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2024年3月8日
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2024年3月8日(金)
伊澤 理江「黒い海 船は突然、深海へ消えた」を読んだ。
2008年、太平洋上で停泊していた漁船・第58寿和丸が突如、数分のうちに沈没。17人が死亡・行方不明となる大事故となった。
第58寿和丸はもっとも安全なパラアンカーによる停泊法を用いており、突然沈むということは考えられない。特別に海が荒れていたわけではなく、周辺の僚船はまったく被害に遭っていなかった。
生き残った3名の乗組員の証言では、海には大量の黒い油があふれていたという。彼らは油のなかを必死に泳いで脱出している。
油は、おそらく第58寿和丸から流出したものと思われるが、船から油が大量にあふれているということは、船には『傷』が入っていたのではないか? なにかとぶつかり、船底に大きな亀裂が入り、沈没したのでは……と生存者たちは一様に考えているようだった。
しかし、国側が提出した報告書はずさんなものだった。生存者たちや漁船関係者の証言とはまったく噛み合わない、沈没の原因は「大きな波」によるものだという結論を提出され、当事者たちは大きく戸惑うこととなる。
5000メートル以上の深海に沈んだ船の調査も拒否され、事件は迷宮入りとなった。
波が原因で船が沈んだとは考えられない。船はおそらく、見えないなにかと衝突したのだ。
では……その『なにか』とはいったいなんなのか?
突き止めることはできないのか?
国は、なにかを隠しているのか?
忘れ去られた事件を執念で追いかける、ジャーナリストの戦いが始まる。
非常に論理的で読み応えのあるルポ。
当事者たちは事故の記憶に苦しめられているのに、報告書を作った側の人間たちは、取材に対して「記憶にない」「船の名前を聞いてもやっぱり思い出せない」と答えるシーンがたくさんあって、胸が締め付けられる。
都合の悪い真実を隠しているから「記憶にない」と言い張っているのか、それとも本当に忘れているのか。どちらにしても、当事者でないと、人はここまで残酷になれるのか……としみじみと感じずにはいられない。
国側の担当者はころころ変わっていて、ひとつひとつの事故に対してまったく誠実に対処していないということも浮き彫りとなる。黒塗りだらけの書類が提出されるくだりでは、この国が今もはらんでいる隠蔽体質について考えさせられる。
死者・行方不明者合わせて17名という大きな規模の事故であるにも関わらず、個人的にはまったくニュースで見た記憶がないなと思っていたのだけれど、当時、2008年6月8日には秋葉原通り魔殺人が起こっており、6月の報道はこの事件一色になっていたから、みんなの記憶には残っていない……という部分も、なんとも言えない悲しさがあった。
2008年の事故の3年後、2011年には東日本大震災による津波が港へと打ち寄せ、漁港の男たちは再び窮地に立たされる。しかし、この先の人生を生きていかなければならない。
過酷な試練のなかで、それでも前を向く当事者たちの姿に、胸を打たれた。
#読書
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第58寿和丸はもっとも安全なパラアンカーによる停泊法を用いており、突然沈むということは考えられない。特別に海が荒れていたわけではなく、周辺の僚船はまったく被害に遭っていなかった。
生き残った3名の乗組員の証言では、海には大量の黒い油があふれていたという。彼らは油のなかを必死に泳いで脱出している。
油は、おそらく第58寿和丸から流出したものと思われるが、船から油が大量にあふれているということは、船には『傷』が入っていたのではないか? なにかとぶつかり、船底に大きな亀裂が入り、沈没したのでは……と生存者たちは一様に考えているようだった。
しかし、国側が提出した報告書はずさんなものだった。生存者たちや漁船関係者の証言とはまったく噛み合わない、沈没の原因は「大きな波」によるものだという結論を提出され、当事者たちは大きく戸惑うこととなる。
5000メートル以上の深海に沈んだ船の調査も拒否され、事件は迷宮入りとなった。
波が原因で船が沈んだとは考えられない。船はおそらく、見えないなにかと衝突したのだ。
では……その『なにか』とはいったいなんなのか?
突き止めることはできないのか?
国は、なにかを隠しているのか?
忘れ去られた事件を執念で追いかける、ジャーナリストの戦いが始まる。
非常に論理的で読み応えのあるルポ。
当事者たちは事故の記憶に苦しめられているのに、報告書を作った側の人間たちは、取材に対して「記憶にない」「船の名前を聞いてもやっぱり思い出せない」と答えるシーンがたくさんあって、胸が締め付けられる。
都合の悪い真実を隠しているから「記憶にない」と言い張っているのか、それとも本当に忘れているのか。どちらにしても、当事者でないと、人はここまで残酷になれるのか……としみじみと感じずにはいられない。
国側の担当者はころころ変わっていて、ひとつひとつの事故に対してまったく誠実に対処していないということも浮き彫りとなる。黒塗りだらけの書類が提出されるくだりでは、この国が今もはらんでいる隠蔽体質について考えさせられる。
死者・行方不明者合わせて17名という大きな規模の事故であるにも関わらず、個人的にはまったくニュースで見た記憶がないなと思っていたのだけれど、当時、2008年6月8日には秋葉原通り魔殺人が起こっており、6月の報道はこの事件一色になっていたから、みんなの記憶には残っていない……という部分も、なんとも言えない悲しさがあった。
2008年の事故の3年後、2011年には東日本大震災による津波が港へと打ち寄せ、漁港の男たちは再び窮地に立たされる。しかし、この先の人生を生きていかなければならない。
過酷な試練のなかで、それでも前を向く当事者たちの姿に、胸を打たれた。
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