タグ「読書」を含む投稿[158件](4ページ目)

澤村御影「准教授・高槻彰良の推察3 呪いと祝いの語りごと」を読んだ。
ライトなので、読みはじめるとサクサク読めるなー。

今回は、ミステリとしては強引な感じでイマイチだった。
本好きな人が図書館の本に直に落書きしねーだろ!!とか、流動的すぎて暗号として成立していないような部分もあり、ツッコミどころが多い。
もちろん、流動的であることは作中でも述べられているし、短期間で解かれることを想定した暗号だからセーフということなんだろうけど……ちょっと図書館の本の流動性をナメてないか!?という感じはかなりある。
もうちょっと深い部分まで掘り下げた暗号トリックが見たかった。

3巻はどちらかというと、高槻のバックグラウンドの掘り下げ、トラウマスイッチ、からの尚哉との絆を深めるパートがメインだったなー。
尚哉が主人公としてどんどん成長していっているのはかなり嬉しい。
2巻で能力を失ってウジウジしていたのがウソのよう。

ここへ来て、メインキャラの距離感はかなり異常なレベルにまで近くなっている。
恋愛感情の描写ではないが、ジャンルとしてはかなりBL的だと思う。
ミステリジャンルにありがちな現象だけど、どこからどこまでがBLで、どこからどこまでがブロマンスなんだよ!?と戸惑ってしまう。
ブロマンスより民俗学のうんちくを目当てに読んでいるので、これ以上距離が近くなると「ちょっと離れて!!」と言いたくなりそう。微笑ましいけど。

#読書

小林ロク「ぶっカフェ!」の1巻と2巻を読む。
以前からかなり好きな漫画なのだが、好きすぎてずっと1巻を噛み締めて読んでいて、ようやく2巻にたどり着いたという、流行り廃りの激しい自分のなかではかなり特殊な立ち位置の漫画。
いつもの自分なら、一気読みしてそのまましばらく読まないようなハマり方をすることが多いんだけど、ぶっカフェは大事にちょっとずつ読みたいという気持ちがある。

破壊的なドジであらゆるバイト先をクビになったルリがたどり着いたのは、三人のイケメン僧侶が働いている『寺カフェ』だった!
仏教について習いながら、ルリが寺カフェの一員になっていく……という青春コメディ。
絵柄も話もかわいらしくて、すごく誠実なストーリー展開になっていて、毎回癒やされるんだよなー。
一気に消費してしまうのはやっぱり嫌なので、またちょっとずつ先を買っていこうかな。

#読書

澤村 御影「准教授・高槻彰良の推察2 怪異は狭間に宿る」を読んだ。
最近、どうも続き物の小説を読むのが苦手になっていて、1巻がおもしろくても、なかなか2巻に手が伸びない……ということが続いていたけど、これはようやく2巻を手に取ることができた。
1巻を読んだのは、たぶん半年くらい前。

イケメンで怪異好きの准教授の高槻と、彼の助手の尚哉は、フィールドワークのために怪異を収集している。
今回は、小学校で行われたコックリさん、映画の撮影現場で起きた幽霊騒ぎ、そしてバス事故からひとりだけ生還した奇跡の少女を調査する。
相変わらず、謎の内容は小粒なのだが、高槻のトラウマに迫るような内容もちょっとあって、キャラミスとしてはかなりいい味を出していると思う。

高槻彰良は本当に『怪異』になってしまったのか?
そして、彼とよく似ている境遇の尚哉も、『怪異』なのか……?
シリーズを通して解き明かされるであろう、ふたつの謎の答えが気になる。
怪異を科学の力によって読み解きながら、同時にホンモノの怪異へと迫っていく感じ、小野不由美の「ゴーストハント」シリーズを思い出すなー。あれもそろそろ再読したい。

#読書

青山美智子「木曜日にはココアを」を読了。
こちらも「赤と青とエスキース」や「ただいま神様当番」と同じく、人と人とのつながりを描く連作短編集。
かなり人数が多めなので、ひとりひとりの物語は短めだが、読後感としては似ている感じかもしれない。
どんな人とでも、世界のどこかで繋がっているんだという優しい世界観がいい。
人と人とが絆をリレーして行って、その先で大きな輪ができるような。

最後に元の場所に戻ってくるのも、序盤の前フリから予測はできるんだけど、グッと来る仕掛けでよかったな~。
個人的には「赤と青とエスキース」が対象年齢高めな感じで今のところ一番好きなのだけれど、「木曜日にはココアを」と「ただいま神様当番」の感じからすると、こういうヤング向けっぽい文体のほうがもともとの作風なのかな。
これは続編もあるみたいなので、そのうち手を出してみようかな。

#読書

西加奈子「くもをさがす」を読み終わった。

カナダ在住の著者が乳がんになり、両乳房を切除し無事に生還するまでの闘病記。
乳がんサバイバーの話ではあるのだが、どちらかというと『乳がんになった』よりも『カナダで』というくだりがすごく丁寧に掘り下げられていて、医療や自己決定権に関する人々の考え方の違いがおもしろい。

日本人女性に生まれた頃からかけられている一種の呪いにも言及していて、「若見え」「高見え」「オバ見え」などの「他人からどう見られるか」という呪いが一生涯にわたって自分の人生や行動を蝕みつづけることの異常性の話は興味深い。
「幸せそうだなって思われたい」が「幸せになりたい」を凌駕する社会とは、いったいなんなんだろう。

移民の多いバンクーバーが、さまざまな人々にとって生きやすい場所になっている話もすごく印象的。
日本人の薬物への感覚はいまだに、「覚醒剤やめますか、それとも人間やめますか」の域を出ていないんだけど、カナダでは「薬物中毒はその人の選択ではなく、精神疾患です。差別はやめよう」というポスターが貼られているという。薬物中毒者をひとりの人間として、自分たちと同じ存在として扱っているのだ。
女性、子ども、薬物中毒者、ホームレス、生活保護者、障害者、LGBTなどなど、ちょっとでもその人たちの基準からそれていたり、普通から外れているとすぐに「人生終わってる」とか「邪魔」とか言われてしまう狭量な公共空間が構成されているのが現在の日本だけれど、どうやらバンクーバーはここまでひどくはないらしい。さまざまな人が暮らす場所だからこそ、さまざまな人を認める価値観が形成されている。
もちろん、バンクーバーのすべてが素晴らしいわけではなく、西さんも「これも偏見」と断っているけれど、日本ももうちょっとだけ、すべての人に優しい社会にならないものだろうか。

全編通して、闘病記というよりも一本の小説なのではないかと思ってしまうくらいに、読みやすく、ドラマティックで、胸打たれる。
この本が美しく丁寧にまとめられているのは、彼女が乳がんから生還できたからだ。
がんで亡くなった山本文緒さんの闘病記「無人島のふたり」は切羽詰まった生々しい死への恐怖が焼きつくような読書体験だったけれど、「くもをさがす」はパワフルな生への希望に満ち満ちていた。
ああ、この人はこれからも、希望を抱いて歩んでいけるんだ……と思うと泣きそうになった。

#読書

芥川賞の読書マラソンをしたいという気持ちがここ数年ある。
社会派っぽい作品も多いので、あんまり昔すぎるとピンと来ないかもな~、とは思うのだけれど。
最近のものだけでも制覇してみたいな。

ちなみに現在の成果は、「蛇にピアス」「コンビニ人間」「むらさきのスカートの女」「背高泡立草」「破局」「推し、燃ゆ」「ブラックボックス」「おいしいごはんが食べられますように」「ハンチバック」くらいか。あと一作品で十個になる。
これ以外に、途中まで読んでやめたものがわりと多くあるので、全制覇は厳しい気もするけど、もうちょっと読み進めてみたいなー。

#読書

千早茜「赤い月の香り」を読んだ。
なんだか思わせぶりな登場人物が出てきて、よくわからないまま終わった……!?と戸惑っていたけど、実はシリーズ物の二作目だったということを読み終わってから知る。なんてこった。

カフェでアルバイトをしていた朝倉満は、調香師を名乗るふしぎな雰囲気の青年・小川朔にスカウトされ、朔の住んでいる洋館で働くことになる。この世に存在しているすべての香りを作ることのできる天才調香師は、依頼人の望む『欲望』の香りを再現するという風変わりな仕事をしていた。
朔は、なぜ満をスカウトしたのか? 満の心の闇は、天才調香師によって救われるのだろうか?

独特の雰囲気でずっと進行していく静かな小説で、先が気になって一気に読んでしまった。
朔と新城のキャラクターがほどよい距離感でいいなー。
この関係性だったら、もっと男キャラ萌え的な感じでグイグイやってもよさそうなものだけど、そこまでは行っていないのが、ちょうどいい読後感でよかった。
この前になにがあったのか気になるから、一作目を読んでみないとなー。

#読書

なんとなく、一日に一冊の本(小説・漫画・エッセイ・実用書などジャンルは問わない/再読も可)を読むのを目標にしている。
実際のところは、仕事で忙しい日は読めないので、一ヶ月のスパンで見て、一日あたり一冊になるように調整したりしている。休みの日に二、三冊くらい読んでおいたりとか。
きょうはなにを読もうかな~とか、そろそろ読まないと今月は足りていないぞとか、ざっくりとした指標にしている。
読めそうで読めない、絶妙なラインが一日あたり一冊なので、目標としてはちょうどいいかな。

#読書

青山美智子「ただいま神様当番」を読み終わった。

喉から手が出るほど欲しいものが、いつも通るバス停に落ちている。
「おとしもの」と書かれたそのものを拾って着服してしまうと、家に『神様』がやってくる。
腕には真っ赤な文字で『神様当番』と書かれてしまい、神様の言う通りにしなければ、文字を消すことはできない……という話。
どうしようもないモヤモヤや悩みを抱えている人々が、神様と出会うことでひとつの答えを見つけていく……という連作短編のハートフルストーリーで、やや低年齢向けっぽい調子の文章ではあるけど、読みやすかった。

特に、英語の非常勤講師であるリチャードの話は、バイアスや差別を対話の努力によって切り開こうとするという内容で、好きだった。
青山美智子さんの本はこれで2冊め。こちらもやっぱり、表紙の雰囲気がいい。
サクサク読めるから、もうすこし探索してみたいな。

#読書

砂川文次「ブラックボックス」を旅先のビジネスホテルで読んだ。

第166回芥川賞受賞作。
自転車メッセンジャーの仕事で細々と生計を立てるサクマは、些細なきっかけでキレてしまい、暴力を振るったり、怒鳴ったりして仕事をやめるというループをひたすら繰り返していた。
ある日、出会った女性とのあいだに子どもができてしまったが、メッセンジャーの仕事では到底子どもまでは生活できなくて……という話。
あらすじは鬱々としているけど、サクマという人の考え方はなかなか冷静で落ち着いていて、その静謐な感じは読んでいて気持ちよかった。

遠野遥の「破局」の主人公にやや近いものを感じるけど、サクマのほうが親近感があるというか、人間関係をリセットしすぎてどんどん見える景色が狭まっていくところとか、こういうことってあるよなーと思った。
サクマの人生は一度、ある『終わり』を迎えることになる。しかし、そのあとにも人生は容赦なく続いていく。
人生が終わったあとに広がる本当の人生の話が好きなので、このあたりは好感触だった。

芥川賞はクセが強い作品やオチがない作品が多いけど、これはかなり自分に合っていてよかったと思う。わりとエンタメ寄りな構成だし、読みやすい芥川賞作品。
旅先で読んだというプレミア感も相まって、いい思い出になった。

#読書

いぬまん「株での負けを癒す脱力系コミック 株トイプー物語」を読んだ。
株の話は特別勉強になるというわけではないが、出てくるいぬがかわいいのでとても癒やされる。
たまに、容赦なくエグい展開になるのも好きだなー。失敗の内容はわりとあるあるっぽい。
プーちゃんの表情がなんとも言えない哀愁に満ちていて好きすぎる。

#読書

よしながふみ「1限めはやる気の民法」を文庫版で読み直す。
たしか、中学生のころに買って読んで、「西洋骨董洋菓子店」的なストーリーを期待していたら、エロシーンばっかりだったので、びっくりしてしまった。その後もあまり読まなかった気がする。
久しぶりに読んでみると、意外とこのあとのよしながふみ作品の片鱗が見え隠れするような気がして、エロシーンだけではない魅力を改めて知った。

彼氏に撮影されたポルノ写真を勝手に雑誌に投稿されている女子のくだりとか、明らかにBL漫画にはいらない文脈のはずなんだけど、こういう細かいシーンで世界観を丁寧に作っていると思う。
金を払うから卒論を書いてくれと頼まれて、断るシーンも地味に好き。
やっぱり漫画がうまいなあ、としみじみ思う。

しかし、よしながふみ作品のまつ毛が長くて儚げな美男子は、毎回的確にツボをついてくるなー。
もしかすると、これを見るために読んでいるのかもしれない。
だいたいメインカップルじゃなくてサブのほうなので、「はやく! はやくサブを出して!!」という気持ちになる。

#読書

三國万里子「編めば編むほどわたしはわたしになっていった」という本を読んだ。
普段は編みものの編み図を作っていらっしゃるニットデザイナーさんらしいのだが、この本は自伝のようなエッセイ集。
旦那さんとの出会い、今の職業にたどりつくまでの長い道のり、どこにいても周囲に馴染めていないような正体のない違和感。
どのパートをとってもすごく居心地のいい詩的な文章で、すごくどっぷり浸かれた気がする。
実は編みものの話はあまりないのだが、このタイトルも染み入るような感じで好きだなあ。

エッセイは、その人に共鳴する部分があればあるほど深く入り込めると思うんだけれど、この本はかなり共感する部分があった。
語りを通して、過去の自分自身の傷に同時に触れているような読後感があって、すごくよかった。
しばらくしたらまた読みたいな、と思える本だった。

#読書

市川 沙央「ハンチバック」を読み終わった。
第128回文學界新人賞受賞作であり、第169回芥川賞候補作。

右肺を押しつぶす形で背骨が湾曲してしまっている井沢釈華は、重度の障害を持ちながらも、金にはまったく不自由しておらず、両親の遺したグループホームでコタツ記事のライターをやって暮らしている。
自らを「ハンチバック(せむし)」と呼ぶ彼女は、「健常者と同じように子どもを育てることはできなくても、産んで中絶するところまでは追いつきたい」「生まれ変わったら高級娼婦になりたい」という赤裸々な欲望をTwitterで吐き出していた。
ある日、グループホームのヘルパー・田中が釈華への敵意を剥き出しにし、「俺も弱者ですけど」と吐き捨てる。
釈華への強い敵意と嫌悪感を持つ彼は、釈華が本音を吐き出しているTwitterのアカウントをウォッチし、その過激な内容に嫌悪をつのらせていたのだった。
重度障害を持って生きる釈華と、自称弱者男性の田中の関係は、いったいどこへ転がっていくのか。

強烈に頬を横殴りされたような衝撃を食らう小説だった。
作者もまた、主人公と同じ重度障害を持っているということで、私小説的な読み方もできそうだけれど、私小説として素直に読み解くには、内容が非常に過激でショッキングだ。
この作品ににじみ出ているのは「中絶のための妊娠(それによって健常者に近づきたいという切実な感情)」という欲望であり、性欲。そして、弱者男性(健常者)の暴力性。
しかし、その身勝手さや必死さが人間らしさや個性として強く立ち上がってくるので、不思議と釈華への嫌悪感はなかった。
むしろ、障害を持つ女性がそういう欲望を持っていることを知り、彼女を強く憎悪してくる田中の弱さが際立っていたかもしれない。
『弱者男性』をはじめ、全体的にネット用語っぽい言い回しが多いので、読む人によってはピンとこない表現もある。が、それを差し引いても、一度は読んでみてほしい本だった。

特に、紙の本と電子の本に関するくだりは一読の価値ありで、われわれが当然のように行っていた「紙の本は手触りがいいよね」「電子は置き場所を取らないからいいよね」などという議論が、実は健常者優位のマチズモ的価値観に依拠していたということがわかる。
目が見えること、本が持てること、ページがめくれること、読書姿勢が保てること、書店へ自由に買いに行けること。
この5点を満たさなければ、紙の本を読むことはできないと彼女は語る。
読書姿勢が保てない釈華にとっては、紙の本は憎悪の対象だった。
釈華の視点に立って見た世界は、わたしたちが普段見ている風景とはまったく違う色を見せる。
もし、田中と同じような理由で釈華を嫌悪するような読者がいるとしたら、そこには無自覚な差別が潜んでいるのかもしれない。
田中というキャラクターは、やまゆり園襲撃事件や小田急線刺傷事件のようなヘイトクライムを連想させるような人物造形になっていると思うけれど、それと同時に読者の本音を写し取るための装置のような扱いにもなっていて、興味深い。

#読書

早坂吝「しおかぜ市一家殺害事件あるいは迷宮牢の殺人」を読了。

久しぶりに早坂作品を。
さすがの早坂節で、大変すばらしい本格推理だった。
パズラー大好きな本格フェチにはかなりおすすめ。
逆に、重厚な推理ものが読みたい層にはまったくおすすめできないピーキーさも併せ持っている。

序盤から違和感があって読みづらいなという描写が頻出するのだが、すべてが後々になって効いてくるタイプの伏線なのが凄まじい。読みはじめたら必ず最後まで読むべき作品。

トリックの根幹を為している要素は意外と古典的で、古き良き要素をきちんと新しい作品に仕上げているのがいい味を出している。
これは、今年度の本ミスにも食い込んでほしいな。

古き良き講談社ノベルス、あるいは古き良きメフィスト賞の作風の正当な後継者だなあ、としみじみと思う。
ただ美しいだけではなく、喜劇のおかしみを含んでいるような、本格推理という枠組みを全力で楽しんで遊んでいるような余裕がたまらない。
デビュー作からコンスタントにこの作風で出しつづけている持久力もすごいし、やっぱり好きな作家さんだった。
これまでに読み逃しているぶんも遡って読みたい。

#読書

呉勝浩「爆弾」を読んだ。
「このミステリーがすごい!(2023年)」と「ミステリが読みたい!(2023年)」の二冠。そして第167回直木賞候補作。

些細な傷害事件で野方署へと連行された不審な男、スズキタゴサク。
野方署の面々が、明らかな偽名を名乗るその男を尋問していると、「十時に秋葉原で爆発がある」と男が予言した。
直後に本当に爆発があり、彼は「霊感で爆発の場所がわかった」とうそぶく。
彼の予言した場所が次々と爆発するなか、警察は彼の真意を探るため、その場で尋問を続ける。
果たして、スズキタゴサクは爆弾魔なのか? 東京が火の海になる前に、止めることは可能なのか?

ノンストップのジェットコースターミステリーで、得体のしれないスズキタゴサクの気持ち悪さが際立っている。
スズキを取り巻く群像劇の様相が楽しく、場面がころころ移り変わって、それぞれの思惑が語られるのが熱い。
この先どうなるのか、爆弾は何個残っているのか、すごく気になってどんどん読み進められた。
読後感はあまりよくなく、モヤモヤが残るビターなエンディング。
全体的に映画にすごく向いている筋書きなので、たぶん数年以内に映画化されると思う。
ちょうど2時間半くらいできれいにまとまりそうだし、映画になったら盛り上がるだろうなー。

#読書

桐谷広人「桐谷さんの株主優待のススメ」を読んだ。
優待廃止がやや流行っている昨今、優待株にはあまり興味がないので、テクニック面や銘柄紹介はあまり参考にならなかったが、メンタル面は他の株の本とは違う視点のように思えて、興味深く読めた。

基本的に、人は儲けるために株を買うので、普通の株の本には儲けるための買い方や失敗するときのパターンなどが簡素にまとめられている。
また、投資のための節約法などが書かれていることも多い。
ミスをすると大損するというリスク管理のイメージが強く、どちらかというと、クールだったりネガティブだったりするトーンになりがちだ。
損切りはきっちりすること、狼狽売りしないこと、四季報を正しく読むこと、マイボトルを持参して節約すること、固定費を見直すこと、儲けても生活のレベルは落とさないこと……などなど、あれはダメ、これはダメ、という制約の話がどうしても多くなる。

桐谷さんの本にもそういったことは書かれているのだけれど、どちらかというと「どうやって楽しく暮らすか?」という部分にかなり大きくフォーカスしていて、そこが高配当株投資やインデックス投資の本とは毛色が違う。
読者ターゲットとなっているのが定年後のサラリーマンという点も大きいのだろうが、「楽してたくさん儲ける」のではなく、「優待品で生活を豊かにする」ことが目的で、出費にことさら厳しくしたりするギスギスした感じはない。
ゲームとして優待を楽しんでいるうちに、いつのまにか出費がなくなっている、といった感じ。
こういうトーンで株の話をするのは、非常に異質。
値動きを細かく追ったり、損切りしたりすることをすべて諦めるという強気の姿勢で、ただ楽しむだけの株式投資というポジティブな投資スタイルを打ち出している。
エンジョイすることを重視しているため、お金を使わずに優待を受け取ることのできるクロス取引はしないなど、自分が気持ちよく過ごすために全力を尽くしているところもいい。
儲けだけが目的なら、クロス取引したほうがお金が減らないのだからいいじゃないか、という論調になりそうなものだけど、楽しく企業を応援することが目的だから、そういうことはしないということか。

優待には複利がないし、値動きを追わない&損切りしないのは非常にリスキーだと思うので、こういう姿勢で株と相対することは自分にはまだ考えられない。
しかしながら、株式投資をする目的は、本来はお金を手に入れるためではなくて、自分の未来をよりよくするためだったはず。
お金だけがたくさんあっても、使い道が充実していなければまったく意味がない。
そういう意味で、優待を使い倒して人生をどんどん明るくしていく桐谷さんの姿勢はすごく輝いて見えた。
配当は結局再投資に回るだけでお金以外になにも生み出さないかもしれないが、優待は届いたその日から楽しいもんなあ。

#読書

青山美智子「赤と青とエスキース」を読了。
2022年の本屋大賞第2位の作品。
一枚の絵と『赤と青』のイメージを巡る連作短編集。
最終章に向けてパーツをひとつひとつ丁寧に配置していく構成が見事にハマっていて、長い旅路を読者が一緒に追体験しているような読後感で、すごくよかった。
サクサクと一日で読めるくらいの文量でありながら、人間の一生を追いかけていくようなスケールで、好きな雰囲気だったな。
本屋さんで平積みされているときに印象的に思っていた表紙も、内容を読んでから改めて見てみると意外に情報量が多くて、センスがあまりにもよすぎると思った。大好きな表紙。
初読みの作家さんだったけど、他の作品も読んでみたくなった。

#読書

今年も「次にくるマンガ大賞」の季節がやってきた。
が……なんと今年はコミックス部門にちゃんと読んでいる作品が一作もなかった。
いつのまにか、漫画の流行を追えなくなっている自分を痛感する。
かろうじて「ラストカルテ」と「君と綴るうたかた」は序盤だけ読んだことがあるというくらい。
「ラストカルテ」、かなり読み応えがありそうで気になっている。続きを読もうか検討中。

Webの方は好きな作品が何作品かあったので、こちらだけ投票しようかなと思う。
昨年から引き続いてのノミネート「鍋に弾丸を受けながら」、丁寧にふたりの関係性を描いている意欲作「あらくれお嬢様はもんもんしている」、単行本が出たら絶対に買おうと思っていた「スクールバック」、1巻だけ読了しててすごく好きな雰囲気だった「とくにある日々」。

あらもんがノミネートされているのがとにかく嬉しい。
第一印象は「最近よくあるエロコメ?」という感じだったんだけど、話が進むに連れて、エロの話ではなく純愛の話になってきていて、大変おもしろい。
体の関係や性欲が先行してしまった結果、恋愛がやりづらくなってしまう話が大好物なので、めちゃくちゃど直球に好みなんだよな。
昨年はかなり順位が低そうだった「鍋に弾丸を受けながら」、今年はランキングに入ってくれますように。
こちらも唯一無二の漫画なので、みんなに読んでほしい。

#読書

久保帯人「BLEACH 獄頤鳴鳴篇」を読む。

本編終了後、新しい護廷十三隊によって、戦死した隊長の葬儀の後に行われる儀式「魂葬礼祭」に呼ばれることになった黒崎一護。
しかし、その儀式には実は明かされていない裏の意味があって……というお話で、尸魂界の闇が垣間見えるエピソード。
どことなく、初期のBLEACHっぽくもあるかも。
これから新しい話が始まって、すごく盛り上がりそうな予感に満ちた終わり方で、この雰囲気で続きがないとか、嘘だろ!?と思わずにはいられないのだが、BLEACHらしい終わり方のような気もする。

しかし、ザエルアポロってめちゃくちゃ便利なキャラだよな。
だれと話していてもどことなく滑稽でおもしろいし、師匠の筆が乗っているように思える。
BLEACHのギャグパートとシリアスバトルパートをうまーく兼任してくれて、イケメンなのにどこか致命的に気持ち悪くて絶妙な存在感で、最高のキャラ。

#読書

ハンバーガー「忍者と殺し屋のふたりぐらし」1巻を買って読む。
ほのぼの百合四コマ的なやつなのかな~?と勝手に思っていたんだけど、実際はなかなかブラックな百合で好みだった。
あと、相変わらず絵がかわいいし漫画がうまい。

ふたりで死体を埋めに行く話が本当に大好きなので、死体を埋める要素があるだけでウキウキしてしまうんだけど、さすがに「死体を葉っぱに変えることができる忍術で死体を葉っぱに変換した上で、ふたりで焼き芋をする」は斜め上すぎてゾクゾクした。
ふたりとも倫理的になんとも思ってなさそうなのがまたいいよね……。
1巻はまだ恋にまで発展していない段階なんだけど、最新話をネットで見てみたらかなり親密になっていそうな感じだったので、早急に2巻を買わないといけないな……楽しみ……。
倫理観をさわやかな笑顔で破壊する百合が見たい人におすすめ。

#読書

新川帆立「令和その他のレイワにおける健全な反逆に関する架空六法」を読了。

初読みの作家さん。
令和ではない、架空のパラレルワールドの『レイワ』で制定された6つの法律を題材としたリーガルSF短編集。
ややひねりすぎていて、玄人好みなノリではありつつ、楽しく読めたかな。
最後の接待麻雀の話が一番シンプルで好きだったけど、過労死を出さないようにするあまりに社員を厳格に管理しまくる話もよかった。

#読書

宿野かほる「ルビンの壺が割れた」を読了。かなり短いので一瞬で読める。
数年前に勤めていた職場で、同僚が「これ読んだけど、めちゃくちゃつまらなかったんだよ~」と言っていたのを思い出し、いまさらのように気になって、読みはじめることにした。
「おもしろかったんだよ~」より「つまらなかったんだよ~」のほうが鮮明に記憶に残るのかもしれない。

フェイスブックで偶然発見したかつての恋人へ一方的にメッセージを送るところから物語が始まり、メッセージのやりとりによってのみ、物語が進行していく。
賛否両論の作品として当時話題となっていたけれど、読んでみたらたしかに「これは賛否両論だわ……」という感じ。

ただ、メフィスト賞作品(特に初期)を通っている人は、こういうタイプの話は楽しめるかもしれない。すぐに終わるくらい短いのもあって、自分としては悪くない読後感だと思った。
ミステリとしてはもう一仕掛けくらい欲しかった気がするけど、「このふたりはなぜ、直接会うこともなく、ただただ思い出話のメッセージを送り合っているんだ?」という謎へのアンサーが紐解かれていくホワイダニットの仕掛けはかなり好きだったな。

#読書

山本文緒「無人島のふたり 120日以上生きなくちゃ日記」を読み終わった。

58歳で突然膵臓がんを宣告され、余命が半年もないということを知ってしまった作者が、コロナ禍の自宅で、夫と二人でがんと向き合っていく闘病記。
毎年人間ドックを受けていて、酒もタバコもやらないのにもかかわらず、がんで余命4ヶ月~9ヶ月を宣告されるというかなりハードな導入から始まり、自宅という『無人島』で夫とふたりで死と向き合い続けるという、心がズシンと重くなるような本だった。

ここまで若くしての闘病は少ないケースかも知れないけど、誰でもいつかはこういう状況になるはずだし、妻がいなくなったあとに取り残される夫側の気持ちを考えると、心がさらにギュッとなる。
でも、作家として誠実に仕事をし続けていた彼女のもとには、コロナ禍であるにもかかわらず、たくさんの人が会いに来ていて、それはすごく救われるだろうなと思った。
余命宣告されたあとの人生を充実させられるかどうかや、突然現れた死へのカウントダウンとまっすぐ向き合えるかどうかは、結局、その人がそれまでの人生を丁寧に誠実に生きてきたかどうかにかかっているのだろうなあ。
自分もきっと、いつかはなにかの病気になって死んでいくはずで、そのときには山本さんと同じように死の恐怖と向き合うことになるはずだ。
たぶん、そのときにはこの本を思い出すんだろうな、と思った。

#読書

「ワールドトリガー」の新刊発売を控えているので、ぼちぼち再読をしていた。
やっぱり遠征選抜試験がおもしろすぎる。
常に最高におもしろいので、「○○編が一番おもしろい!」と考えたことがほとんどなかったんだけれど、遠征選抜試験がはじまってからは、間違いなく今が一番おもしろい!と感じている。

ただ、遠征選抜試験での心理描写は、これまでのキャラクターの描写の積み上げがあってこそのものでもあるので、これまでがすごくよくできているということでもあると思う。
これまで、長所ばかりを見てきたキャラクターを、チームから切り離して、冷静に見つめるとどんな短所があるんだろうか?
という実験が興味深すぎる。
チームのなかだからこそ活きる才能が、チームから離れた遠征でも活かせるのか? 活かせないとしたらどう対処するべきなのか? という部分がすごく好きで、何度でも楽しめる。

#読書

サンデーうぇぶりで「名探偵コナン」のまとめ読みをしている。
この機会に一気に……!と思っていたけど、やっぱりそんなにたくさんは読めないな。
序盤のエピソードは印象的なものが多くて、「そうそう、こんな話あった!! 小学生の頃に見た!!」と懐かしく思う。
今よりもガチガチの古典本格推理なおもむきの話が多かったんだよなー。
まだ期間に余裕があるので、もうすこし先まで読んでおきたい。

#読書

高橋ユキ「逃げるが勝ち 脱走犯たちの告白」を読む。

松山刑務所から脱獄し、瀬戸内海を泳いで渡った逃走犯、富田林署から尋問中に逃げ出し、日本を一周するサイクリストに扮して山口県まで逃げ切った逃走犯への取材を主として構成された、『脱走犯』を主体としたドキュメント本。

章ごとにまったく関係ない話が展開されるためか、「つけびの村 噂が5人を殺したのか?」ほどの読み応えはなく、論点もかなりブレるところがあるのだが、筆者と逃走犯たちの交流のなかで見えてくる個々の事情や歪んだ人格などのリアリティはやはりおもしろい。
それゆえに昭和の脱獄王を題材としている後半は物足りなかった。
ひりひりする取材のリアリティが高橋さんの持ち味だと思うので、このあたりは流して読んでしまった。

逃走犯のパーソナリティって意外とニュースで詳しく語られないポイントなので、新鮮でおもしろかったなー。

#読書

小川哲「君のクイズ」を読んだ。
2023年本屋大賞ノミネート作品。
佐久間宣行さんがラジオで絶賛していて気になったので読んでみたが、非常におもしろい。
あまりないタッチのミステリーで、一気読みにすごく向いていると思った。

クイズ番組『Q-1グランプリ』決勝戦で、クイズプレイヤーの三島玲央は、対戦相手である本庄絆が問題文をまったく聞いていない状態でボタンを押し、正解したことを訝しむ。
果たして、問題を聞かずにクイズに正解することは可能なのか?
それとも、番組はヤラセだったのか?
真剣にクイズと向き合う三島には、本庄がヤラセに加担しているとは到底信じられなかった。ヤラセがあったのかどうか知るために、三島は本庄のことを調べはじめるが……。

クイズプレイヤーがクイズと向き合うということは、自らの人生のすべてと向き合うことであり、これまでに出会った人物や出来事のすべてがクイズのためのデータベースとして機能しているのだ……という壮大な世界が楽しかった。
これまでの人生で出会ったすべてのものが、単なるデータとなって、そして抽出されてひとつの『正解』となる。その瞬間の感動が伝わってくる。
そんな三島が最後にたどりついた『正解』の正体もすごくおもしろくて、ワクワクした。

「君のクイズ」において、三島はクイズの問題を思い返しながら、その『正解』に至ることのできた原因を、自分の人生の一場面のなかに求めていく。
クイズとは、単なる知のゲームではない。経験そのものであり、人生なのだ。
一瞬の駆け引きのなかに、人生がある……これから、クイズ番組を見る目が変わりそうだ。

#読書

「鍋に弾丸を受けながら」の3巻を読む。
今回は箸休め的なおもむきで、いつものような重量感はなかったけれど、これはこれでグルメコミックとして好きな雰囲気だったなー。
さりげなく、アメリカを旅する黄色人種が背負っている命の危険、差別主義者が銃を持つ国の怖さなども織り込まれていて、やはり読み応えがある。
なお、芹沢さんの「情報を食っているんだ!」に対する作者なりのアンサーもあり、芹沢さんファンとしても嬉しい巻だった。

#読書

片瀬 チヲル「カプチーノ・コースト」を読んだ。
久しぶりに、これは自分のための物語だと思った。すごく心にしみる。

パワハラに傷つき、会社を休職している早柚(さゆ)は、海中に腕時計を落としてしまったことをきっかけに、海辺のゴミ拾いをはじめる。
浜には、他にもビーチクリーンを行う人々がいて、早柚は彼らと交流しながら、自分の本当の居場所を探し、さまよう。
この手の話は、新たに出会った人々との交流から人脈が広がっていって心が癒やされるというような安直なストーリーになりがちだと思うのだけれど、本作では、早柚は結局ひとりぼっちのままだ。そこがすごくリアルで好きだった。

ビーチクリーンの作業は彼女自身を深く癒やすものではあるけれど、そこで出会う人々とは気が合わないことも多い。
彼女が『正しくない』パワハラに苦しんで海へと足を運んだのは、ゴミを拾う作業は絶対的に『正しい』からだった。
『正しさ』に敏感になりすぎた彼女は、他人の中にすこしでも『正しくない』部分を見つけると、過剰に忌避してしまう。
どの人間関係も、相手の『正しくなさ』への嫌悪感からほとんど広がりを見せない。

でも、現実には、『正しい』だけの人なんていないのだ。
人によって『正しさ』の基準も違うし、自分にとって『正しくない』考え方を嫌悪していては、人間関係は築けない。
相手の『正しくない』部分を受け容れて前に進む。それが早柚に本当に必要な行為なのだけれど、心が深く傷つきすぎると、人は『正しくなさ』を受け容れることができなくなる。きっと、彼女がそうできるようになるには、まだ時間が必要なんだろう。
過剰に『正しさ』が求められる令和の時代にぴったりのお話だったと思う。

#読書

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