2023年3月15日の投稿[1件]

片瀬 チヲル「カプチーノ・コースト」を読んだ。
久しぶりに、これは自分のための物語だと思った。すごく心にしみる。

パワハラに傷つき、会社を休職している早柚(さゆ)は、海中に腕時計を落としてしまったことをきっかけに、海辺のゴミ拾いをはじめる。
浜には、他にもビーチクリーンを行う人々がいて、早柚は彼らと交流しながら、自分の本当の居場所を探し、さまよう。
この手の話は、新たに出会った人々との交流から人脈が広がっていって心が癒やされるというような安直なストーリーになりがちだと思うのだけれど、本作では、早柚は結局ひとりぼっちのままだ。そこがすごくリアルで好きだった。

ビーチクリーンの作業は彼女自身を深く癒やすものではあるけれど、そこで出会う人々とは気が合わないことも多い。
彼女が『正しくない』パワハラに苦しんで海へと足を運んだのは、ゴミを拾う作業は絶対的に『正しい』からだった。
『正しさ』に敏感になりすぎた彼女は、他人の中にすこしでも『正しくない』部分を見つけると、過剰に忌避してしまう。
どの人間関係も、相手の『正しくなさ』への嫌悪感からほとんど広がりを見せない。

でも、現実には、『正しい』だけの人なんていないのだ。
人によって『正しさ』の基準も違うし、自分にとって『正しくない』考え方を嫌悪していては、人間関係は築けない。
相手の『正しくない』部分を受け容れて前に進む。それが早柚に本当に必要な行為なのだけれど、心が深く傷つきすぎると、人は『正しくなさ』を受け容れることができなくなる。きっと、彼女がそうできるようになるには、まだ時間が必要なんだろう。
過剰に『正しさ』が求められる令和の時代にぴったりのお話だったと思う。

#読書

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