非常に秀逸。
芦川が負の感情を持たないようなかわいらしい人間でありつづけられるのは、彼女の周囲にいる押尾や二谷が負の感情を肩代わりしているからなのかもしれない。
個人的には、その日のうちに食べなければならないようなものや、手作りのお菓子を職場に頻繁に持ってくる芦川の行為は想像力に欠けていると思う。
ダイエット中の人とか、糖尿病の人とか、甘いもの苦手な人とか、衛生観念にうるさい人とか、いろいろいるはずなのに、問答無用で持ってくる上に、それを断ったり捨てたりするといじめ扱いされるというのは非常にエグい状況である。まあ、職場のゴミ箱に捨てるのはよくないけど……。
たまにならともかく、毎日のように持参されたらと思うとなあ……。
どこの職場にも、芦川のような人って大なり小なり確実にいるので、そういう職場での理不尽なしわ寄せを経験したことがある人には、非常に刺さる小説なのではないかと思う。
二谷と押尾はそれぞれの視点での話が展開されるが、芦川が視点の話がないという構成もおもしろく、芦川がこの状況のなかでなにを考えているのかは明かされることがない。
ブラックボックスのように不気味で、それでいてとてもかわいらしい……という印象的なキャラクターになっている。
#読書
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芥川賞にしては普遍的で読みやすいテーマを扱っているし、タイトルもキャッチーですごくいいと思う。
が、タイトルと表紙のファンシーさに惹かれて読み始めると、予告なく奈落へと突き落とされる。
見た目はかわいいが、心と体が弱く、片頭痛などを理由に仕事を何度も早退してしまう芦川。
自分も頭痛持ちなのに、芦川の仕事の穴埋めをするためにずっと我慢している女性社員の押尾。
芦川の仕事のしわ寄せにモヤモヤしつつ、彼女の可憐さに惹かれてもいる男性社員の二谷。
物語はこの三名を中心に進んでいく。
守ってやりたくなるような、可憐で弱い芦川に対して、職場の人たちはすごく甘い。
二谷は芦川のかわいさに惹かれて彼女と付き合いはじめるが、食に対する価値観がまったく噛み合わず、心のなかでは充実した食事への価値観を持つ彼女への憎悪を募らせる。
押尾はそんな二谷と逢瀬を重ねながらも、肉体関係は持たない。
押尾もまた、食に対する同調圧力や、彼女を特別扱いする職場に耐えられず、芦川を憎悪していた。
『かわいくて弱い』というだけで、他人よりも得をする人間というのは確実にいて、そういう人が職場をクラッシュしてしまったとき、犠牲になるのはその人本人ではなく、その人を疎外しようとした側である……という状況が非常にリアルだ。
最適な結婚相手として選んだ芦川のことを憎悪しつつ、肉体関係を持たないことを選んだ押尾を食事の価値観が合う相手として付き合いつづけるという二谷の行動はやや極端なのだが、でも、打算的な人の人生ってこういう形なのかもしれない……という気もする。
食事そのものを憎悪しているような二谷の思考の内容はやや現実離れしていて、「こういう人いる!」というレベルではなくなってくるのだが、芦川に関してはこういう職場全体へと負担を強いるタイプの人はどこにでもいるので、わりと「あるある」キャラだなと思う。
芦川本人はまったく悪い人ではない。むしろ漫画のヒロインのような人間だと思う。
だが、みんなに守られ、庇護され、仕事では優遇され……そういう人が職場の全員に生菓子の差し入れをしてくる(高カロリーかつ、今日中に食べなければ悪人扱いされる)……という人物造形は醜悪そのものであり、こういう人がかわいがられる背後で、確実に苦しんでいる人がいるよね……ということがありありとわかる。
そのヒリヒリするようなリアルさが非常に秀逸。
芦川が負の感情を持たないようなかわいらしい人間でありつづけられるのは、彼女の周囲にいる押尾や二谷が負の感情を肩代わりしているからなのかもしれない。
個人的には、その日のうちに食べなければならないようなものや、手作りのお菓子を職場に頻繁に持ってくる芦川の行為は想像力に欠けていると思う。
ダイエット中の人とか、糖尿病の人とか、甘いもの苦手な人とか、衛生観念にうるさい人とか、いろいろいるはずなのに、問答無用で持ってくる上に、それを断ったり捨てたりするといじめ扱いされるというのは非常にエグい状況である。まあ、職場のゴミ箱に捨てるのはよくないけど……。
たまにならともかく、毎日のように持参されたらと思うとなあ……。
どこの職場にも、芦川のような人って大なり小なり確実にいるので、そういう職場での理不尽なしわ寄せを経験したことがある人には、非常に刺さる小説なのではないかと思う。
二谷と押尾はそれぞれの視点での話が展開されるが、芦川が視点の話がないという構成もおもしろく、芦川がこの状況のなかでなにを考えているのかは明かされることがない。
ブラックボックスのように不気味で、それでいてとてもかわいらしい……という印象的なキャラクターになっている。
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