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2024年9月21日(土)
2024年9月19日(木)
ブギーポップシリーズ14作目。
ブギーポップマラソンもようやく折り返し地点にさしかかっている。相変わらずおもしろい。
前作「ブギーポップ・バウンディング ロスト・メビウス」は今後の布石となりそうではありつつ、単品ではやや物足りない話だったのだが、今回は原点に立ち返ったようなお話で、ボーイ・ミーツ・ガールとセカイ系の調和が感じられてよかった。
やっぱり、刹那的なボーイ・ミーツ・ガールはいいよね……。
救いはまったくないんだけど、その乾いた感じこそがブギーポップなんだよなー。
ちなみに、この14作目までのあいだに「ビートのディシプリン」シリーズが4巻分も挟まれているっぽいのだが、これをいつ読むかが悩ましい……セールのときにまとめ買いしてあるので、いつでも読めることは読めるんだけど、まずは本編を読んでしまいたいような気もする。
#読書
2024年9月12日(木)
乃木坂太郎「夏目アラタの結婚」を3巻まで読んだ。
見つかっていない死体の部位をどこに埋めたのかを聞き出すため、主人公・夏目アラタが、死刑囚『品川ピエロ』と結婚しようとする話。
映画館で予告を見てから、ちょっと気になっていたのだが、思ったよりも異様な話だった。
恋愛ものではなく、単なるサスペンスでもなく、ふたりの思惑が面会室でぶつかりあう頭脳バトルのような構成になっていて、先が気になる。
イメージにぴったりすぎる、映画版の主役ふたりのキャスティングもすごい。
実写に合わなそうというか、絶対にコレジャナイ感じになりそうな原作なのに……しっかり合っている……。
特に柳楽優弥はこういう役をやらせたら右に出るものはいないと思う。バッチリすぎるなー。
すでに完結しているっぽいので安心して読めそうだが、怖くて手元に置いておきたくないような雰囲気もあって、ここから先をいつ読もうか悩んでいる。
#読書
2024年9月9日(月)
上條一輝「深淵のテレパス」を読んだ。
創元ホラー長編賞受賞作。
この人もオモコロのライターさんらしい。
「変な怪談を聞きに行きませんか?」と会社の後輩に誘われ、ふしぎな怪談を聞いたことをきっかけに、自宅で怪奇現象が起きるようになってしまった高山カレン。不気味な水音、突如部屋に出現する汚水。怪異を発生させないためには、常に部屋に光を満たす必要があった。
カレンが助けを求めたのは、YouTubeで怪奇現象を取り扱う「あしや超常現象調査」だった。
彼らは、カレンを取り巻く怪奇現象の正体を突き止めることはできるのか?
ひとつひとつのピースはよくある形なのに、全部集めると精巧なパズルが完成する感じで、豪華で贅沢な構成だった。
そこまで突き抜けた恐怖描写はないが、超能力、推理、怪奇現象、呪いなどなど、要素が多くてお得感がある。
呪いの発生源が特定された瞬間のミステリ要素も気持ちよく、全部盛りセットの優等生的な作品。満腹感があった。
最後の一ページで急に新たな絶望に叩き落とすのも好きだったなー。このままシリーズ化希望。
#読書
2024年9月8日(日)
四歳で光を失って『シーンレス』の世界で生きる著者が、スマホに出会ったことで変化した日常を軽快に語るエッセイ。
スマホによって生活が激変し、自力でできることがたくさん増えて、生き方の形が変わっていくという激しい喜びが語られていて、心を揺さぶられた。
視覚障害という言葉を用いず、『シーンレス』という言葉を徹底して使用しているところも好きだった。
市川沙央「ハンチバック」と同じく、わたしたちが当たり前に享受しているサービスを当たり前に利用できない人がいるという社会の問題に気づかせてくれる良書だった。
すべての人を取りこぼさない社会になってほしいし、なにか新しいサービスをリリースする際には、必ず「すべての人が利用できるものなのか?」を考えてリリースしてほしいな、と思った。
飲食店のタッチパネル式の注文システムや、ウェブサイトにログインする際に画像を操作しなければならないシステムなどは、目が見えていなければ絶対に利用できないサービスだ。
こういうものが、この世界には数多く存在している。
コロナ禍のような特殊な状況下では、こうしたシステムが生活を大きく制限することもある。
また、カレーの辛さを文字で記載しているパッケージならばスマホの読み上げ機能によって辛さを確認できるが、唐辛子の絵だと確認しづらい……というのも、「確かにそうだ!」と思った。
おしゃれなパッケージの食品は最近多いけど、見た目よりも、読み上げ端末で必要な情報を確認できるようにデザインすることを優先すべきだ。
視覚障害がある人のみではなく、字が読めない人や日本語を母国語としていない人にとっても、読み上げ機能は革命的であるはずなのだから。
タッチパネル端末で人件費を削減しているというけれど、実は「タッチパネルだったら注文できないから、来るのをやめようかな」とシーンレスの方に思われていることもあるわけで、最初から読み上げ機能をつけておくなどの配慮は必要だろう。
タッチパネル端末ではなくモバイルオーダーなら、自分のスマホの読み上げ機能で注文できるというのも、目から鱗だった。
健常な人の目線だと、店内でのモバイルオーダーのシステムは、タッチパネル端末を用意するお金をケチっているよくないシステムだ、という意見の人もいるけれど、モバイルオーダーが生命線となっている人もいるということか。
ジョブズは自分が作ったiPhoneに読み上げ機能を実装して、こまめに改良していたという逸話もこの本のなかにあった。
誰ひとり取り残さず、みんなにiPhoneを使ってほしいという愛を感じて、自分がiPhoneユーザーであることがすこし嬉しく思える。
巻末にある春風亭一之輔さんとの対談も、ゆるくて優しくて、あたたかい気持ちになった。いい本だった。畳む
#読書
2024年9月4日(水)
とりあえず、8月は15巻まで買った。
自分と「HUNTER×HUNTER」との付き合いの距離感は、ちょっと変だ。
初めて読んだのはたしか中学生のときで、友人に貸してもらって読んだ。たぶん、14巻くらいまで。
当時、「家庭教師ヒットマンREBORN!」や「銀魂」、「BLEACH」など、どちらかというと明るい作風の漫画が自分の中でブームだったせいか、さらっと読んだだけで、まったくハマっていなかった。
家では母親が旧アニメ版に熱狂していたが、こちらもかなり薄暗くてグロくて、そのときの自分はスルーしていたと思う。まったく見た覚えがない。
スルーしたまま時は過ぎ、新アニメ版のキメラアント編を見たことで時が戻る。
途中からなので、わからない部分もあったが、すごくハマった。
「HUNTER×HUNTER」ってこんなにおもしろいんだ!と、そのときに初めて知ることになる。遅い。
この時期に、詳しくは思い出せないが、「HUNTER×HUNTER」のポチポチゲーみたいなものがあって、それにも手を出していた気がする。ウイングさんを育てていたような記憶がぼんやりとある。
キメラアント編のあとの選挙編もおもしろくて、原作が気になるなあ……と思ったが、今から追うのは大変だよね、ということで、またスルーしていた。
そして、ふたたび時が流れ……2024年。
特になんのきっかけもなく、1巻から大人買いしはじめた。
中学生のころ、あんなにもハマっていなかった序盤の展開が、おとなになってから読んだら、すごくおもしろかった。人間関係も細やか。
2024年に、この漫画をこんなにまっさらな状態で楽しめているのは、自分くらいのものではないだろうか。かなりお得だ。
このあと、どういう展開になるのかも、アニメで見た部分以外はまったく知らない。さらにお得。
そんな時の流れのなかで、9月には新刊が出るという……スケール感がおかしくて、認識能力がバグりそうな展開だった。畳む
#読書
2024年8月30日(金)
連載がはじまった瞬間に「絶対に単行本で買う!!」と心に決めたどハマりシリーズ。
やっぱり最高だった。
最初のときめきを信じてよかった。
紅美鈴と十六夜咲夜の百合な関係を中心に進んでいく東方二次創作漫画なのだが、あまり見ないタイプの珍しいキャラ解釈で、人によっては合わない可能性もある。
が、描写が細かく、オリジナル衣装の設定などもあり、個人的には爆裂ヒット。
めーさく以外の関係性も楽しく、何度でも読み直したくなる。
絵柄もオシャレで雰囲気ある。
美鈴のことが大好きすぎて変な感じになっている咲夜さんがかわいい。ほのぼのしてしまう。
両思いなのにすれ違いまくりで、ろくにラブラブできていないのも、かわいらしくて好き。
#読書
2024年8月29日(木)
「トラブル旅行社」シリーズを読み終わってしまったので、今度はこちらを。
どうしても捨てられない大切なものと思い出を、一年の寿命と引き換えに、十年間預かってくれる『十年屋』を名乗る魔法使いのお話。
それぞれの主人公が歩んだ十年の重みがすごく尊くて、時の流れのスケール感にジーンとする。
子どもにとっての十年って、大人の十年よりも長くて、果てしない時間だよなー。
約束を守らない悪い人はひどい罰を受けるという因果応報っぷりは「銭天堂」と近いんだけど、十年後に店から品物を回収するかどうかを決断するという時間経過要素のせいか、銭天堂より心にしみる気がする。好きだなー。
廣嶋玲子さんの本を読めば読むほど、ハズレのなさと刊行速度にびっくりする。いくらでも読めそう。
#読書
2024年8月27日(火)
明治維新を経て、世の中が一気に変わりはじめた時代。
老舗料理屋「しの田」のひとり娘・真阿は、胸を病んでいると言われ、部屋にこもりがちな鬱々とした生活を送っていた。
ある日、「しの田」の二階に居候が来ることを知らされ、好奇心に胸を躍らせる。
彼は著名な幽霊絵師で、名を『火狂』といった。
彼のもとに絵画に関する悩みをもつ人々が訪れるたび、真阿は彼と心を通わせながら、謎を解いていくのだった。
一応、出版社の説明には『絵画ミステリ』と書かれているのだが、どちらかというと怖くないホラーっぽい体感があり、がっつりとした謎解きは少なめかもしれない。
ミステリとしてもホラーとしてもやや薄味で、でも、その薄味さや想像で補う余白が妙に心地よくて、さらっとした読み応えだった。
文体もあっさりしているので、たぶん一日あれば読めると思う。
ふたりの距離感が絶妙に優しく、世間知らずな真阿を見守る、ひとりのおとなとしての火狂がとても魅力的だった。
近藤さんの作品は初読みだったんだけど、他の作品も読みたいな。畳む
#読書
2024年8月17日(土)
初読みの作家さん。
凄まじく惹きつけられて、一日で一気読みしてしまった。
30歳になったら退職しなければならない、大手企業の受付嬢である美雨。
やりたいことはないし、できることもない日々に焦りを覚えていた彼女は、ある日、売れないお笑い芸人の矢沢亨と出会う。つかみどころのないふしぎな存在感を放つ亨、亨の相方の弓彦、そして亨とシェアハウスで暮らしている芸人たちとの交流を通じて、美雨は「なにもない」自分の人生と向き合っていく。
もともと、特別な絆で結びつけられた男性ふたり+そこに現れる女性という関係性がすごく好きだ。この作品の男+男+女の関係性は教科書に載ってもいいくらい最高のバランスだと思う。
男性ふたりの絶妙な距離の描き方が独特だなと思ったのだけれど、もともとボーイズラブの作家さんらしいということをあとから知り、納得した。
「パラソルでパラシュート」はボーイズラブではないのだけれど、ボーイズラブ並みに丁寧に描かれた男ふたりの話ではある。
男女の恋愛っぽいものを描きつつ、男性ふたりの関係性を掘り下げるというのが、たぶんみんなあまりやりたがらないというか、難しい作劇なのではないかと思うんだけど、この作品はそこをすごく丁寧に処理していて、だからこそ、先が気になってどんどん読んでしまった。
リアルな大阪の空気感が優しくて好きだったし、芸人のシェアハウスに一緒に住むというシチュエーションも、芸人好きとしてはわくわくしたなー。
一穂さんの他の作品も読んでみたいなと思った。
#読書
2024年8月15日(木)
ホラー好きの著者が街やネットで見つけた怪文書を収集しているうちに、怪文書同士がある文脈を共有していることに気づきはじめる……という、最近よく見かけるミッシング・リンク系モキュメンタリーホラー作品。
小説ではなく、『怪文書のまとめ』という体裁をとっているため、特にストーリーなどはない。考察系コンテンツといえる。
背筋「近畿地方のある場所について」のラストの袋とじだけ読んでいるような贅沢な怖さがあった。やっぱり絵や写真による怖さってダイレクトに来るから、かなり効くなあ。おもしろい。
ただ、ホラー現象そのものは非現実的なものでも、『怪文書』は現実にも存在している。
現実の『怪文書』は怪異ではなく病に苦しむだれかが生み出しているということを考えてしまうと、『怪文書』という存在自体を過剰におもしろがるようなテンションは悪趣味で、微妙に乗り切れなかった部分はある。
このあたりのリアリティラインは本当に難しいのではないかと思う。本当っぽいほうがより怖いから、本当にありそうな方向へどんどん傾いていくけど、あまりにも現実に近いと、楽しめなくなってしまう。
たぶん、フィクション性の高い小説や漫画だったら気にならなかった気がする。『本当にあった怪文書』という体裁がよくないのかな。
ところで、「その怪文書を読みましたか」の作品としてのレベルをより高みへと押し上げているのは、間違いなく、ラストで『寄稿』として追加されている品田遊のコラムだと思う。
これによって、単なる事象の羅列ではなく、明確な文脈が発生しているような気がするし、全体に『それっぽさ』が付加されていて、アッパレな采配なんだよな。
オモコロでホラーといえば梨さんと雨穴さんのイメージだけど、品田遊先生のホラーももっと見たいなと思った。畳む
#読書
2024年8月12日(月)
「なんか、どこかで読んだ気がするな……この話……」と思っていたが、実は2018年に読んでいた。まだ6年しか経ってないのに、忘れるな!!!!
たぶん家のどこかに紙の本がある。
当時はアドンで頭がいっぱいだったから、忘れてしまったんだろうな……。
さて、「さくらがんばる!」は、ゲームに逆輸入された設定がもりもり入っている、超名作。
春日野さくらというキャラクターのよさが最大限まで引き出された、最高の漫画だ。
格闘ゲームは、練習して、高みを目指して、『初心者』が『うますぎる神々』に追いつこうとする努力の過程そのものだ。
リュウをめざして拙い技を練習するさくらの姿は、すべてのプレイヤーの姿と、そして自分とも重なっていく。そこがすごくグッと来るのだった。
『完成形』ではなく、『未熟者』としての春日野さくらがこんなにも魅力的なのは、それが自分自身そのものだからだ。
闇の暗殺拳が、光の拳に変わる瞬間。純粋な憧れが、道を切り開いていく瞬間。
格闘ゲームって、そういう瞬間の連続なのではないか。
さくらとリュウ以外の登場キャラクターとしては、春麗と元のやりとりが特に印象的。
草薙京との会話のくだりもすごくよかったなー。
京とさくらという組み合わせが妙にしっくりきて、最初からこういう感じの話だったような気がするくらいだった。
あとは、全編通して、火引弾という最高の師匠の存在感もいい。リュウとダン、その両方があってこそのさくらなんだよなー、としみじみと思う。畳む
#読書
2024年8月9日(金)
ミステリとして非常によくできており、謎の組み立て方も魅力的でよかった。
10人以上を殺した『最強の毒』の正体を突き止める第1話、平賀源内の実像に迫る第2話、そして、二十年前に死んだ木乃伊の死因を推理する第3話。
特に第3話が二転三転の真相で、凝っていて楽しかった。時空を超えて真実を導き出すタイプのお話が大好物なので、これはかなりイチオシ。
終盤、「そういえば、この謎ってどういうことだったんだ?」と思っていたら、突然、性的マイノリティの苦悩を描き出すというくだりが非常にこるもの先生らしくて、心をわしづかみにされた。
1冊できれいにまとまってはいるんだけど、このバディで続編も見たいなー。畳む
#読書
2024年8月9日(金)
2024年7月31日(水)
例によって、「ラシード使いとして、ラシードの住む国のことがもっと知りたいぜ!!」という気持ちで読みはじめたのだが、主に中東の政治的な問題の話が多めで、実生活に関する身近な話はあまりなかった。
あと、十年くらい前の本なので、情報はやや古めかも。
ムスリムのことやハラールのことがすこし知れてよかったのだが、ラシードの好物であるえびシューマイはハラール的にアリなのかナシなのか、そこらへんのさじ加減はよくわからなかった。
この本だと、「うろこのない魚介類はナシ」というふうに書いてあるのだが、ハラール食品を取り扱う会社のウェブサイトなどでは、むしろエビはハラール食品としておすすめであるというふうな記述がよくある。
宗派によって異なる、人によっても異なる、と書かれていることもあるため、最終的には個人の解釈によるのかもしれない。
このあたりのバランスって、どういうふうな裁量で決まっているのか、食に禁忌の少ない日本人としては、いまいちピンとこないんだよなー。
豚肉やアルコールと比べたら、よしとしている人が多いよ、ということだろうか。
次はもう少し、実生活を中心とした本を読んでみたいなと思った。畳む
#読書
2024年7月25日(木)
長々とかばんに入れたままにしていたやつ。
2022年に発売された、おそらく連城三紀彦最後の新刊。
恋愛と推理を基軸にした、これまでの未収録作品を一気に収録する短編集。
連城三紀彦は短編の名手だが、その名手ぶりが遺憾なく発揮されている短編集だと思う。
恋愛小説なのか、推理小説なのか?という議論を超えて、「そういえば、現実の恋愛も、どんでん返しの連続なのではないか?」と思わせてくれる。恋愛感情の描写のきめ細やかさや、迫りくる不安、修羅場の予感が、見事にミステリ的ギミックと結合する瞬間、名状しがたい快感が生まれる。
特に好きだったのは、「過剰防衛」「裁かれる女」「紫の車」かなあ。
やっぱり連城三紀彦はおもしろい。
まだまだ未読が残っているのが嬉しすぎる。
マラソンは、まだ始まったばかり。
#読書
2024年7月24日(水)
『恋愛漫画』なのか、『ホラー漫画』なのか。
1巻からずっと、絶妙なグラデーションのなかにこの物語はあった。
しかし、ここへきて、『恋愛』こそが『ホラー』の中核にあったということがわかってきていて、戦慄する。
お互いの心の深い部分まで熟知したふたりは、必然的に体を求め合う。
『恋愛漫画』としては完璧な終着点なのだが、『ホラー漫画』としては、その終着点こそが、最悪の悲劇となる。
こうなることは、数巻前からわかっていたはず。
でも、いざその状況になってみると非常に怖い。
丁寧に積み重ねてきた彼らの大切な日々が、状況を悪化させる元凶だったことがわかりはじめて、この漫画がどこへ走っていくのか、非常に気になる。畳む
#読書
2024年7月18日(木)
その人の問題を解決するための旅を提供する、トラブル旅行社シリーズの第一作。2020年刊行。
安定の廣嶋玲子さんなので、おもしろくないわけがないのだが、今回は挿絵もめちゃくちゃかわいくて、描き込みが細やかで、しかもカラー挿絵多数ありという嬉しい一冊。
家族みんなで飲もうとしていた珍しい外国のジュースを、気づかずに飲み干してしまった時川大悟。
このままでは、食いしん坊の姉に怒られてしまう。あわてて街に探しに出かけるが、同じジュースはまったく見つからない。
そんな大悟のもとに、ふしぎなフクロウが現れる。
フクロウに導かれてたどり着いたのは、問題解決のための旅行会社であるトラブル旅行社。
トラブル旅行社が提供する「砂漠のフルーツ狩りツアー」に参加すれば、まったく同じジュースを作ることができるという。
大悟は、わけもわからぬままに、砂漠へと旅立つことになるのだった。
「砂漠のフルーツ狩りツアー」というかわいらしいタイトルからは想像もつかない、砂漠のキャラバンでの過酷な旅の様子がおもしろい。
唯一、料理が得意な主人公の大悟が、その料理を武器に砂漠で生き抜いていくという展開も痛快で、気持ちよかった。
料理の内容も、日本の料理をそのまま出すのではなく、現地の食料で作れるようにアレンジしているのが詳細に描写されていて、おいしそうだった。サボテンのジャム、いいなー。
今まで読んだ廣嶋玲子作品の中で一番好きかもしれない。
こんなにおもしろいのに、まだ3冊しか出ていないらしい。2巻以降も読みたいな。
#読書
2024年7月18日(木)
角川スニーカー文庫から2002年に発売された、古典部シリーズの第2作。
文化祭に出展する、クラス製作の自主映画を見せられる、古典部のメンバーたち。
ミステリ映画のはずなのだが、被害者が死亡するシーンで本編が終わっており、解決編が存在しない。
犯人は誰で、トリックはなんなのか? 脚本家の意図するものはなにか?
折木奉太郎はこの謎を解き、正しい解決編を導けるのだろうか?
2作目にしてここまで仕上がっていることがあるのか……!?と驚く。
「秋期限定栗きんとん事件」が本当に好きで、毎度、あの感覚を求めて米澤穂信を読んでしまうのだが、これはかなり近いのではないだろうか。
『青春』は、砕け散るからこそ美しいし、愚かだ。
ミステリとして非常に丁寧な筋立てながら、人間の心情をきっちり描いているのが興味深い。
また、『日常の謎』(あるいは『非・日常の謎』)という存在へのメタ的言及を行うために『日常の謎』を構築するという手法も、凝っていて読み応えがある。
『探偵』という存在が持つ暴力性や、他者の気持ちを顧みない愚かさなど、『本格推理』や『探偵』という枠組みへの批評ともなっており、非常に短くて読みやすい250ページのなかに、ここまで要素を詰め込んでいるのは凄まじいと思う。ちょっと後期クイーン寄りの雰囲気が好き。
ここから、奉太郎がどういう人になっていくのか、気になるなあ。畳む
#読書
2024年7月16日(火)
「これって……ジャンケットバンクそのものじゃないのか!?」と戸惑うほどに、ジャンケットバンクの原型だった。構成がそっくりである。
でも、ジャンケットバンクのほうが明らかにこなれているし、絵もすっきりしていて、こうやって徐々に作品がおもしろくなっていくのか……!という驚きがあった。
一応はダーツの漫画なのだが、登場人物全員がダーツを百発百中させられる技術を持っているという前提のもとに進んでいくため、早々にダーツの話ではなく心理戦の駆け引きになっているのが意外でおもしろい。
そういえば、ジャンケットバンクも、一流のギャンブラーはダイスの目を簡単に揃えられるよ、というシーンがあったなあ。あれはイカサマなのかガチなのかは不明だったけど。
1巻の終わりがトンデモ展開だったので、2巻以降を買おうかは悩んでいるのだが、この頭脳バトルは先が見たい。
#読書
2024年7月14日(日)
少年時代の話やアンガールズ結成の話から、昨年の婚約まで。
読みやすい、さっぱりとした文体で、自身の半生を振り返るエッセイ。
田中さんはバラエティなどでも、場全体を見回して気遣いをすることができる人だ。
そんな気遣いの源泉がなんだったのかを知ることができる、良エッセイだった。
かなり重めないじめの体験や、ヤンキーに絡まれた体験など、つらいこともしっかり冷静に書いてあって、強い人だな〜と思う。
自分を客観視する力があるから、平場での存在感を獲得できたんだろうなあ。
ひとつひとつの趣味をきっちり極限までやる、真面目で凝り性なところも好感度が高くて、やっぱり好きだなと思った。
私生活について、ネタになることはなんでもかんでも切り貼りしてエッセイを書くような芸人さんもいるけれど、田中さんは結婚相手の情報に関してはかなり徹底して伏せているような気がしているし、書くとだれかに迷惑がかかったりしそうなことは書いていない印象だ。
書いていいことと悪いことの境界線をしっかり引いているのが、このエッセイが安心して読める理由かもしれない。
相方との出会いの話が特におもしろくて、「あれは誰だ? キモい!」と「なんだあの細い人は! 今まで見た中で一番気持ち悪い」がお互いのファーストインプレッションだったくだりで大爆笑してしまった。
そんな運命の出会いがあるかよ!
#読書
2024年7月12日(金)
知略バトルかと思いきや、根本の部分がめちゃくちゃフィジカル頼りだったり、いつのまにか男と男の友情ストーリーになっていたり、予想もしないところからぐんぐんおもしろくなっていく。ぎゅっと凝縮されたエンタメの塊だった。
序盤は「頭おかしい人ばっかりで共感できないよ~!」という感じだったのだが、いつのまにか全員のことを大好きになってしまっていた。
ギャンブルするたびに友だちが増えていくのが気持ちいいんだよな……。
特に獅子神さんと村雨さんはいいキャラで、このふたりの出番が加速度的に増えていく様子に、読者の総意を感じる。続きが楽しみ。
#読書
2024年7月11日(木)
ほっこり人情もの✕グルメものという、普段あまり読まないジャンルに挑戦してみた。
丘の上にある『洋食屋オリオン』は、常連客たちを幸せな気分にさせる料理を出す、むかしながらのお店。
『誰も寂しくさせない』ことをモットーに、ひとりひとりの心に寄り添う料理を作りつづける。
トマトソースオムライス、パンチェッタ入りのカルボナーラ、丁寧に仕込みをした煮込みハンバーグなど、心を込めて作った料理が、お客さんたちの心を満たしていく。
ひとりひとりのお客の事情にフォーカスしつつ、お店にいる従業員たちの素性もすこしずつ明らかになっていく。
基本ハッピーエンドしかないので、安心して読める構成だった。
女性同士のマウンティング、いじめ、生活保護家庭での児童虐待など、実は重めなテーマもあるんだけど、オリオンがすごく優しいお店であることで、そこまで重く感じられないようになっているさじ加減が絶妙だった。
第4話が特に好きだったなー。こういう、ドラマティックに再会するお話に弱い。
あと、全部読み終わってから、一番最初の開店準備の部分を読むのも楽しかった。
お客パートではレストランの内部事情は語られなくて、本当にお客になった気持ちで読めるのが好きだったなー。ほのぼのした。
#読書
2024年7月8日(月)
よく似た別々の怪異の話が少しずつ重なり合い、その共通項を探すために調査を始めるというのは、最近のモキュメンタリーものでもよくある構造だったりする。最近の作品との類似や相違を探してみても楽しそうだ。
ひとつひとつの怪異の怖さがずば抜けていて、「やっぱり、三津田信三は一味違う!」という気持ちになった。
「近畿地方のある場所について」が好きな人には、ぜひこちらも読んでほしい。
特に後半の怪異が群を抜いて怖くて、ページをめくる手が止まらなかった。怖いのに、先が気になる……!
ラストの謎解きシーンは正直いらなかったかなとも思うのだが、全体を通してモチーフの不気味さが突き抜けていて、ホラー小説のオールタイムベストに入れたい出来栄えの傑作だった。
続編もあるらしいので、そちらも読みたいな。
タイトルの噛み合っていない感じや、不快度の高い書影も不気味で印象的。いい味出してるんだよなあ。
#読書
2024年7月1日(月)
第24回本格ミステリ大賞、第77回日本推理作家協会賞、第37回山本周五郎賞の三冠からの、第171回直木三十五賞候補でもあるというバケモノ作品。
これで直木賞も獲ったら凄まじいことになると思う。
イカサマありのギャンブルゲーム小説で、「グリコ」「じゃんけん」「坊主めくり」など、おなじみの遊びに新たなルールを加えて、読み合いの頭脳バトルに変えていくという作品。
非常に漫画的な発想であり、特にギャンブル漫画好きにウケそうなノリではあるのだが、デスゲームや暴力の要素はなく、高校生同士の対決なので読みやすい。
青崎有吾といえば、細やかな本格ミステリの名手という印象だが、まさか、こういうのも書けるとは……!という新鮮な驚きがあった。キャラも魅力的で、続編が読みたくなる。
読んでいて絵が脳内に浮かぶ感じで、たぶんアニメ化にも向いているだろうなー。
#読書
2024年7月1日(月)
田中一行「ジャンケットバンク」を3巻まで読む。
銀行の地下で行われる、命やら肉体やら人権やらを賭ける、危険なギャンブルゲームの話。
ちょっと絵柄が怖いんだけど、ギャンブラーたちの駆け引きが読み応えがあって、すごくおもしろい。
「カイジ」を途中まで読んだときに「Eカードと限定ジャンケンが好きすぎるから、こういうくだりをもっと延々と読みたいな~」と思っていた自分には、ぴったりの漫画。変なルールかつ一対一のギャンブルが次々と出てくる。
これは、アニメ化したら盛り上がる気がするなー。
ボイコミのCV内山昂輝が非常に印象通りだったので、アニメ化したら内山さんに声を当ててほしい。
#読書
2024年6月27日(木)
前から気になってはいたんだけど、一気に読むとめちゃくちゃおもしろかった。
やや渋めの邦バンドが好きな鳩野ちひろは、高校に入学して心機一転、ギターを買って軽音楽部に入ることにした。
中学時代のトラウマを払拭し、新たな青春を手に入れるためにあがくちひろの前には、個性豊かすぎる部員たちが次々と現れる。
バタバタと追い立てられるようにバンドを結成したちひろたちの青春の行方は……。
どこかで見たようでいて、どこでも見たことのない音楽部活漫画で、切り口がすごく楽しい。
大人数の部活動で、それぞれ自由にバンドメンバーを集めてバンドを結成するのだが、早々に人間関係でモメたり、たいして本気じゃないやつが抜けていったり、色恋沙汰でいなくなったりと、「そうそう、『ふつうの部活動』ってこんなもんだよね……!」というリアルな質感が半端ない。
部活漫画における部活動って、なぜか登場人物がみんな本気であることを前提に描かれていたりしがちだけど、ふつうは、運動部でもない部活にそこまでマジになるやつ、たぶん半分もいないんだよな……。
部活動というものが、特別な時間ではなく、学校における生活の一部なのだという認識が、部活漫画という媒体においては剥がれ落ちていることが多いのだが、「ふつうの軽音部」の部活動は、高校生活の一部におさまっていて、ベタベタしていないのがいいなと思う。
陽キャによる陰キャへの悪意なき見下しの描写も、それを悪い意味で捉えすぎてドツボにハマる陰キャの描写も、現実にありそう。
あと、軽音部でやる曲が有名バンドのコピーばかりで、オリジナル曲的なものはあまりなさそうなのも、「それっぽい」なと思う。
バンドものの漫画やアニメってオリジナル曲をやりがちだけど、やる気のない人たちが集まって組んだバンドで、そうそうオリジナル曲なんてできないのでは?という。
しかし、「ふつうの軽音部」のすごいところは、露悪的なテーマを取り扱っているわりに、登場人物たちはさわやかで、そんなに度を越して嫌な人はいない(※ただし、ヤバい人はいる)というところ。
露悪をやり抜くと、ギトギトとして読む人を選ぶ漫画になるのが当たり前であるはずなのだが、なぜか読後感は非常にさわやかで、全然ギトギトしていない。
はとっちが熱い努力家だというのが大きいとは思うけれど、それ以外の登場人物も、特別ヘイトを集めるような人はいない。
露悪的なのにキャラへのヘイトがないというのは、不思議で、矛盾しているように思える。でも、実際そうなんだよなあ。
「こいつヤバそうだな」と思うようなキャラでも、そのキャラの心情描写にフォーカスされると実は意外とふつうな考え方だったり、ハメられただけだったりと、過剰に嫌なキャラを作らないように、ヘイトの量を細かくコントロールしている気配があり、このテクニックだけで唯一無二の漫画だと感じる。
「部活で嫌なことがあったら、退部すればいいや。辞めてもなにも変わらないし」という身軽な雰囲気が随所に漂っており、「そこまでマジな気持ちで読まなくてもいいよ、たかが部活内の揉め事だよ」と読者に語りかけてきている気もする。
なお、一番の危険人物である厘ちゃんは、あまりにも考え方が異次元すぎるので、ヘイトとかそういう感情には至らない。
一人だけ異能力バトルの能力者が混ざっちゃっている感じで、こういうところもバランスいいなと思う。
厘ちゃんがもっと陰湿でリアルに嫌な人だったら、たぶんこの漫画の読後感は一変する。
「ふつうじゃない」厘ちゃんがもっと見たい。
続きも楽しみ。畳む
#読書
2024年6月24日(月)
読みながら「読んだことあるな……」と思っていたけど、2016年の3月に一度読んでいた。
こういうときに読書メーターの16年分の読書記録が生きてくる……!
さて、「氷菓」は、アニメ化もされた古典部シリーズの一作目であり、角川学園小説大賞ヤングミステリー&ホラー部門奨励賞を受賞している、米澤穂信のデビュー作でもある。
折木奉太郎と千反田えるの出会い、古典部の結成シーンから始まり、33年前に起きたある事件の謎解きまでを描く。
デビュー作かつ角川スニーカー文庫ということで、ややライトなノリではあるのだが、心情描写の手堅さはさすが。現在の米澤穂信作品に通じる情緒があると思う。
中盤まではやや退屈な日常の謎解きパートが続くのだが、終盤にかけて行われる、33年前の事件の概要を探る会議のくだりは楽しかったなー。
情報と仮説を提出し、別の人たちがソースを提示しつつ仮説を否定する。その後で新たな仮説を出す、また否定する……という建設的な議論の過程が気持ちいい。大人数で協力して謎解きをする作品が好きなので、このくだりだけでも読んだ価値があった。
2016年当時はさらりと流し読みしていた気がするんだけど、8年ぶりに読んでみると、昔より楽しめたかも。
#読書
2024年6月23日(日)
19世紀末ロンドン。
路地裏で浮浪児として暮らすリューイが出会ったのは、変わり者の探偵・シャーロック・ホームズだった。
リューイは、浮浪児を見下すホームズに憎しみを抱きつつも、ホームズの『猟犬』として働くことを決意する。
浮浪児と探偵。不可思議なバディの謎解き合戦がはじまる。
ホームズのパスティーシュはどうしても、ワトソンとホームズというバディにフォーカスした話になりがちなイメージがあるが、「ガス灯野良犬探偵団」には今のところ、ワトソンは出てこない。
ホームズは開業したばかりという設定なので、おそらくはワトソンと出会う前のホームズの話だ。
そして、主人公のリューイはおそらく未来の世界での「ベイカーストリートイレギュラーズ(ベイカー街遊撃隊)」の一員という。
ありとあらゆる人間から暴力を振るわれ、蔑まれ、それでも路地裏で生き抜いていく浮浪児たちの人生を追いながら、ホームズとの交流を描いていくのがおもしろい。
パスティーシュって、原典に忠実である必要はないけど、「原典におけるこのパートを切り取っています、こういうリスペクトがあってやってますよ」という目的が明確だと、作品としての質が上がると思う。
パスティーシュでありながらホームズを主人公にしない、ワトソンを配置しないなど、変則的でありながら、それでいてきっちり時間軸を決めて原典ホームズに差し挟む話をやっている。
この力加減がたまらなくて、続きが気になっている。
#読書
2024年6月21日(金)
座布団さえあればどこでもできる究極の話芸・落語。
突然、父の志ん太が破門された日から、朱音は噺家を志しはじめる。
個性的な仲間たちとともに目指す、噺家の頂点。
果たして、朱音の噺家としての道はどこへつづいていくのか。
超シンプルで王道。丁寧すぎるほど丁寧なジャンプ漫画。
落語シーンで、客席を呑み込んでいく噺家たちの迫力がきっちり表現されている作画がいい。
最後にドン!とキメの大ゴマでサゲや演目名が大写しになるのがかっこいいんだよなー。
特に「真景累ヶ淵 豊志賀の死」は急に異能バトルの世界に引き込まれたかと思った。
怖すぎてゾッとする。BLEACHの隊長格の卍解に匹敵する強さを絵面で見せつけられた。
キャラクターたちも個性的ながら落語を愛する熱い人たちばかりで、とても読みやすい漫画だと思う。つづきも気になる。
金属バットの友保さんのそっくりさんキャラがいるのだが、主人公のライバルとしてかなりの良キャラで、なおかつ出番も多くてびっくりする。性格も友保さんっぽい。
「これ、友保さんじゃない!?」と思いつつググった結果、「ヒロアカにも友保さんがいる」という謎情報を仕入れてしまった。
漫画キャラにしやすい造形なのか……?と無駄に気になってきた。
#読書
今年読んだなかでベスト3に入る小説かもしれない。
不妊治療がうまくいかず離婚に発展し、さらに溺愛していた弟が急死し、途方に暮れて自暴自棄になっていた野宮薫子は、弟が残した遺言書をきっかけに、弟の元恋人・小野寺せつなと出会う。家事代行サービス会社「カフネ」で働くせつなを手伝ううちに、薫子は失った感情を取り戻していく。
以前から繰り返し述べているのだけれど、『死者の本心を探して旅をする』話が好きだ。
死んだ人の気持ちを過去にさかのぼって正確に知ることは、基本的には不可能だ。でも、残された人たちは当然、それを知りたがる。その謎を解くことで、悲しみから逃れようとするかのように。
「カフネ」では、急死した弟・春彦の本当の気持ちを探し、薫子とせつなが真実を探っていく。
最初は喧嘩ばかりしていたふたりが、徐々に歩み寄り、互いの事情を知っていく過程がすごく丁寧に描写されていて、ページをめくるたびに泣きそうになった。
「カフネ」は、春彦の死の真相を探し求めるミステリ仕立ての物語でありながら、これからの未来を生きていく薫子とせつなの物語でもある。
春彦がなぜ死んでしまったのかを知っても、彼はもう戻っては来ない。
彼がいないことを受け容れて前に進むことが、彼女たちにとっていちばん大切なことだ。
だから、この物語においてミステリ的な要素は添え物にすぎない。
でも、そのそっと添えられた謎がまた優しく感じられて、すごく愛おしい。
悲しみをひとつひとつ乗り越えて、前に進む。そして、断絶を感じた相手と、もう一度勇気を出して対話する。人間関係から逃げずに、未来を見据える。
その過程のすべてが尊くて、大好きなお話だった。畳む
#読書