タグ「読書」を含む投稿[158件](5ページ目)

NHKのドラマ版がおもしろいので、よしながふみ「大奥」を改めて最初から読む。
Amazonのポイント還元セールのときに、全巻電子で買い直した。
ドラマでは端折られている話も多くて、ドラマで見たばかりでも、もう一度楽しめる感じ。

呉服の間で針をなくして帰れなくなってしまった少年のために、水野が呉服の間のメンバーを全員一列に並べて、太鼓を叩きながら探させるシーンがすごく好きなんだよな~。
水野の人柄が端的にわかる名シーン。

あと、ドラマでは雑音になるから意図的に端折ったんだと思われるけど、捨蔵(お楽の方)関連の話がけっこう好き。
大奥のなかではかなり珍しい、明るくお気楽な性格の彼と、嫉妬に狂う有功が歩み寄っていくのがいいんだよな。
顔は有功に瓜二つ、性格は水野に近いという、主人公たちの中間を取ったようなキャラクターで、そんな造形だからこそ、有功が家光からの寵愛を失った彼の最期を看取るシーンは胸に染み入る。
こんなキャラを平然と使い捨ててしまうあたりの思い切りのよさもおもしろい。

ドラマに追い付かない程度に原作の読み直しをしていく予定。

#読書

マンガワンのアプリで「ポケットモンスタースペシャル」の1巻を読んだ。
小学生のころに夢中で読んだ作品だけれど、令和に読んでもやっぱりおもしろい。

初期の相棒が御三家ではなくニョロゾなのがすごく好きだし、マチスとキョウをロケット団の一員という設定にしてしまうあたり、チャレンジ精神が旺盛でワクワクする。
コラッタとかポッポとかでもなく、ニョロモから丁寧に育てたニョロゾなのが、すごく強者っぽいんだよな。

マチスがレッドに10まんボルトを食らわせて気絶させ、海に捨てるという、ゲーム内ではありえないポケモントレーナーへのダイレクトアタックはいまだに衝撃的。
バトルが特別強いわけではなく、ポケモンを捕獲したり懐かせたりするのが超うまい主人公という設定も、絶妙に読者の心をくすぐるデキる主人公の概念で好き。
赤緑をプレイしながら、自分をレッドに重ねていた小学生は多かった気がする。

コミカライズはゲームの描写や展開に忠実でなくてはならないように思われがちだけれど、実はゲームとは全然違うほうが楽しめるのではないかという、コミカライズという概念への革命を起こしている作品だと思う。
ゲームとは全然違うのに、「ゲームの中でもこんなことが起きているんじゃないか?」と思わせる独自のリアリティが楽しいんだよなー。作り込みが半端ない。

#読書

Kindleで「同窓会 アパシー 学校であった怖い話1995」を読む。

アパシーシリーズは、SFC版と比べると同人っぽさが強くて、いまいちな話もちょこちょこあるのだけれど、これはSFC版に近い雰囲気でよかった。

おとなになった六人が新聞部の部室に集まって、もう一度七不思議の集会をするという話。
漫画家として大儲けしている細田、学園で教師をしている新堂、結婚している福沢……というあたりのほどよい現実味から、いまだにニートをやっている荒井という、えげつない未来に突き落とされるのがいいな……。
そして、六人が部室に集まって集会をしたことによって、また不思議なことが起きてしまうという展開がSFC版のIFっぽくてよかった。
日野さんだけ怪異の影響を免れてるのもそれっぽいよなー。

#読書

荒木あかね「此の世の果ての殺人」を読了。
第68回江戸川乱歩賞受賞作。

2021年、「テロス」と呼ばれる小惑星が発見された。
テロスは2023年3月7日に地球と衝突し、その衝撃で30億人が死亡する。
その際に発生する大量の粉塵が太陽光を遮るため、生き残った人類に待っているのは餓死か凍死のみだ。
人々はパニックに陥り、暴動や集団自殺に至ったり、自分の街を捨てて国外に逃げたりしていた。
そんななか、残り67日で世界が滅ぶという状況下で、主人公であるハルは教習所に通い、免許を取ろうとしていた。教習所のイサガワ先生とともに。

小惑星の衝突による世界の滅亡と免許センターという、見るからに異質な組み合わせからスタートし、このふたりが連続殺人事件の犯人を追いかけていくという疾走感のある展開がすごく楽しかった。
正義感に突き動かされ、末世でも執念で殺人犯を探すイサガワのキャラクターも危うくていい。
ハルはどうして免許を取りたがっているのか?
イサガワはなぜ免許講習をしてくれているのか?
そして、約2ヶ月後に世界が滅ぶことがわかっているのに、犯人はなぜ人を殺すのか?
細かい謎が散りばめられていて、飽きずに最後まで読めた。
ハルとイサガワがふたりでドライブしているシーンが多いんだけど、車のなかで気だるい雰囲気でだらだらしゃべっているのが好きだったなー。
女性ふたりと世界の終わりという組み合わせにはやっぱり弱い。

#読書

澤村御影「准教授・高槻彰良の推察 民俗学かく語りき」1巻を読んだ。

2021年にドラマが放送されていたらしい。
怪異を収集する准教授と、ある出来事から孤独になってしまった大学生がタッグを組み、怪異が起こしたように見える不思議な事件を解決していくというミステリ。

推理をがっつりやるというよりは、そこにある人間関係やホームズ役&ワトソン役の心の交流が中心。キャラミスっぽい感じ。
ふたりとも自分の身に起きた理不尽な出来事を解き明かすために『怪異』との接触を求めていて、事件が本当に怪異によるものなのか、それとも人間の手で起こされたものなのかを徹底分析していく。

性格描写はやや萌え寄りであざといが、キャラクター性がはっきりしているので読みやすく、先も気になる感じでよかった。
ライトで読みやすいので、疲れたときにまったり読むのにいいかも。
続きも読んでいきたい。

#読書

お笑いコラム&レビュー誌「読む余熱」のVOLUME 5を読む。
錦鯉が優勝した、2021年のM-1グランプリの特集号。
基本的にネタへの否定はなし。懐かしがりつつ、すっきり読める構成だった。
2022年のM-1で盛り上がってるところだけれど、2021年を振り返ってみるのもいいなー。
ちょこちょこと忘れていたネタもあり、ひとつひとつを新鮮に思い出せた。
K-PRO代表の児島さんがオカンの目線で地下芸人たちを眺めているのが特によかった。

「読む余熱」は全巻購入しており、ほかの巻もちびちび読む予定。
2022年M-1総括号がきっとこれから出るはずなので、楽しみ。

#読書

5年前に購入して放置していた、南方純/高河ゆん「悪魔のリドル」をようやく読んだ。

高河ゆんの殺伐百合カップリングだけを摂取したい!超高速で!という人に最適な、百合カップリングカタログに限りなく近い漫画。
カップリング数に見合わない全5巻という巻数なので、ちゃんとした物語を期待しているとペラペラでずっこけるかもしれないけれども、百合カタログとしてはかなり優秀。
「こんな百合が見たい!」に対応してくれる最高の漫画だった。
アニメ版と同時進行?ということで、描き分けが髪の色を基準にしているっぽくて、最初は正直だれがだれだかわからないという欠点はある(以前はこれで挫折した)。
大量の殺伐百合を一気に摂取することが可能で、これだけいろんな種類の百合カプがあれば、どれかひとつくらいはたぶんヒットするのでは?といった趣がある。
千足&柩がカップリング的にはイチオシだったが、最後の最後で、推しキャラは走り鳰さんだな……という感じに落ち着いた。
アニメ版もそのうち見たい。



#読書

久部緑郎・松本渚「文豪ナツメは料理人が嫌い」1巻を読む。

「らーめん才遊記」における芹沢人気を逆手に取り、「芹沢&ゆとりの力関係を逆転させ、ゆとりが完全に芹沢を支配できるようになったら、めちゃくちゃおもしろくない?」という狂気の発想で描かれている気がする漫画。

料理人の腕はいいのになぜか繁盛しない店に行き、料理人の苦悶の表情を眺めるのが趣味の、性格が死ぬほど悪い文豪・夏目潤一郎。
夏目の前に現れた、狂信的なファンの如月は、彼の人情小説を信奉するあまり、その非人道的な行いを正そうと、ひたすら暴走しつづける。
料理人の絶望を眺めるのが大好きだったはずの夏目は、如月に弱みを握られ、料理人たちの店を立て直すコンサルティングをやるはめになってしまう。
如月から逃れようとすればするほど、彼女の異常性に絡め取られていく夏目の明日はどっちだ!?……という話。

味は悪くないのに閑古鳥が鳴く店のコンサルティングがテーマという点は「らーめん才遊記」と変わらない。
ただ、夏目も如月も狂気に満ち満ちていて、もはやコンサルティングそのものはまったく主眼ではないというところがおもしろい。ほぼオマケ。
「らーめん才遊記」で芹沢さんがゆとりに振り回されてタジタジになっているシーンが好きな人に送る、「らーめん才遊記」のセルフ二次創作漫画に見えなくもないが、それにしては如月の狂気が強すぎる。
料理漫画でチェーンソーを振り回すヒロインなんて、「鉄鍋のジャン!」ばりにおかしいぜ……。
1巻の時点でここまでやってしまって、2巻以降いったいどうするつもりなのか。更生することはできるのか。むしろさらに暴走するのか。気になりすぎる。

なお、紙の本の帯には芹沢さん本人が推薦コメントを寄せている。
「天才ラーメン職人・超人気フードコーディネーター芹沢達也氏推薦!!!!!!」という文字がおもしろすぎる。

#読書

森博嗣「馬鹿と嘘の弓 Fool Lie Bow」を読んだ。

社会派……というには厭世の色が濃すぎるのだが、どちらかというと本格というよりは社会派っぽい読み心地だった。
この作品の発売日は2020年の10月。
その約一年後にどんな事件が世の中を騒がせていたのかを考えると、薄ら寒くなる。
犯人の動機そのものはありふれたものではあるのだが、その思考に周囲が寄り添おうとする日々をずっと眺めていた読者としては、やはりこういう形で幕が引かれるのは非常にやるせない。
森博嗣作品の主人公としては、こういう世の中を斜めから見ている性格のキャラクターはわりとよくいる印象があり、まさかこんなふうに扱われるとはまったく予想していなかった。序盤からなんとなく不穏な気はしていたが。

加部谷恵美にまた出会えてすごく嬉しかったがゆえに、ラストではかなりつらくなったな……。
帯には「悪いのは、誰か?」という大きな字が書かれているのだが、「その弓を引いたのは誰か?」というのを考えると、加部谷さんと同じ気持ちになれて、大きく心が沈む感覚を味わえる。

GシリーズもXシリーズも途中までしか読めていないので、そちらもまた読まなくちゃなーと改めて思った。
Gシリーズは終盤まで来ていた気がするし、この機会に読むぞー。

#読書

佐藤友哉「少年探偵には向かない事件」を読了。

メインキャラクターに「入来院」がいて、「これは鏡家サーガ関連作なのでは!?」と期待して読み始めたが、ぜんぜん関係ないし、鏡家サーガのような展開にはまったくならない。
今回のテーマはジュブナイルなのだが、文体ははやみねかおるのコピーっぽい雰囲気で、トリックの内容は非常にお粗末……毒のある文体やグロテスクな展開などはすべて封印されているため、いつもの佐藤友哉の文章を読みたい人にはあまりおすすめできない。

「少年探偵には向かない」というタイトルのフレーズからして、ジュブナイル風な雰囲気とは裏腹にとんでもなくブラックで大人向きな真相があるのか!?とすごく期待値を上げて読んでしまったのだが、実際はジュブナイルとしてはなりそこねであり、本格としてもイマイチ……という残念な結果に終わった。
あまり書く時間がなかったのか、やる気がないのか、どっちなんだよユヤタン。
単純にジュブナイルを書くのが向いていないだけかも。

初瀬川研究所のあれこれがうまいことなじみそうな話なのに、ここでそれを出さずしてどこで出すんだよ!?とツッコみたくなるなあ。
あらすじの時点ではかなりおもしろそうだったのに、蓋を開けたらコレジャナイ感が強かった。

#読書

澤村伊智「怪談小説という名の小説怪談」を読んだ。

相変わらず、ホラーなのに理知的でおもしろかった。
作品のなかに理論がちゃんと通っているので、説得力があるし、スッキリ読める。
存在しない小説の恐怖だけがどこまでも追いかけてくる「涸れ井戸の声」がベストだった。
「高速怪談」だけは既読だったが、構成が凝っていて完成度高いと思う。これはなにかのアンソロジーに入ってたのかな。
ラストの「怪談怪談」もよかったなー。
やっぱり、そこにあるのが『文字』ではなく『音声』であることってすごく怖いんだなと思う。

#読書

ヒオカ「死にそうだけど生きてます」を読了。

貧困家庭で虐待されて育ち、おとなになってもその影響を引きずりつづける著者による半生の記録と、日本社会の抱える問題について書いた本。
いつしか日本社会に溶け込んでしまった『自己責任』というよくない概念と、その裏で踏みつけにされつづける貧困者の姿を丁寧に語っていて、具体的ですごくわかりやすかった。

高校の制服が買えない。
参考書が買えなくて勉強ができない。
大学の飲み会に行けない。
流行についていけない。
新しい下着や洋服が買えない。
成人式に着ていく振り袖がない。
家賃の予算は3万円で、ぼろぼろのシェアハウスにしか住めない。
問題が起きて引っ越ししようとしても、やはりその先もシェアハウス。
すべては、お金がないから。

そういったちょっとした不具合がいたるところに散りばめられた人生では、すこしの体調不良ですら、命を脅かす出費となりうる。入院先の病院で「これ以上入院していたら破産してしまう」と言って泣くくだりは本当に悲しくて、つらかった。

『子どもの貧困は救うべきだが、20歳を超えているなら自己責任だ』など、驚愕するような残酷で想像力のない意見が著者のところへ届いているのを見て、やっぱりこの国は致命的に病んでいるのかもしれないと思う。20歳で急に人生や環境が切り替わることはなく、子どもの貧困と大人の貧困は完全に地続きである。

人生の初期パラメータは、どんなに努力しても埋めることのできない格差である。
最低限の教育が受けられるかどうかも、いい学校へ行けるかどうかも、奨学金を借りずに大学に行けるかどうかも、たいていは生まれたときの環境によって、ほぼ決まっている。
学力そのものは努力で伸ばせても、『学力を努力で伸ばせる程度に恵まれた勉強環境』は努力しても手に入らない。
静かな勉強部屋があるとか、四六時中怒鳴りつけてくる親がいないとか、ヤングケアラーでないとか、親がきちんとした食事を三食つくってくれるとか、親の収入が充分であるとか……そういった環境を当たり前に手にしている人は、それが恵まれているとは気づかないだけだ。
努力で格差を埋められるような逆転劇は、誰にでもできることではない。むしろ、珍しい部類のものだからこそ話題になる。

恵まれている人ほど、自分の現在の社会的地位は『自らの努力で勝ち取ったもの』だと思いたがる。
手に入れられなかった人に対し、『努力が足りなかった』『自己責任だ』と思いこんでしまう。その考え方こそが、格差を余計に広げていくのに。
自分の強者性に自覚的になりながら、弱者性とも丁寧に向き合っていきたいと思える、そんな本だった。

#読書

野原広子の「消えたママ友」を読んだ。第25回手塚治虫文化賞短編賞受賞作。
ある日突然、子どもと夫を残して消えてしまったママ友の有紀。
彼女は、キラキラした美人で、仕事と育児を両立していて、イケメンの旦那さんがいて、とても幸せそうだったのに。どうして、突然蒸発してしまったのだろうか……。
有紀の友人である春香、ヨリコ、友子は、それぞれに思い当たることを手がかりに彼女の足取りを追っていくが……。

非常にリアリティのある群像劇。
それぞれの見ている世界や情報が非常に断片的で、読者だけが全貌を知っているかのような構成がおもしろい。
最後のシーンに至っても、やはり彼女たちは事態の全貌を知ることはないし、有紀の抱える心の闇を完全に知ることはできない。すべてを知っているのは常に読者のみだ。
これはママ友関係にかぎらず、現実すべてに言えることだが、そこにある人間関係のすべてを知るということは不可能で、どれだけ知りたいことであったとしても、伏せられた情報は伏せたままにして生きていくしかない。
むやみに知ろうとすると余計に壊れてしまうこともある。

そして、すべてを知ったところで、もはや有紀の家庭はもとには戻らない。
有紀の息子であるツバサの人生も、きっとこれから静かに壊れていくのだろう。
自分には知ることのできない現実を受け容れることで、人生は進んでいくのだ……というテーマが垣間見えたような気がして、不思議な読書体験だった。

#読書

高瀬 隼子「おいしいごはんが食べられますように」を読了。

第167回芥川賞受賞作。
芥川賞にしては普遍的で読みやすいテーマを扱っているし、タイトルもキャッチーですごくいいと思う。
が、タイトルと表紙のファンシーさに惹かれて読み始めると、予告なく奈落へと突き落とされる。

見た目はかわいいが、心と体が弱く、片頭痛などを理由に仕事を何度も早退してしまう芦川。
自分も頭痛持ちなのに、芦川の仕事の穴埋めをするためにずっと我慢している女性社員の押尾。
芦川の仕事のしわ寄せにモヤモヤしつつ、彼女の可憐さに惹かれてもいる男性社員の二谷。
物語はこの三名を中心に進んでいく。

守ってやりたくなるような、可憐で弱い芦川に対して、職場の人たちはすごく甘い。
二谷は芦川のかわいさに惹かれて彼女と付き合いはじめるが、食に対する価値観がまったく噛み合わず、心のなかでは充実した食事への価値観を持つ彼女への憎悪を募らせる。
押尾はそんな二谷と逢瀬を重ねながらも、肉体関係は持たない。
押尾もまた、食に対する同調圧力や、彼女を特別扱いする職場に耐えられず、芦川を憎悪していた。

『かわいくて弱い』というだけで、他人よりも得をする人間というのは確実にいて、そういう人が職場をクラッシュしてしまったとき、犠牲になるのはその人本人ではなく、その人を疎外しようとした側である……という状況が非常にリアルだ。
最適な結婚相手として選んだ芦川のことを憎悪しつつ、肉体関係を持たないことを選んだ押尾を食事の価値観が合う相手として付き合いつづけるという二谷の行動はやや極端なのだが、でも、打算的な人の人生ってこういう形なのかもしれない……という気もする。

食事そのものを憎悪しているような二谷の思考の内容はやや現実離れしていて、「こういう人いる!」というレベルではなくなってくるのだが、芦川に関してはこういう職場全体へと負担を強いるタイプの人はどこにでもいるので、わりと「あるある」キャラだなと思う。
芦川本人はまったく悪い人ではない。むしろ漫画のヒロインのような人間だと思う。
だが、みんなに守られ、庇護され、仕事では優遇され……そういう人が職場の全員に生菓子の差し入れをしてくる(高カロリーかつ、今日中に食べなければ悪人扱いされる)……という人物造形は醜悪そのものであり、こういう人がかわいがられる背後で、確実に苦しんでいる人がいるよね……ということがありありとわかる。
そのヒリヒリするようなリアルさが非常に秀逸。
芦川が負の感情を持たないようなかわいらしい人間でありつづけられるのは、彼女の周囲にいる押尾や二谷が負の感情を肩代わりしているからなのかもしれない。

個人的には、その日のうちに食べなければならないようなものや、手作りのお菓子を職場に頻繁に持ってくる芦川の行為は想像力に欠けていると思う。
ダイエット中の人とか、糖尿病の人とか、甘いもの苦手な人とか、衛生観念にうるさい人とか、いろいろいるはずなのに、問答無用で持ってくる上に、それを断ったり捨てたりするといじめ扱いされるというのは非常にエグい状況である。まあ、職場のゴミ箱に捨てるのはよくないけど……。
たまにならともかく、毎日のように持参されたらと思うとなあ……。

どこの職場にも、芦川のような人って大なり小なり確実にいるので、そういう職場での理不尽なしわ寄せを経験したことがある人には、非常に刺さる小説なのではないかと思う。
二谷と押尾はそれぞれの視点での話が展開されるが、芦川が視点の話がないという構成もおもしろく、芦川がこの状況のなかでなにを考えているのかは明かされることがない。
ブラックボックスのように不気味で、それでいてとてもかわいらしい……という印象的なキャラクターになっている。

#読書

「次にくるマンガ大賞2022」の投票結果が発表されていた。

WEB部門は「鍋に弾丸を受けながら」、コミックス部門は「私の推しは悪役令嬢。」に投票した。
結果、「鍋に弾丸を受けながら」は残念ながら選外。
「私の推しは悪役令嬢。」は8位で、そこそこ奮闘。昨年よりも順位が上がっている気がするぞ。

個人的には「鍋に弾丸を受けながら」があまりにもイチオシだったので、選外なのは悲しいけど、これは間違いなく良作だし大好きなので、めげずに推していきたい。

読んでいないけど上位に入っていて気になる作品もいくつかあるので、ちょこちょこお試しで読んでみたい。
落語のやつが特に気になるんだよなー。

#読書

「ワールドトリガー」の新刊が9月に出る!
ということで、今まで大事にとっておいた24巻を読む。
ランク戦が終わり、遠征選抜試験がはじまるが、遠征選抜試験はこれまでのチームを解体し、新たにシャッフルして作られた部隊で行い、さらにそれをA級隊員が審査するという形式だった!
というお話で、遠征に向けた準備のお話かと思いきや、めちゃくちゃがっつりおもしろい。

今回、一番印象的なのは、「どうして部隊をシャッフルしたのか?」という理由を、試験を受けている隊員たちに自分で考えさせ、ディベートによって意見を深めるくだり。
普段のチームとは違う相手と、冷静に話し合う。
その話し合いを観測しているA級隊員たちが、別室で隊員について評価し、採点する。
それらすべての隊員たちを幹部たちが審査している……という構造が複雑で読み応えがあるし、シャッフルの理由について、十人十色の意見が出揃っていき、その意見に対してA級隊員や幹部が自分の意見を追加していくという流れが最高に楽しい。
相変わらず、とても論理的で読みやすい漫画。

チーム編成前に、「一緒に遠征に行きたい人」と「行きたくない人」をそれぞれアンケートで書かせて、幹部たちがくじを操作して「行きたくない人」に書いた人同士を同じチームに編成しているくだりも好きだなー。
個人の感情をできるかぎり均等にならして組織を最適化していく流れが可視化されてて、すごく気持ちいい。
普段は身内のノリでワイワイやっていた部隊を、一旦無に戻して、一から新たな人間関係や戦略をつくらせるの、めちゃくちゃ刺激になるし成長になりそうで、いいよな。

真面目なキャラばかりなので、そこで出てくる意見も真面目なものが多いのだが、その一方でネイバーにはネイバーならではの論理や死生観があったり、生駒さんだけ通常運転だったり、緩急がちゃんとついているのがいい。
生駒さんの「ドキドキシャッフルでお祭り感をアップさせるため。今後も定期的に開催してほしい。」というアホ意見は本当に好きだし、隊長のセリフとはとても思えない。
ワールドトリガーで入りたい部隊ナンバーワンすぎるな、生駒隊……。
これで普段は頼れる隊長なのがすごい。

#読書

森山 慎「鍋に弾丸を受けながら」の2巻が発売した。
すごく大好きな作品なので、ちょっとずつ読んでいる。

作品の話をする前に、実話系の漫画への自分のスタンスと向き合っておこう。
他者を中心に描くエッセイ漫画は暴力である、という話をよくしているような気がする。
だからといって、すべてのエッセイ漫画が嫌いであるわけではもちろんない。
その暴力性を自覚しながら、できるだけ気をつけて暴力にならないように描いているエッセイ漫画については、すごく好きになるというだけだ。

「他人を漫画にする」という行為は、時に暴力的であり暴露的である。
たとえば、守秘義務のある接客業を題材にした漫画で、ちょっとおかしな客の話を赤裸々に描いたり。
かつての友人の話を、友人に無断で描いたり。
どう考えても本人の許可を取らないままで悪し様に描いているだろう、と思えるようなエッセイ漫画は世の中にたくさんあふれていて、こういう作品は苦手だ。
相手を論破してやりこめてやった、というような内容だと、さらに嫌な気持ちになる。

そこまで行かなくとも、エッセイ漫画では、嫌いな相手をブサイクに描くこともできるし、描き手に都合のいい作り話を描くこともできる。
場所と容姿と名前という情報が用意されていれば、読者がその人本人にたどり着いてしまうこともあるかもしれない。
アマチュアのSNS漫画などではたまに起こることだけれど、意図的に読者を扇動して、気に入らない人物を攻撃させることも可能だろう。
作者の視点で描いている以上、完全なノンフィクションではありえないし、事実に対してフェアではありえない。
でも、一見は完全なノンフィクションとしてふるまってもいる……少なくとも、自分から「これは嘘ですよ」と謳っているエッセイ漫画は少ないだろう。
『本当』っぽく見えてしまうからこそ、漫画化される他者に対して、誠実な態度を取らなければならないのではないかと思う。

矢部太郎の「大家さんと僕 これから」では、「自分が描いた大家さんは、あくまでも自分自身のフィルターや漫画的演出込みの存在であり、実際の大家さんとは違う『フィクション』である」という内容の言及がなされていて、すごく丁寧に人と(そして漫画が及ぼす影響と)向き合っていると感じた。
漫画が有名になればなるほど、モデルとなった人物のところに、漫画と同じようなふるまいを求める人が訪れるはずだ。
読者にとっては、その人物は現実ではなくキャラクターだ。
そういう状況になったとき、その人物がどんな思いを抱くのか。不愉快にはならないだろうか……。
そこまで作者が想像してこそ、きちんと責任を持ってこそ成り立つジャンルだと思う。

さて、「鍋に弾丸を受けながら」は非常に誠実に世界と向き合うリポート漫画である。
語り手は、世界中の危険な地域を旅しながら、その土地でしか食べられない至高の食を追い求める。
その旅の過程のリアルさ、日本にいるだけでは絶対に食べられない危険なグルメ、そして旅先で出会う人々との絆が魅力的だ。
しかし、この硬派な作品のなかで、たったひとつだけ、非現実的な設定がある。
「主人公は、二次元の過剰摂取によって脳が壊れている。そのせいで、すべての人間が美少女に見える」という設定である。
なにも知らない人は、この設定を、漫画の見た目を萌え系にするための商業的策略だと思うかもしれない。
でも、これは旅先で出会った人のプライバシーを保護しつつ、どうしても『その人物の容姿が読者にとって好ましいかどうか』という余計な情報が発生しがちな漫画において、それを発生させないという、非常に倫理的な追加設定である。

中年であろうと、子どもであろうと、老人であろうと、もともとどんな容姿の人であろうと、女性であろうと、男性であろうと、鏡に映る自分自身も含めて、すべてが等しく『美少女』になる。
そこにはモデルとなった人物に対してのルッキズムのジャッジは存在しないし、読者に勝手なジャッジをさせることもない。
なぜなら、全員の容姿が等しく『嘘』だから。
『嘘』で覆い隠すことで、その人物そのものには読者がたどり着かないように、配慮されている。
語り手が旅先で出会う友人たちのなかには、裏社会のすぐそばで生きているような人もいる。
そういう、プライバシーを暴露されてはまずいかもしれない人の容姿について、読者に情報を与えないという作品構造がすごくよくできている。

実在の人物を題材にし、公に発表するというのなら、これくらいの熱量で向き合うことが理想なのではないだろうかと個人的には思う。丁寧すぎるくらいでちょうどいい。
そうして、旅で出会った人々への敬意を払っていることがわかるからこそ、「鍋に弾丸を受けながら」の表現のリアリティは増していくのだと思う。
危険な場所で出会い、心を通わせあい、美食をともにしたことへの感謝の気持ちをちゃんと持っているからこそ、漫画にするにあたって、彼らを最大限に尊重しているのだろう。

#読書

楠谷 佑「ルームメイトと謎解きを」、読了。

わけありの生徒たちが集う、ぼろぼろの男子寮「あすなろ館」。
昨年、とある事件が起きたため、寮生の数は減る一方。
そんなあすなろ館に動物大好きの変人・鷹宮絵愛が転入してくる。
鷹宮と同室になってしまった兎川雛太は、最初は鷹宮の身勝手さや変人ぶりに戸惑うが、徐々に友情を育んでいく。
しかし、ある日、学内で絶対的な権力を持っていた生徒会長が殺害される。
容疑者は、全員があすなろ館の仲間たち。
はたして、ふたりは事件の謎を解き明かすことができるのか。

文体はかなりライトで、設定や表紙絵もかなりキャラミスの王道っぽい感じなのだが、コンセプトは意外にも本格寄り。
終盤での華麗なる消去法推理はたまらない。
派手さはまったくないが、本格とは本来こういう形であるべきなのかもしれない。

おそらく、推理はせずにミステリの定石部分だけ見ていた人は、見事にミスリードに引っかかってしまうはず。
絶妙に紛らわしいヒントが出てくるのが憎い。
雑な予想とかではなく、まじめに推理と向き合った人だけがたどり着ける真相がいいなあ。

「変人でコミュニケーション能力がないタイプのホームズ役、社会に出たら絶対いじめられるよね!?」と常々思ってる人的には、「変人ホームズを高校に転入させたらどうなるか?」という実験としてもなかなか楽しめたり。

こういう愚直で泥臭い推理をする作品が急に飛び出してくるから、本格推理開拓はやめられないぜ……。

#読書

藤つかさ「その意図は見えなくて」を読了。

第42回小説推理新人賞受賞作を含む、全5篇の連作短篇集。
高校を舞台にした、ダークな青春ミステリ。
ミステリとしては若干小粒で物足りなく、もう一展開ほしいところだが、本作の主眼は名探偵(安楽椅子探偵)の暴力性に対する批判や、自己肯定感の低すぎる小市民が高校の運動部でどう生き抜いていくかという部分にあると思う。
米澤穂信の古典部シリーズが好きな人にはベストマッチしそうな内容。

この手のダーク青春もので、がっつり運動部の話というのはけっこう珍しい感じがする。
ダークなやつはだいたい文化部か帰宅部だという先入観があるけど、むしろ他人と自分を比べて切実に落ち込むような体験って、運動部の人のほうが多いのかもしれないなー。

安楽椅子探偵という存在への倫理面での批判はなかなか読み応えがある。
高校という閉鎖された空間において、殺人や傷害ならともかく、些細な日常の謎を解き明かすことに意味はない。
むしろ、解き明かさずにそのままにしておいたほうが適切であることのほうが圧倒的に多いはずだ。
他人の事情に土足で踏み込んでいくからには、問題解決や他者救済の姿勢が不可欠である……という常識的な大前提を理解しない安楽椅子探偵たちが、いかに無責任で情けない存在であるかということをしっかり描いていて、その視点がすごくおもしろかった。
ハウダニットには興味を示すが、ホワイダニットにはまったく興味がないミステリオタクの愚かさの描写とか、まさに普段の本格推理オタクたちの戯画化そのものなのだけれど、実際にこんなやつが存在していたら、そりゃあ迷惑だろう。

#読書

「三国恋戦記」のコミック版を購入して読んでいる。

これは乙女ゲームに限った話ではないのだけれど、恋愛ゲームのメディアミックスで、すべてのルートの好感度第一段階を通過する展開は、いつまで経ってもあまり好きになれない。
コミカライズで推しルートの話がぜんぶなかったことになっているとキャラのファンが悲しむから、とりあえず序盤の恋愛イベントはぜんぶ入れちゃおう……という戦略はわかるのだけれど、「一対一の恋愛の話」だと思って楽しんでいたゲームが、「全員とちょっとずつフラグを立てる話」にすり替わっていると、どうしても別物だなと感じてしまう。

ただ、玄徳ルートっぽいのに、玄徳のもとへなかなか帰れずにいろんな軍を転々とする……という原作にない展開はなかなか好き。
まだ最後まで読んでいないので、もしかすると玄徳ルートじゃないかもしれないけど……これで孟徳ルートだったら相当ショックだな……。

#読書

芦花公園「ほねがらみ」を読了。

ネット上にある真偽不明の怪談話の収集から始まり、収集した怪談のどこからどこまでが実話なのかを語り手が考察しながら調査を進めていくなか、だんだんと語り手そのものも怪異に取り込まれていくという、ロジカル系ホラー小説。

ただ怖いだけではなく軽い考察の要素が加わっていて、洒落怖や澤村伊智などが好きな人にはかなり楽しめる内容だと思う。
久しぶりに三津田信三を読みたくなった。
どちらかというと前半の「読むだけの怪異」への語り手の接し方が斬新でおもしろかったのだが、読み手が怪異に取り込まれるタイプのホラーが大好きなので、終盤の描写もそこそこ好きだ。
執拗に明かされないまま進んでいく伏字も怖い。

最初は理知的に考察をしている語り手が、怪異に深く取り込まれると冷静に思考できなくなっていく……という過程も非常に怖い。
文体的にはライト寄りなので好みは分かれるかもしれないが、クオリティは高いと思う。

#読書

「ジョジョの奇妙な冒険 クレイジー・Dの悪霊的失恋」の単行本の発売ってまだだったかな……そろそろ出てもいいんじゃないかな……と思い、販売サイトを見に行ったら、きょう発売だった。
自分の嗅覚に感謝しつつ、即購入。

「DIOの恐怖が支配するカイロの夜を切り裂いたあの光……」というフレーズがホル・ホースの口から出てきただけで、読んでよかったと心底思う3部&4部混合スピンオフ。
ホル・ホースが本当に好きなので、彼の魅力の本質を突いている的確なシーンが多くて、すごく嬉しい。
「あの日のホル・ホースから見た花京院」という視点を掘り下げるのがおもしろいなあ……。

3部と4部が大好きなので、両方のおいしいところをいい感じに拾ってくれているのが楽しすぎる。
2巻も楽しみ。

#読書

枡野浩一「かんたん短歌の作り方」を久しぶりに通しで読んだ。

短歌指南本のなかでも非常に好きな方向性の一冊であり、個人的なバイブルでもある。
枡野浩一が語る理想の『かんたん短歌』という概念を追いかけるのが楽しい。
短歌初心者がやりがちなミスを片っ端から潰していってくれるのが爽快でもある。

特に、
・短歌は定型であることでパワーが増すので、字足らず字余りはやればやるほど不利である、特に過剰に崩すのはよくない
・「おもしろいことをそのまま書く」ではおもしろくはならない、「おもしろく書く」が正しい
・助詞は抜かない
・句読点は使わない
・「共感を呼ぶ題材を見つけただけ」なのは技術を放棄している駄目短歌
・リズムを崩さない
・短歌以外の媒体で表現したほうがおもしろいものは短歌にしない

このあたりは、常に確認するべき事項だと思う。

「短歌をつくらなくても元気に生きていける人は、短歌をつくらないでほしいと思います。」から始まるあとがきも大好き。
この本を読み始めたのは、短歌をはじめたばかりだった2018年。
それから4年が経過したけれど、まだまだかんたん短歌の入り口に立ちつづけている気がする。
かんたんな構造だからこそすごく難しい、それが『かんたん短歌』。

#読書

散田島子「#わすれてしまうわたしたち」を読んだ。

《2019年前期・第75回ちばてつや賞一般部門》大賞受賞作。
推し変と炎上、代替可能な推しについての話。
女の子と女の子の組み合わせで、百合っぽい雰囲気になっていて非常に良い。

人は自らの欲望を満たすために推しを推す。
推しが一人いなくなれば、以前の推しによく似た新しい推しを探して推すだけ。
ひとつひとつには、すごくのめりこんでいるはずなのに、以前の推しに対する愛情や記憶はどんどん薄れていく。
でも、本当に推しに救われた人だけは、忘れずに覚えているはずだ。

「だから 大丈夫だって みんな明日には忘れてるから」
初めて会った日、人ごみで気分が悪くなって吐いてしまったLPEに対して、主人公はそう言って励ます。
その後のLPEは、どんどんファンから飽きられ、忘れられ、推し変されていく。
ファンの薄情さに呆れ、彼女はキャラを捨て、配信で本音をぶちまける。
「ほんとさ~何でだろうね あの頃一生LPEちゃん推します! とか言ってた人たちほぼもう推し変してるんだよね~あれだけ濃いキャラ付けしてやってたのにみんな忘れちゃうんだ~っていうね 悲しいしむかつく~」
LPEが死を決意した日、彼女から溢れでたのは、「忘れられたくない」という強すぎる思いだった。

彼女がどれだけ忘れられたくないと思っても、みんなLPEを忘れて、次の推しへと向かっていく。
それでも、彼女を忘れなかった主人公と再び出会ったあとのラストシーンでは、かつての主人公の励ましをなぞるように、LPE自身の口から、忘れられることの希望が語られる。

「大事な人に忘れられてしまうことの悲しみ」と「どんなにつらいことがあっても、どうでもいい人たちはみんなそのうち忘れてくれるという希望」が両方とも丁寧に語られていて、すごく好きだった。
推しにまつわる悲しい思い出を持つ人もたくさんいる現代社会で、「人生を先に進めるために、つらいことを忘れてもいい」「忘れられる方が幸せなこともあるんだ」と語りかけてくれる、優しい作品だと思う。

#読書

錦鯉「くすぶり中年の逆襲」を読み終わる。

テレビやラジオですでに知っているエピソードも多いのだが、お互いが相手を最高のバディとして尊敬しているということや、芸に対しての真摯な姿勢が伝わってくる一冊だ。

錦鯉の魅力的なところは、単なるバカを貶すだけの芸をやっているわけではなくて、バカの長所を最大限に活かそうと努力しているところだということを再確認できた。
長谷川雅紀のバカさをここまで丁寧に演出できるのは渡辺隆だけであり、渡辺隆を全力で信じてすべてを委ねられるのも、長谷川雅紀だけなのだということ。
ここに至るまでのふたりの長い人生もドラマティックで、胸に迫るものがある。

暗めの性格の芸人は他にも多々いるけれど、錦鯉の場合は、この年齢までくすぶりつづけたゆえの冷静な暗さや諦めが感じられることが多いなと思う。
ふたりとも、今の自分の状況を客観的な視点から俯瞰で眺めていて、言っている内容は暗いはずなのに、逆にポジティブに見えたりする。
隆さんの「結婚なんて考えていない。孤独死でもいいと思っている。」という言葉なんかはその最たるもので、人間、四十代前半でこんな言葉がするっと出てくるものなんだろうか?と考えさせられた。

そんな感じで、「笑い」だけではなく、様々な感情のツボをまんべんなく刺激してくる、不思議な一冊だった。
錦鯉ファンなら絶対に楽しいと思う。

#読書

マシーナリーとも子の「スシシスターハンター」3話まで読んだ。

酢飯を握りしめて悪を断つシスターが警察とタッグを組み、現代日本にはびこる吸血鬼をハンティングしていくという話。
破天荒なシスターと苦労人な警察官のタッグがいいよね……。平成ライダーでありそう。
「日本人がもっとも信仰しているのは白米だからな」という論理に妙に説得力があって、笑ってしまう。

画力よりもストーリー力で勝負するタイプのWEB漫画がたくさんあった時代を思い出す、どこか懐かしい作風がいい。
今後もキャラが増えそうな感じだし、楽しみ。

#読書

ジャンププラスで「美術部の上村が死んだ」を読んだ。
ゲームのプレイ動画を見ただけで満足してしまったり、ファスト映画だけで映画を見た気持ちになったり、ネットニュースの見出しだけで中身をわかったようになったり……過程はいらない、手早く結果だけほしいという人が、ネットの進化によってどんどん増えている。
結果さえ得られれば過程は捨ててもいいのか。
そんな結果重視の世の中を象徴するような『ガチのネタバレを食らってしまった』少年の物語。

シンプルだが、ちょうどいい風刺具合でよかった。
絵柄も話の雰囲気にあっていてすごくいい。
雰囲気的にタツキ先生の新作かと思ったが、違う人だった。
ジャンプラの読み切りは、ちょこちょこ名作が混ざっているので、たまに見に行くとお宝が出てくるときがあってお得な気持ちになれる。

#読書

「ワールドトリガー」14巻まで読んだ。

「気持ちの強さは関係ないでしょ」のシーンが印象的で、こういう現実的なところがいいよな~と思う。
土壇場の火事場の馬鹿力でゴリ押し勝利できるほど、個々の経験で蓄積した力は薄くない。
「気合」や「復讐心」だけでは勝てない。「主人公補正」はない。
そういう偶発的な要素を排除していくことによって、地道な努力とチームワークの重要さが際立って見える。
戦争や侵略がテーマの作品で、個別戦闘よりもチーム戦闘を強固に描いているのはうまいと思う。戦争ってそういうものだよね、という説得力がある。
一対一の決闘で解決しがちな部分を、すべてチームで処理しているというか。

ほぼ全員が汎用トリガーで戦うがゆえに『超強い武器を持っているやつが無双』な展開はあまりなく、個人の強さよりもチームの戦略が物を言うので、『力に選ばれた主人公がひたすら無双』な展開もない。
『力にまかせて暴れるだけのめちゃくちゃ強い脳筋』みたいなキャラもいなくて、力よりも戦略や情報戦が優先される、美学を感じるバトルシーンがいい。
頭が良くない人や戦略をわかっていない人が、戦争で勝てるわけないよね~、と納得させられるリアリティの質感。
従来の少年漫画のテンプレートをゆるやかに切り崩して、ひっくり返した部分を新たな魅力にしていっている感じが気持ちいい。

『超強い武器』としては黒トリガーという存在があるんだけど、黒トリガーはどちらかというと核兵器のような抑止力として機能していて、黒トリガーでただ勝ち抜けるだけという展開は少ないと思う。
むしろ、チームの力で敵の黒トリガーをどうやって崩していくかという戦略力のほうに重点が置かれている。
黒トリガーで圧勝したり虐殺したりすると、やられた相手が追い詰められて新たな黒トリガーを生み出してしまうかもしれないからそれはやらない、という戦争を激化させすぎない設定もうまい。

どんなに弱い人間でも、戦略とチームの連携で勝てるはず。
『たったひとりの強い主人公』の戦いは描かれない。
ひとりひとりは弱かったり、性能が極端すぎたりするけど、それぞれが努力してチームで勝つというビジョンが美しい。

#読書

「steady.」の2021年8月号と2022年3月号を買った。

キラキラしたおしゃれな女性向け雑誌だが、なんとどちらにもランジャタイが載っているのである!!
3月号を書店で買ったあと、去年の8月号が気になりすぎて、バックナンバーを取り寄せてしまった。

「好きな女性のタイプは?」「おうちデートをするなら?」「もしも女性にご飯を作ってもらうなら?」「恋愛の思い出は?」などのキラキラした質問に、すべてしょうもないはぐらかしで答える、安心と信頼のランジャタイ。

「もしもランジャタイとデートしたら?」というテーマの写真で、珍しくおしゃれな感じの服を着たふたりが写ってるんだけど、よーく見ると、伊藤ちゃんが食べているガリガリ君っぽいアイスを国ちゃんがずっと物ほしそうに見つめているだけという、「そんなデートねえよ!!!」というシチュエーションになっていて、越えてはいけないラインを絶対に踏み越えない意識が垣間見えた。

「空き地で拾ってきたビニール人形(起き上がりこぼしみたいなやつ)と付き合っていたことがありました。それが一番の大恋愛」という史上最悪の恋愛トークを繰り広げているのに、イケメン風な角度から写真を撮られているのがシュールすぎる……。
インタビューでは、相変わらず肛門浴をおすすめしていた。
今後、キラキラした女性向け雑誌で「肛門」の二文字を見ることはたぶんもうないと思う。

ランジャタイ以外のページを見ると、EXILE!!THE RAMPAGE!!イケメン俳優!!!てんこ盛り!!!みたいな感じで、温度差にクラクラした……!
肛門浴の話は絶対にしなさそうな人たちの写真が、これでもか!!とばかりに大量に掲載されていた。完全にアウェー。

ロングコートダディと錦鯉と空気階段のインタビューも載っていたので、お笑い好きとしては実りはそこそこあるのではないかと思う。
ロングコートダディは、比較的マジメにキラキラ系の質問に答えていた。
空気階段は、もぐらさんの体がくさすぎて銭湯に連れて行かれたのに臭いが落ちなかったという話をしていて、ランジャタイほどではないが、こっちもちょっとおかしかった。
なんなんだろうな、この雑誌……楽しいんだけど、歪んだ時空に引き込まれた感じで、現実味がない。翌朝起きたら、消えてなくなっていそう。
なお、現在発売中の4月号には真空ジェシカが載っていて、気になってまた買ってしまった。まだ読んでないけど、楽しみ。

#読書

福井セイ「かけあうつきひ」1巻を読んだ。

親元を離れ、上京して漫才師を目指す女の子ふたりの同居コメディ漫画。
絵がかわいいし、女の子の同居ものとしても安心して読める感じ。
いい意味でサンデーっぽい作品。
お笑いという視点から見ても今後おもしろくなりそうな気配がある。

漫才師として能力を上げる方法は、「ボケのクオリティを上げる」「ツッコミのクオリティを上げる」「ネタの精度を高める」などがなんとなく想像されるけど、本作ではひとりひとりの能力の高さよりも、ボケとツッコミとの関係性が非常に重視されている。

「相方に愛される才能」が重要だ……と評されるシーンが非常に印象的で、これはお笑いの真理を突いているかもしれないと思った。
コンビの片方が圧倒的にセンスを持つ漫才師だったとしても、天才の足を引っ張るような形で自己主張をするような相方がいたら、すべては崩壊してしまう。
お互いを最大限に活かす形で表現をするために必要なのは、「愛」であり「愛される才能」である。
今後、このあたりのテーマを掘り下げていくと思われるので、つづけて読んでみたいと思う。
主人公ふたりにはモデルとなった芸人がいると書かれているけど、だれなんだろうな……と考えながら読むのもおもしろそう。

#読書

■ハッシュタグ:

■日付一覧:

■日付検索:

■カレンダー:

2023年2月
1234
567891011
12131415161718
19202122232425
262728