2023年11月8日の投稿[1件]

早池峰キゼン「テンバイヤー金木くん」を読んだ。全5巻。

前々から評判がよくて気になっていた、社会派お仕事コメディ。
なんと、お仕事の内容は転売。
小学生でありながら、転売による荒稼ぎを繰り返す金木くんと、金木くんの転売の使いっ走りとして雇われた大友。
ふたりが転売を通し、さまざまな仲間と出会い、商売のノウハウを学びながら己の価値観をすこしずつ塗り替えていくという、コメディなのにいろんなテーマを内包している、攻めすぎた漫画。

おもしろいのは、「転売ヤーはなぜ存在しているのか?」「転売はなぜやってはいけないのか? やってもいい転売とはなにか?」「転売をやめるために必要なものはなにか?」という三点について、全編を通して定義づけし、深掘りしているところ。
オタクは、転売は転売であるだけで悪であると考えがちで、その先を深く突き詰めて考えることって、あまりないと思う。ある意味、思考停止状態にあることが多い。
でも、転売しているのは人間であり、彼らにはそれぞれ転売に至る事情がある。
その事情を知らないままでは、転売をなくすことはできないのではないのか?
そんな深層へと踏み込んでいく構成、そして転売へと立ち向かう勇気が生まれていく展開、とても読み応えがある。
転売屋の事情やノウハウを丁寧に暴き尽くしたうえで、最後にこの漫画が選んだ結論には、読者も立ち止まって考えさせられる。
金木くんの仲間として、古着転売系インフルエンサー、骨董品屋さんが登場するのも、読者の倫理観を揺さぶる要素が丁寧で楽しい。
そういえば、骨董品を売るのも、ある意味転売なんだよなー。
古着はOK、骨董品はOK、生活必需品はNG、新品ゲームもNG。
どれも買った金額より高値で売るということには変わりないのに、どうして新品ゲームはNGなんだ? 自分の倫理観の基準はどこにあるんだ……と、読者の感覚に働きかけて思考させるのがおもしろい。

この作品において、『貧困』はかなり重要な要素である。
転売の引き金となるものはたいてい貧困だったりするが、その貧困の背後にある格差社会や裏社会、貧困を食いものにしている人間の存在まできっちり見きっているのがいい。
「転売しているのは、貧困層かモラル皆無層、ほぼそのふたつしかない」というくだりは興味深い。
モラル皆無層はどうしようもないが、貧困層が転売をするのは社会問題。
貧困そのものをなくしていかないと、結局、転売はなくならないし、社会全体のモラルもなくなっていく。
スキルなし、経験なし、人脈なしの状態である程度のお金を稼ぐために、もっとも効率がいいのは転売行為であるという事実は揺るぎない。
それをなくすためには、社会の構造を変えるしかないのだ。

序盤で金木くんが「子どもが新品のゲーム本体を買ってもらえるような家は、すでに裕福で幸せな家なのだから、一回ゲームが買えなかったくらいたいしたことない。それよりもお金が必要な人のところにお金を回すべきだ」というようなことを言うくだりがある。
これは転売屋の詭弁でありながら、貧困者の本音でもあると思う。
その日を生きるのに必死な人が、他人の家庭の子どもの幸せにまで気を回せないだろう、という。
お金がないだけではなく、心が貧しいから、生きるのに必死だから、転売に手を染めてしまう。
金銭的に充実するだけではなく、心を豊かにしなければ、転売はなくならない……じゃあ、心を豊かにするには、どうすればいいのか?
転売に嫌悪感を持つ人にこそ読んでほしい、全力で描かれたお仕事漫画だった。畳む


#読書

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