2024年6月27日の投稿[1件]

クワハリ・出内テツオ「ふつうの軽音部」を2巻まで読んだ。
前から気になってはいたんだけど、一気に読むとめちゃくちゃおもしろかった。

やや渋めの邦バンドが好きな鳩野ちひろは、高校に入学して心機一転、ギターを買って軽音楽部に入ることにした。
中学時代のトラウマを払拭し、新たな青春を手に入れるためにあがくちひろの前には、個性豊かすぎる部員たちが次々と現れる。
バタバタと追い立てられるようにバンドを結成したちひろたちの青春の行方は……。

どこかで見たようでいて、どこでも見たことのない音楽部活漫画で、切り口がすごく楽しい。
大人数の部活動で、それぞれ自由にバンドメンバーを集めてバンドを結成するのだが、早々に人間関係でモメたり、たいして本気じゃないやつが抜けていったり、色恋沙汰でいなくなったりと、「そうそう、『ふつうの部活動』ってこんなもんだよね……!」というリアルな質感が半端ない。
部活漫画における部活動って、なぜか登場人物がみんな本気であることを前提に描かれていたりしがちだけど、ふつうは、運動部でもない部活にそこまでマジになるやつ、たぶん半分もいないんだよな……。
部活動というものが、特別な時間ではなく、学校における生活の一部なのだという認識が、部活漫画という媒体においては剥がれ落ちていることが多いのだが、「ふつうの軽音部」の部活動は、高校生活の一部におさまっていて、ベタベタしていないのがいいなと思う。
陽キャによる陰キャへの悪意なき見下しの描写も、それを悪い意味で捉えすぎてドツボにハマる陰キャの描写も、現実にありそう。

あと、軽音部でやる曲が有名バンドのコピーばかりで、オリジナル曲的なものはあまりなさそうなのも、「それっぽい」なと思う。
バンドものの漫画やアニメってオリジナル曲をやりがちだけど、やる気のない人たちが集まって組んだバンドで、そうそうオリジナル曲なんてできないのでは?という。

しかし、「ふつうの軽音部」のすごいところは、露悪的なテーマを取り扱っているわりに、登場人物たちはさわやかで、そんなに度を越して嫌な人はいない(※ただし、ヤバい人はいる)というところ。
露悪をやり抜くと、ギトギトとして読む人を選ぶ漫画になるのが当たり前であるはずなのだが、なぜか読後感は非常にさわやかで、全然ギトギトしていない。
はとっちが熱い努力家だというのが大きいとは思うけれど、それ以外の登場人物も、特別ヘイトを集めるような人はいない。
露悪的なのにキャラへのヘイトがないというのは、不思議で、矛盾しているように思える。でも、実際そうなんだよなあ。
「こいつヤバそうだな」と思うようなキャラでも、そのキャラの心情描写にフォーカスされると実は意外とふつうな考え方だったり、ハメられただけだったりと、過剰に嫌なキャラを作らないように、ヘイトの量を細かくコントロールしている気配があり、このテクニックだけで唯一無二の漫画だと感じる。
「部活で嫌なことがあったら、退部すればいいや。辞めてもなにも変わらないし」という身軽な雰囲気が随所に漂っており、「そこまでマジな気持ちで読まなくてもいいよ、たかが部活内の揉め事だよ」と読者に語りかけてきている気もする。

なお、一番の危険人物である厘ちゃんは、あまりにも考え方が異次元すぎるので、ヘイトとかそういう感情には至らない。
一人だけ異能力バトルの能力者が混ざっちゃっている感じで、こういうところもバランスいいなと思う。
厘ちゃんがもっと陰湿でリアルに嫌な人だったら、たぶんこの漫画の読後感は一変する。
「ふつうじゃない」厘ちゃんがもっと見たい。
続きも楽しみ。畳む


#読書

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