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2025年10月1日(水)
2025年9月30日(火)
R-1ぐらんぷり2018優勝者である、先天性の視覚障害を持つ芸人の濱田祐太郎さんのエッセイ。
フランクで読みやすい文体と、冷静な判断力を感じさせる内容で、するすると読める。
コナン・ドイルの「ボヘミアの醜聞」が引用されているというサプライズもあって、楽しい読書時間だった。
芸能界(特にテレビ業界)における障がい者の扱いはまだ整備されていないところもあるだろうけれど、濱田さんがその先陣を切っていっているような感じもして、興味深かった。
周囲の芸人さんたちが、濱田さんの見えない世界を補完するためにたくさん協力してくれているのが伝わって、温かい気持ちになれた。
みんな、「障がい者がいると気を使う」というけれど、「障がい者側もみんなに気を使っている」んだけどな~、というくだりで、いろいろ考えさせられた。健常者の側に立っていることで、見えないことがたくさんあるなあ。畳む
#読書
2025年9月26日(金)
「ふつうの軽音部」の最新刊がよすぎて、「誘惑」を聞きに行ってしまう。
こういう超メジャーソングがこの漫画に出てくるの、なくはないけど、やや珍しいよなー。
「このタイミングで……!?この人が!?」というのもすごくよくて、ナイス選曲だと思った。
これからの展開も楽しみ。
#読書
2025年9月23日(火)
いや、これ、すごくない……?
まだ上巻が終わったところなのに、2025年に読んだ小説のなかでナンバーワンかも、という予感をビシビシ感じている。
性格のないからっぽの女の子・空子が、さまざまな他人の人格を切り貼りして世界を渡っていく物語。
空子の生きる世界は、現実の世界とすごくよく似ているのだが、ところどころが大きく違う。
物語の鍵を握るのは、ふわふわの白い毛を持ち、甘い声で鳴く愛玩動物の『ピョコルン』。
ピョコルンが単なるペットの範疇を超えた瞬間に、世界は揺らぎはじめる。
朝井リョウさんのこのコメントが、また興味深い。
小説というものの輪郭が、いわば地球を覗く窓の形が、本書によりまた大きく更新されました。
それはつまり、この本の中で初めて寛げる人がいるということです。
救済と爆弾は同じ姿で在れるのだと気付かされました。
「この本の中で初めて寛げる人がいる」というフレーズに納得したような気がする。
この作品の世界は残酷で、空子はたくさんつらい目に遭うのだけれど、そんな空子と、自分が案外似ているように思える。空子のように極端に分裂した人は本来はいないはずなのに、彼女に共感してしまうのは、現実世界の人間もまた、さまざまなペルソナを付け替えて場を乗り切っているからなんだろうか。
下巻も楽しみすぎる。
#読書
2025年9月7日(日)
これ毎巻おもしろいけど、今回はいつにも増しておもしろかったのではないかと。
他人の痛みから生まれる青春の輝きって、人工的に作れるんだね……。
人為的に作った青春の輝きという謎概念を導入していくスタイル。
バケモンにはバケモンをぶつけんだよ!のスタイルもいいし、続きも楽しみ。
#読書
2025年9月4日(木)
最近の売れ線や電子書籍ストアのおすすめは検索すれば出てくるのだが、そういうのではなくて、10年前、20年前の名作を読みたいんだよな。
実話ものはあまり好まない人も多く、総括的に探すのが困難なジャンルなのかもしれない。
#読書
2025年9月2日(火)
グルメ系、闘病系、お仕事系、子育て系、家事系、旅行系、ペット系などなど……いろんなジャンルがあって、飽きない。
そんな読書生活のなかで、おもしろいコミックエッセイの条件ってなんだろうなとよく考える。
・絵がうまい、かわいい
・マンガや構成がうまい
・体験の内容が特異である(普通の人が体験したことのないようなもの)
・事実のデフォルメがうまい(盛りすぎず、そのまますぎず)
・作者の人格がおもしろい(性格がいい、自分の感覚と合う、あるいは性格が悪すぎて惹かれるなど)
・実生活に役立つ(片付け、グルメ、自己啓発など)
これらの評価軸のなかで、一個でも飛び抜けているものがあれば、きっと印象に残るんだろうなと思う。
逆に、一個でも合わないポイントがあると、それだけで読む手が止まってしまうこともある。
自分の中でのナンバーワンコミックエッセイはおそらく、吾妻ひでお「失踪日記」だろう。
言うまでもなくマンガがうまい。テンポよくて、絵もかわいい。
家出をしてホームレスとして林で寝泊まりし、ゴミ捨て場を毎晩あさるというトンデモ体験も凄まじい。続編のアル中病棟もおもしろかった。
もっと壮絶な体験もあるはずなのだが、あくまでも明るい部分だけをすくいとってマンガにしているという冷静さも好きだったり。
絵柄のかわいさと、体験の非日常感のギャップが気持ちよくて、何度も読み返した思い出がある。
最近は読んでいなかったので、また読み返そうかと思っている。
#読書
2025年8月31日(日)
2025年、第23回『このミステリーがすごい!』大賞・文庫グランプリ受賞作。
二百年前の人骨のDNAと、四年前に失踪した妹のDNAが一致するという驚愕の謎の提示が魅力的すぎて読みはじめたのだが、この出だしがあまりにもよすぎて、終盤はトーンダウンした印象もある。
予想の範囲内の真相で、もう一捻りほしい気分だった。
以下、やや否定的な感想。
ミステリ的に納得できる解決が来るかと思って期待していたけど、SFとライトノベルのあわせ技のような結末で、リアリティに欠ける感じがした。倫理的に受け容れがたい部分もある。
ハラハラドキドキで楽しいし、一気読みできる勢いはあったけど、ラストには納得していないかも。
あと、内容には関係ないが、主人公が信じられないほどイケメンであるということを強調する描写がすごくしつこくて、「そんなに何度も言わなくてもいいよ!?」と思ってしまった。
ただ、メインのトリックはうまく機能していると思うし、好きだなー。
解説にもあるけど、読者を強く惹きつける謎の提示がデビュー作で完成しているのは凄まじいインパクト。
個人的には、「救急医である主人公の元に搬送されてきた男が、自分とまったく同じ顔だったが、すでに手遅れで、眼前で死んでしまった」という山口未桜「禁忌の子」とあらすじが似ているから、これと同じ水準を求めてしまって、勝手にややがっかりしたというのも大きいかな。
「禁忌の子」は医学部出身の方が書いていて、合間に挟まれる、医学的にリアリティのある描写がおもしろかったんだよなあ。
このミス大賞は「怪物の木こり」しか読んでいなくて、これが二作目。どちらも、最初からライトノベルだと思って読むほうがすっきりと読める作品かもしれない。すくなくとも、ミステリよりサスペンス重視の賞だということを念頭に置いておくべきかなあ。
大賞の「謎の香りはパン屋から」も、ノリが軽すぎて序盤で(第一章が終わったところくらいで)挫折してしまったんだよなー。こちらはもしかしたら徐々におもしろくなるかもしれないので、またリベンジしたいところ。畳む
#読書
2025年8月29日(金)
エロコメから純愛ラブコメへ。そしてその先は……?という分岐点に立っている。
内容を知らない人が表紙だけ見たら、「すごくエロいマンガなのかな?」と思いそうなんだけど、内容的には即物的なエロからは急速に遠ざかっていっており、そこがすごく令和的で好きだったりする。
二人が両思いになり、付き合いはじめた時点で「もう終盤戦なのかな」と寂しく思っていたのだが、実はここが新しいスタート地点であったという驚き。
既存の作品(少女漫画やドラマなど)では、両思いになったふたりは、雰囲気が盛り上がったままキスをして、そのまま朝チュン……というような流れが多い。
しかし、本当にそれでいいのか? 雰囲気に流されているだけで、ちゃんとした同意(避妊や挿入の有無なども含めて)、取れてないかもよ?……という。
あらもんのすごいところは、お互いが『恋愛』と『性欲』を相反するものとして俯瞰して見ているところ。
そして、『恋愛』と『性欲』を同じ方向に向かわせるために、ありえないほど長く、ふたりでディスカッションを行うというところだ。
相手のことを本当に愛しているのなら、高校生で性行為には及ばないのではないか。
性欲によって勢いだけで致してしまうのは、本当の愛ではないのでは。
時には保健の教師にも相談しながら、『高校生同士でセックスするのって本当に純愛の結果ですか? 単なるリビドーであるなら、本当に愛しているわけではないのでは?』というテーマを丁寧に掘り下げていく。
純愛と性欲が矛盾するとき、性的同意は得られない。
互いに相手を求めながらも、論理的矛盾や倫理観によって、性行為は回避されていく。
セックスだけでなく、たった一度のキスにも丁寧な同意を取っていく、お互いを思いやるためにひたすらに話し合うという誠実さが、このマンガを輝かせている。
『雰囲気で、流されるまま、なんとなくする行為』の不誠実さをここまで描き出されてしまうと、拍手するしかない。
最終的には結ばれるんだろうけど、そこへ至るまでのプロセスがあまりにおもしろくて、もうずっとこのままでいてほしいとすら思う。凄まじいマンガ。畳む
#読書
2025年8月28日(木)
そういえば、Gシリーズをまだ全部読めていなかったよな~と思い出して。
最後に読んだのが「キウイγは時計仕掛け」で、2022年だった。3年ぶり。
今回の主人公は、かつて真賀田研究所でプログラマをしていた、島田文子。
いつものおなじみメンバーが出てこなくて、ちょっと残念。これまでの話とは関係ないのかな……と思いながら読んでいたら、最後の数ページで怒涛の展開があって、びっくりした。
森ミステリィの真骨頂は、トリックの内容や謎解きではなく、真賀田四季という人の人生を読者が必死に追いかけていくという点にあるのだと思う。
凡人がどれだけ思考を重ねても、天才・真賀田四季には届かない。
それでも、彼女の歩んだ道を追いかけたいと願ってしまう。そんな不思議な魅力がある。
全貌が見えないまま歩みつづける、謎の多いシリーズだったが、ここへ来てようやく、謎の正体に届きそう。そんな手応えの一冊だった。
次は「ψの悲劇」へ。どうなるか楽しみ。畳む
#読書
2025年8月26日(火)
第173回直木賞候補作。
もしも、命のビザを発行した外交官・杉原千畝と、戦前推理小説の道を切り開いた江戸川乱歩が、親友だったら……というIF設定に基づく、友情歴史小説。
それぞれの視点から展開していく伝記ストーリーもおもしろいが、ふたりの人生がどう交わり、どんな影響を与えていったのかという描写も丁寧で、引き込まれた。
また、当時の推理小説界のそうそうたる客演メンツもおいしく、このあたりの時期のミステリが好きな人は名前を追いかけているだけでも楽しいと思う。
特に、横溝正史の大活躍ぶりは非常に好きだった。いいキャラしてる。
途中、「乱歩と正史」でもよかったのでは?と思うシーンがいくつかあった。
『戦前推理小説』から、『戦後推理小説』へと引き継がれていく魂の話や、その引き継ぎのきっかけとなったあの作品に関する話など、ミステリファンなら絶対に見たいであろう話題が目白押しで、どこからどこまでがフィクションなのかはよくわからないが、楽しい読書だった。
直木賞を受賞してもよかったんじゃないかと思う。受賞作なしなのが本当にもったいない。
#読書
2025年8月24日(日)
第173回直木賞候補作。
あらすじの時点でやや異様な感じがあり、これは直木賞っぽくないんじゃないかという予感がしていたが、本当にヘンテコな小説だった。
個人的にはクセ強でかなり楽しめたが、なぜこれが直木賞候補に……?というイメージではある。芥川賞寄りの作風かもしれない。
それぞれに犯罪スレスレの逸脱を見せる主人公たちの心の揺らぎ方がリアルで、すごく好きだった。彼らの逸脱ぶりが物語を動かしていくのがおもしろい。
最後の占い師師弟の関係性が巨大感情百合の一歩手前感あって好きだったなあ。このあとどうなるのか気になる。
#読書
2025年8月22日(金)
多忙な四人のおじさんたちが、喫茶店をはしごしながら、怪談を披露する「珈琲怪談」という名の男子会。京都、横浜、大阪などなど、さまざまな場所で披露される怪談は、四人のもとに異界を引き寄せる。
シリーズの3作目らしいが、ここから読んでも問題なさそうな感じだった。
どういうシリーズなのか気になるので、過去のものも読んでみようかなあ。
おじさんが四人集まってひたすらに仲良くダベるというシンプルなお話で、それ以上のことは特にない。
最後にがっつりメインディッシュが来るのかなあと期待していたが、実際は最後まで淡々としていた。
ライトに読めるのはすごくいいと思うが、ホラーが好きな人には物足りない内容かもしれないと思った。
あえてそこまで怖くなくしているのかも知れないが、毎回、怖くなる前に終わっちゃうんだよなー。
初心者向けのおかゆホラー、といったところか。
#読書
2025年8月14日(木)
自分で買った紙の本や電子書籍のほか、近所の図書館の棚にある本を手にとって読んだり、借りて読んだり、近隣の市の図書館からも本を借りてきたり、趣味の被らない人におすすめされた本を読んだり。
快活CLUBで読むマンガもいいし、スーパー銭湯やラーメン屋にあるくしゃくしゃになったマンガや雑誌もいい。
町の小さなカフェにある、今はもう手に入らないようなマイナーな本。
実家の片隅にある、ホコリを被った本。
古本屋さんにある、絶版になった懐かしいマンガ。
むかし、大学の講義でちょっと使っただけの参考書。
出版社の無料キャンペーンで配られていた、電子書籍の知らないマンガの1巻。
つまらない本もあるし、思いがけず素晴らしい出会いもある。
買った本しか読まないという人も、世の中にはたくさんいると思う。
けれど、お金を出して買った本というのは、きっと、すごく狭い範囲の本でしかない。
金銭的な価値を見出せる範囲のジャンルの本って、自分で思うよりも圧倒的に狭いのではないか。
「これを買おう!」と一瞬で決められる本ではなくて、たまたま出会った、よく知らない本というのが、自分の人生にとってはすごく大事だ。
図書館の棚にたまたまあったとか、行きつけの店の片隅でホコリを被っていたとか、本屋さんのおすすめの棚にあったとか、そういう突然の出会いが好き。
むかし、民宿のような小さな宿の階段の下のつきあたりにあった、誰も読まないようなひっそりとした本棚にあった「アンネの日記」を一晩かけて読んだことを、今でも鮮明に思い出す。
むかし、親戚の家で読んだ「電影少女」の官能的な描写にドキドキしたことや、それが途中までしかなくて、つづきが気になって、何年か経って買ってしまったことも。
そういう出会いをしつづけたいという気持ちで、きょうも町中のいろんな場所で本を探している。
#読書
2025年8月13日(水)
ふと、かつて「美少年探偵団」の原作がそこそこ好きだったことを思い出した。
アニメ版はまったく見ていないし、原作も最終巻(アンコール)を読みそこねていたんだけど、久しぶりに読みたくなってきた。
アニメはOPだけ見てみたら、雰囲気良さそうだった。これもシャフトだったんだ。
西尾維新のノリについていける人、かつ女性主人公の恋愛少なめ逆ハーレムが好きな人……というかなりニッチな人にしか刺さらない作品なのだけど、気軽に読めるのが好きなんだよなー。
アニメもそのうち見てみたい。
#読書
2025年8月3日(日)
だいぶ昔、9巻くらいまで読んでいて、読んでいない巻は最終局面だけだったんだけど、それでもドキドキしながら新鮮に読めた。
少女漫画というフォーマットではあるのだが、いわゆる『当て馬』的な扱いなどはなくて、当て馬的なポジションにいた人も最後まで重要人物として出番があったり、恋愛もべたべたした感じではなかったり、一捻りした感じが気持ちよかった。恋愛的に重要か重要でないかに関係なく、みんなに丁寧にライトを当てているお話。こういうの、もっと見たい。
「金の国水の国」は映画版しか見ていないんだけど、原作も読みたくなったなあ。あれも恋愛っぽくなくて好きだった。
#読書
2025年8月3日(日)
おかげで出費がすごいことになっているが、ある程度は見て見ぬふりをすることにした。
新しい漫画もいいけど、かつて好きだった漫画の世界を再訪するのにもハマっている。
あー、こんな展開あったなー。とか、懐かしいなー。と思っていると、体調が悪い日もなんとか乗り切れる気がするのだった。
#読書
2025年7月29日(火)
唐突だが、少し古めの駐車場で見かける「赤ちゃんが寝ています」という立て看板を見ると、なんとも言えない気持ちになる。
看板の文字は色あせ、設置からすでに30年は経っているのではないかという古び方だ。
おそらく、当時その建物にいた赤ちゃんも、今ではすっかり大人になっているだろう。
もちろん、「赤ちゃんが寝ています」は「実際に赤ちゃんが寝ている」という意味ではなく、「静かにしてほしい」という間接的な訴えだということはわかっている。
けれども、もしその建物にもう赤ちゃんがいなかったら?
それはつまり、「自分の願いを通すために、実在しない赤ちゃんを盾にしている」ことにならないだろうか。
「住民が寝ています」なら、住民がいるかぎり嘘ではない。
それなのに、あえて「赤ちゃんが寝ています」と書くのは、「起こしてしまったら大変なことになる、か弱い存在」を引き合いに出すことで、より強く静寂を求めているように感じられる。
そこに、ほんの少しの違和感、モヤモヤが残る。
最近の新しい駐車場では、こうした表示はあまり見かけない。
おそらく、一時期流行した決まり文句だったのだろう。
長くなってしまったが、ここで言いたいのは、「主張が正当であれば、その根拠となる事実は多少いい加減でも構わないのか?」という問題である。
たとえば「駐車場で騒音を出す人やアイドリングを続ける人がいて、近隣住民が迷惑しているから静かにしてほしい」という主張には異論の余地はない。とてももっともな願いだ。
しかし「赤ちゃんが寝ているから静かにしてほしい」という理由は、証明しようがなく、少しのハッタリを感じる。
仮に本当に寝ていたとしても、今は起きているかもしれないし、もはや赤ちゃん自体がいない可能性だってある。
「赤ちゃんが寝ている」という前提がなくなった瞬間、「では静かにしなくていいのか?」という矛盾が生じる。看板の趣旨から逸れてしまうのだ。
もちろん、この程度のハッタリなら許される範囲ではあるが、それでも「虚構であっても構わない」という姿勢は、慎重に見直されるべきではないだろうか。
さて、本書で取り上げられている「江戸しぐさ」もまた、似たような構造を持っている。
その中身は、「みんなに優しく」「思いやりを大切に」といった道徳的な内容で、基本的には異論を挟みにくい。
一部、自己中心的に感じられるしぐさもあるが、それも含めて「まあいいことを言っている」程度の印象を持つ人も多いだろう。
だが問題なのは、その道徳の来歴だ。
「江戸時代の庶民が実践していた」とされるこの江戸しぐさ、実際には、戦後に捏造されたもので、史料的根拠も裏付けもまったく存在しない。
むしろ、江戸時代の暮らしや常識に照らし合わせれば、とうてい成立しえないような考え方ばかりが並んでいる。
それでもかつては、「江戸しぐさはいいことを言っているのだから、事実かどうかは関係ない。人に優しくするべきなのだから」という理屈がまかり通っていた。
けれども、どんなに立派な主張であっても、それが虚構の土台に立っていれば、正しさそのものが損なわれる。そのことは、もっと強く意識されていいはずだ。
この本では、「江戸しぐさ」というオカルト的な道徳が、いかにして教育現場に食い込み、教科書にまで載るようになったのかを、著者が丹念に検証している。
本来なら「江戸しぐさはあった」と主張する側が、その証拠を提示すべきだ。だが、それは存在しない。
代わりに彼らが持ち出してきたのは、薩長による「江戸っ子大虐殺」によって証拠が失われた、という荒唐無稽な説である。薩長もいい迷惑だろう。
そこで、証拠が存在しないことを示すために、著者は逆説的に「江戸しぐさはなかった」とする側から、文献や当時の慣習をひとつひとつ丁寧に示していく。
そのロジカルな反証の積み重ねが、とにかく痛快で読ませる。
偽史が生まれる背景には、「愛国心」や「現実逃避」あるいは「道徳的理想」が潜んでいることが多い。
「自分の大好きな日本は、もっとすごい国であってほしい」という願望が、事実ではない歴史を生み出す。
その罠に、自分自身も引っかかっていないか、立ち止まって考える必要があると思わされた。畳む
#読書
2025年7月28日(月)
第39回坪田譲治文学賞、2024年本屋大賞受賞作。
周囲からは変わっている子として扱われ、学校ですこし浮いている成瀬あかり。
いろんなことに果敢に挑戦し、ブレずに自分の興味の赴くままに活動をつづけるその姿勢は、友人の島崎みゆきを心酔させる。
そこまで特異ではないあらすじなのだが、読んでみると、すごく新しい味がしておもしろいのだった。一日で、一気に読めてしまう。
成瀬の興味の矛先がいろんな場所に飛んでいって、ひとつだけではないから楽しいのかもしれない。
途中、M-1グランプリへの出場という非常に大きな関門があるのだが、これも物語の主題ではなかったりして、その雑多さが楽しい。
全部がM-1だったら、きっとこういう読後感ではなかっただろうな、と。
成瀬と島崎が歩く青春の道筋を、読者も一緒に歩みだす。
軽やかで、さわやかで、失敗を恐れない。
挑戦しても、その挑戦を成就させる必要などない。
ただ、やりたいことや、やるべきだと思ったことをひたすらする。ダメだったら、次は新しいことをする。その繰り返し。
この作品の時間設定がコロナ禍のさなかだということもあり、成瀬のそういうポジティブな姿勢に勇気づけられる。
自分も、失敗してもいいから、とりあえずやってみようと思える。そんな小説だった。畳む
#読書
2025年7月25日(金)
1861年に出版された、ひとりの奴隷の少女の自叙伝。
奴隷として生まれ、主人からさまざまな搾取を受け、差別や迫害に耐え、逃亡しながらも常に光を求めた女性、リンダ。
あまりにショッキングな内容から、長い間フィクションだと判断されていたが、実は筆名で書かれたノンフィクションだったという本だ。
リンダの前向きさに心打たれると同時に、人間が人間を買うことの残酷さや、「そうあって当たり前」である風潮のなかに根深い差別があることなど、令和だからこそ考えさせられる一冊だったと思う。
奴隷を奴隷として残酷に扱った人々は、決して全員が悪人であるわけではなかった。
そうすることが当たり前の常識であり、むしろそうしないことは紳士にふさわしくなかったことすらある。
逃亡生活のなかで、リンダは人の優しさと残酷さの両方に触れ、常にぎりぎりの状況の中、自分の尊厳を守るための究極の選択をしていく。
リンダに優しくしてくれた白人もいたし、リンダを奴隷狩りに差し出そうとした黒人もいた。その人の人間性と人種は直接は関係ない、ということがこれだけでもよくわかる。
人種ではなく個を見ること。どんな状況でも誇りを失わないこと。いつでも自分が正しいと思う選択をすること。
この一冊からなにを読み取るかは人によって違うと思うが、読むべき一冊であることは間違いない。
日本人は差別に無自覚な人が多いと思うのだけれど、今回の参院選の結果があんなふうだったことも踏まえて、自分が無自覚に差別を行っていないか、その足で誰かを踏みつけていないかを常に確認していく必要があると感じた。良書。畳む
#読書
2025年7月25日(金)
全巻激安セールみたいなイベントのときについつい買って、そのままになっていたりとか。
なにを思ったのか「ゴルゴ13」の序盤を少し買っていたり、これまでの人生でたぶんほとんど通っていない気がする(アニメはちょこちょこ見ていたけど漫画で読んだことがない)「地獄先生ぬ~べ~」の無印を全巻買ったり、懐かしの「破天荒遊戯」を買ったりと、ここ最近だけでもかなり買い物をしている。「彩雲国物語」のコミック版も買ったなあ。
漫画以外だと、ブギーポップマラソンも折り返し地点で休憩中だったり、バッカーノ!も買い直していたりする。
そろそろガッツリ整理して読み出したいな~と思うのだが、整理する機能があまりちゃんとしていなくて、どんどん埋もれていくのであった。
読むぞ!
#読書
2025年7月23日(水)
中学生~高校生のころにドハマリして、いろんなあだち充作品を読み漁っていたんだけど、濫読しすぎたせいか、内容についてはあまり覚えていなかったりする。
なんとなく、「H2」か「みゆき」が一番おもしろかったような気がする。
せっかくの解禁だし、買いたいなー。
#読書
2025年7月22日(火)
お笑い芸人として活躍しながら、介護の仕事をつづけていた安藤なつさんが、これまで経験した介護の仕事について語るコミックエッセイ。
介護は、過酷だったり、薄給だったり、つらいことばかりなのではないかというイメージがあるのだけれど、安藤さんはひとりひとりの利用者と丁寧に向き合い、コミュニケーションや介護の仕事そのものを楽しんでいる。
彼女の快活で誠実な人柄が伝わるエッセイで、晴れやかな気持ちになれた。
合間にあるコラムも読み応えがあって、いい本だと思った。
安藤さんのポジティブで優しい人柄のほうに目が行ってしまって、介護の仕事の内容よりも安藤さんのほうが印象に残ってしまうところが、欠点といえば欠点かもしれない。すごい人だ。
「デイサービスを幼稚園にしない」とか、介護する側だけではなく、される側の気持ちを思いやる姿勢の話が興味深かったなあ。
みんないずれは介護される側になるかもしれないわけで、そのときのために、介護される側の気持ちに沿った介護の形が徐々に完成するといいな。畳む
#読書
2025年7月14日(月)
殊能将之先生の膨大な読書量に圧倒されながら読んでいる。
殊能先生に限らないけれど、作家さんの読書日記やエッセイを読むと、そのインプット量に驚くことが多い。
やっぱり、質のいいアウトプットをするためには、人よりも広く、多く、なにかを見たり聞いたりしなきゃいけないんだろうなと思う。
アマチュアでもそれは基本的に同じで、うまい同人小説を書く人は、たくさんのジャンルの作品に触れていたり、一作品を深く分析したりしていることが多いという体感がある。
最近あまりインプットできていない気がするから、もっと頑張っていきたいなあ。
#読書
2025年7月11日(金)
猫と飼い主の関係性を追いかけていく、連作短編集。
ペットを題材とした小説って、安易な感動路線やほのぼの路線に回収されがちで、そういうものはあまり読まない。
これはヒリヒリする生と死にきちんと向き合っているお話で、好感度が高かった。
地域猫に餌をやることの是非、小さな命と向き合いながら暮らすことの意味。
それぞれの猫に、それぞれの飼い主との物語があるのだが、ただ幸せなだけの家庭はひとつもない。
人間たちがどんな苦難に見舞われようとも、猫はいつでもそこにいる。
そのことを確認して、涙が出そうになる。そんな小説だった。
#読書
2025年7月7日(月)
2025年7月6日(日)
パピレスの株主優待と夏のボーナスがきっかけで、漫画をひたすらまとめ買いしている。
気持ちよくまとめ買いするためには、完結済みの漫画を最後まで一気に買うのが一番自分に合っているなーと思う。
途中でちょこちょこ買い足すのが地味にストレスなので、一気読みがしたいときは、最後まで買えるのが理想的。
予算を計算しつつ、次は何を買おうか考えるのも楽しい。
#読書
2025年7月2日(水)
事故死や自殺の起きた物件に一ヶ月だけ住み、物件を浄化する不思議な仕事、〈ロンダリング〉。
心に傷を負い、たったひとりでロンダリングをつづけるりさ子。
物件を漂ううちに、りさ子は人の温かさに触れていく……。
傷ついた人の心がすこしずつ癒やされていく系の作品が好きなので、一気に読んでしまった。
特定のだれかのためにというよりも、狭いのに人があふれる東京という土地そのものをロンダリングで浄化しているという概念も好きだった。
続編もあるみたいで気になる。
#読書
2025年7月1日(火)
昨年は既読を調べるだけで終わってしまったため、今年はきっちり課題図書チャレンジもしていこうと思い、書店へと向かった。
まずは昨年同様、既読チェックから。
ルールとしては、短編集などで、表題作は読んでいるけど、他のを読んでいない場合は数えない。
読んだかどうかがうろ覚えな場合も数えない。
読んだけど内容を覚えていないのはセーフ。
訳者・バージョン違いなどもセーフ。
新潮文庫の100冊
1.杉井光「世界でいちばん透きとおった物語」
2.芦沢央「火のないところに煙は」
3.コナン・ドイル「シャーロック・ホームズの冒険」
4.ブレイディみかこ「ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー」
5.フランツ・カフカ「変身」
6.夏目漱石「こころ」
7.谷崎潤一郎「春琴抄」
8.中原中也「中原中也詩集」
9.サン=テグジュペリ「星の王子さま」
10.ドストエフスキー「罪と罰」
11.三島由紀夫「金閣寺」
12.吉本ばなな「キッチン」
13.ライマン・フランク・ボーム「オズの魔法使い」
14.湯本香樹実「夏の庭」
15.梨木香歩「西の魔女が死んだ」
16.森見登美彦「太陽の塔」
17.宿野かほる「ルビンの壺が割れた」
集英社文庫のナツイチ
1.恩田陸「スキマワラシ」
2.青崎有吾「早朝始発の殺風景」
3.乙一「夏と花火と私の死体」
4.三浦しをん「のっけから失礼します」
5.千早茜「透明な夜の香り」
6.谷川俊太郎「二十億光年の孤独」
7.夏目漱石「こころ」
8.サン=テグジュペリ「星の王子さま」
昨年より一冊多く、計25冊だった。
タイトルの入れ替わりがあったので減るかなと思ったけれど、意外と減らず。
「これ、たぶん読んだんだけどなあ……」というものは今年も多くて、でも絶対に読んだという記録が残っているもの以外は除外した。
「地獄変」「江戸川乱歩名作選」「堕落論」あたりはむかし読んでそうなんだけど、うろ覚えなので除外。
そして、今年は新たに購入本もあり。
・原田ひ香「東京ロンダリング」
・ライマン・フランク・ボーム「オズの魔法使い」
・安部公房「砂の女」
・恩田陸「夜のピクニック」
の四冊を購入。
オズの魔法使いのエメラルド色のカバーがどうしても欲しくて、うきうきしながら買いに行った。
他にも気になるタイトルがいくつかあるので、もし読破できたら、しおりをもらいがてら、また買いに行ってもいいかも。
#読書
2025年6月26日(木)
ミステリ界のエターナルコンテンツ、意外と待っていると来ることが多い。読みたいなあ。
城シリーズは中学生時代にドハマリしていたなあ。どれもおもしろい。
あとは、三途川理シリーズの続きが来てほしいな。そろそろ前作から10年近く経つのかぁ……。
#読書
凄まじい質量とぶっ飛んだ世界観で脳をぶん殴る、とんでもない小説。
後半はやや失速したかもしれない部分もあったけれど、着地点はすごく納得。
「男」という性的な加害をする存在、「女」という加害される存在……という対立の軸の中に、「では、『女』の下にもうひとつ性別があったら、どうなるか?」という思考実験の話だった。
ただ、それ以外にもテーマはいくつもあって、性別の話はその一部分でしかないのだけれど。
外国人差別、感動ポルノ、性差別、性加害などなど、さまざまな社会問題がごった煮となり、巻き起こるカオスのなかで読者も現実と向き合わざるをえない。
読み終わったあと、世界の見え方が変わる。
そんな小説だった。畳む
#読書