2024年7月8日の投稿[2件]

アニメーション映画「音楽」(2020年)を見た。
主演が坂本慎太郎ということで、坂本慎太郎ファンとしてはいつか見なければと思っていた。ようやくの鑑賞。



三人の不良が思いつきで始めたバンド「古武術」がフェスに出るまでのお話。
単なる思いつきであり、音楽の知識もないため、彼らの奏でる音色は、およそ「音楽」とは呼び難い代物になってしまう。
しかし、本人たちは、その演奏を「最高の音」だと呼び、ブチ上がる。自己肯定感の塊なのである。
さらに、校内でフォークソング専門のバンドを組んでいる「古美術」から絶賛されたことで、「古武術」は地元のフェスに出ることになってしまう。
はたして、音楽知識のない三人組はフェスで成功をおさめることができるのだろうか!?

バンド結成ものとしては異色の展開であり、シュールギャグと捉えられなくもないのだが、ロックの初期衝動に従い、挫折することもなく、自分の信じる「最初の音」だけを武器に突き進む三人の姿は、感動的ですらある。
「ガールズバンドクライ」にしろ、「BLUE GIANT」にしろ、「ふつうの軽音部」にしろ、音楽ものの作品は、自分が下手であることや、周囲から評価されないことに思い悩み、鍛錬を重ねなければいけないというセオリーがあるのだが、「音楽」はそうしたセオリーにはまったく縛られることがない。「初めて音が鳴った! おれが鳴らした!」という、たったひとつの感動が彼らの原動力なのだ。
その音を他者と比べて落ち込むことはないし、それが下手だという価値観すら持ち合わせていない。成り上がる必要もない。
自分が自分を肯定している。それだけで十分すぎるくらい、十分だ。
これがロックでなくて、なにがロックだろうか?

また、「音楽」において非常におもしろいのは、「古武術」をフェスにまで押し上げてしまった「古美術」の森田さんの存在である。
フォークソングを愛する森田さんは、今までずっと自分の音楽を信じ、鍛錬に鍛錬を重ねてきたはずだ。
しかし、「古武術」の演奏を聞き、彼らの生き方を見ることで、ロックに目覚める。
「古武術」の原始の音が、森田さんの人生を変えていく瞬間こそ、「音楽」の最大の見所なのではないかと思う。
音楽には、他者を変えてしまうほどの強烈なパワーがある。そのパワーは、鍛錬を重ねたから生まれるわけではないし、演奏が上手だから生まれるわけでもない。
ただ、ロックであること。そこに強い衝動があること。それだけが誰かを動かす力になるのだ。
不良たちが元通りの日常に戻っていったとしても、森田さんのなかに生まれたロックの炎は消えないだろう。
森田さんこそ、「音楽」の裏の主役であると信じている。畳む


#映画

三津田信三「どこの家にも怖いものはいる」を読んだ。

よく似た別々の怪異の話が少しずつ重なり合い、その共通項を探すために調査を始めるというのは、最近のモキュメンタリーものでもよくある構造だったりする。最近の作品との類似や相違を探してみても楽しそうだ。
ひとつひとつの怪異の怖さがずば抜けていて、「やっぱり、三津田信三は一味違う!」という気持ちになった。
「近畿地方のある場所について」が好きな人には、ぜひこちらも読んでほしい。

特に後半の怪異が群を抜いて怖くて、ページをめくる手が止まらなかった。怖いのに、先が気になる……!
ラストの謎解きシーンは正直いらなかったかなとも思うのだが、全体を通してモチーフの不気味さが突き抜けていて、ホラー小説のオールタイムベストに入れたい出来栄えの傑作だった。
続編もあるらしいので、そちらも読みたいな。
タイトルの噛み合っていない感じや、不快度の高い書影も不気味で印象的。いい味出してるんだよなあ。

#読書

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